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この世界〈プロセシング・ワールド〉に来て一番驚いたのは、俺が元いた世界のアニメ文化が存在していた事だった。
なんでも古に転生して来た偉大なるアニメ文化を専業としていた狩人達が、自給自足の為に創作活動を続けたのが事の発端らしい。
彼等の作品に魅了された狩人達によって、アニメ文化は人族だけでなく異種族にも広まり現在も受け継がれている。
ジャンルは数十種類と豊富、クオリティは前世の頃と遜色ないレベルであり『漫画』『小説』『模型』『同人誌』などが一つの街を占める程に大人気コンテンツと化していた。
製品化を担っているのは、〈ウリエル・エリア〉の管理を任されている四大ギルドの一角。
小人族の超絶美少女リーダー、〈巨人要塞〉テルースを中心としたティターンギルド。
色々とツッコミ所のあるワードがあるけど、そこら辺は絶対に触れてはいけないタブーとされているので気にしてはいけない。
もしも本人の耳に届くような事があれば、首から下を地面に埋められる刑に処されるので。
国のトップに君臨するギルドと聞くと、何だか怖いイメージが真っ先に浮かんでしまう。
だけど創作に情熱を以って取り組んでいる人らしいので、他のギルドに比べるとテルースはまだ親しみを持ちやすい部類であった。
なんせ他の四大ギルドの美少女リーダー三人は、誰に聞いても色々とクセが強いことで有名だから。
──と、物思いに耽るのはここまでにしておこう。
聖女様と大きな門を通った俺は、この世界で築き上げられた懐かしき故郷に類似した景色に足を止めた。
ビルが立ち並ぶ現代日本の都市部みたいな風景、近くには迷子防止の為に案内版が設置されている。
異世界ファンタジーのこの世界では、とても違和感しかない景観だ。
だけどこうして見ているだけでも、何だか懐かしくて涙が込み上げてくる。
割り切ってはいてもやはり、心の片隅で前世に残してしまった家族達に未練があるからだろう。
けして言葉にする事の出来ない感動に棒立ちしていたら、
「す、すごいです! 本に描かれていたキャラクターの看板がいたるところに!?」
目を輝かせた聖女様が、目の前の景色に心の底から嬉しそうに自分の腕にしがみついてくる。
そんな事をされると胸が押し付けられて大変落ち着かないのだが、どうやら彼女は夢中になっていて全く気付いてない様子。
いつものように邪な感情を強い意思で抑えつけながら、気を取り直して彼女に本日のプランを聞いてみる事にした。
「オリビアさんがいつ戻ってくるか分からないし、先ずは聖女様が行きたいところに行きましょうか」
「そうですね! でしたらこの各店の詳細を記した手帳を見て──」
聖女様が取り出した手帳には、手書きで『この店のお手製フィギュア必見』『この店は恋愛漫画コーナーに力を入れてる』『この店の漫画料理は絶対に食べたい』とかそういった内容が事細かく、びっしりと書き詰められていた。
しかもジャンルと製品リストまで、付箋で綺麗に分かりやすくまとめている。
おお、これは凄い。しかも非売品の閲覧だけできる展示物までリサーチしているぞ。
中々の本気っぷり、これには血液A型の狩人も満面の笑顔で頷く事だろう。
正直に言って、オタクな自分でも感心してしまう程の入念な計画だった。
一方で勢いのままに見せてしまった聖女様は、少しびっくりした俺の顔を見てハッとなり我に戻った。
続いて輝かんばかりの笑顔は一瞬にして曇り、今まで見た事が無い程に真っ青になる。
その姿は例えるならば、今まで隠していたオタク活動が会社の人にバレてしまったような感じ。
思い出せば手紙の中で、こういった趣味に関しては一切話していなかった気がする。
基本的には応援するメッセージと、他には近況とか好きな食べ物とか嫌いな食べ物とかそういったやり取りしかしていない。
でも清楚な聖女様がガチオタクだと知っても、自分はまったくドン引きなんてしないしむしろ好感度が増したくらいだ。
「あ、いえこれは違うのです! 姉様方から聞いてピックアップしたものを書いただけで、わたくしは──」
「誤魔化す必要はないですよ、自分も聖女様の仲間ですから」
「仲間……ソウスケ様も、ニジゲン文化がお好きなんですか?」
「はい、ですから安心してください。聖女様の気持ちは凄く理解できます!」
安心させることを第一に、俺は彼女の同族である事を証明する手帳を取り出す。
チェックしている店は違うが、内容は聖女様の手帳に書いてあるのと大差はない。
ジャンルは違えどオタク仲間である事を知った彼女は、目を輝かせて手を握ってきた。
「う、嬉しいです! ソウスケ様に理解がある上にお仲間なんて!」
「自分も、聖女様が同士だったなんて感激です」
「そうと決まれば、早速店巡りを始めましょう。わたくしにソウスケ様の好きを教えて欲しいです」
「はい、よろこんで。自分にも聖女様の好きを教えてください」
自分でもびっくりする程、スラスラと思った事を口にすることができた。
これはきっと相手が、気心の知れた心優しい聖女様だからだ。
俺は彼女の手を優しく握り返すと、前世で夢の一つとしていた美少女とのデートを開始する事に。
「あ、でも一つだけ白状しても良いですか?」
「はい、なんでしょうか」
「実は自分、女性とデートするの初めてなんです」
「それなら全然問題ありません、むしろ安心しました!」
「どういう意味ですか、聖女様?」
安心したと言った聖女様は俺の手を力強く握って来ると、
「わたくしも、デートをするのは初めてなので」
世の男性全ての心を射抜く、最高の照れ笑いをした。
◆ ◆ ◆
ローブを纏い素性を隠している少女と、冴えない普段着の少年が手を繋いで歩く光景。
どこからどう見ても恋人にしか見えない上に、二人とも緊張している様子は見ている側も何だかドキドキさせられてしまう。
そんな青春している姿を、物陰から眺める二人のネコミミメイドがいた。
「にゃーんてこったい! まさか姫様のデート現場を目撃できるにゃんて!?」
「しかも手を繋いでるにゃん! こんな素晴らしきてぇてぇ現場、飲んでるブラックコーヒーが甘くなっちまうにゃんよ!」
許容量を軽くオーバーする『尊い光景』を目の当たりにて、二人は周囲の目も気にせず地面に転がって身もだえる。
脳裏にフラッシュバックしたのは、物心ついたばかりの幼いアウラが「ねえたまー」と呼んでくれていた思い出。
あの時から城の仕事とニジゲン文化だけに人生を費やして生きた、〈アース・メイド〉達には一つの大きな目的が生まれた。
それはいつか彼女とその子供の生活を、メイドという立場を利用し最も近い場所で見守る事。
なんせあんなにも美しいアウラから産まれるのだ、子供も絶対に可愛いに決まっている。
あわよくば子供から「おばあさまー!」と呼ばれたい。
忍ばせていたお菓子を渡して「だいすきー!」と言われたい。
そんな平穏で幸せな光景を思い浮かべただけで、二人は鼻血が止まらなくなりそうだった。
周囲を偶々通りかかった狩人達も、これにはドン引きである。
だがそんな外野の視線は、〈アース・メイド〉にとっては心底どうでも良かった。
押しと押しが絡む現場を観測する事は、ファンである彼女達にとって至福であり『人生』そのもの。
今気にしなければいけないのは周囲の有象無象ではなく、将来の幸せプランに必要不可欠な二人のデートを成功させる事。
「絶対に成功させないといけないにゃん、アスメイB!」
「余計なことはしないにゃん! だが邪魔者が現れたら全力で掃除するにゃんよ、アスメイA!」
〈アース・メイド〉略してアスメイAとアスメイBは、城で働いている時以上にやる気に満ちた表情でホウキを手に立ち上がる。
Sランク狩人のにじみ出る強い圧を受けた周囲の見物人たちは、身の危険を感じて慌ててその場から退避した。
「にゃはは、今ならメイド長すら倒せそうな気がするにゃん!」
「おい、フラグを立てるにゃ! 本当に来たらどうするにゃんよ!?」
「その時はにゃんが、ここは俺に任せて先に行け──ってしてやるにゃんよ!」
気配を完全に消した二人は、軽い小競り合いをしながら二人の後を追跡した。
なんでも古に転生して来た偉大なるアニメ文化を専業としていた狩人達が、自給自足の為に創作活動を続けたのが事の発端らしい。
彼等の作品に魅了された狩人達によって、アニメ文化は人族だけでなく異種族にも広まり現在も受け継がれている。
ジャンルは数十種類と豊富、クオリティは前世の頃と遜色ないレベルであり『漫画』『小説』『模型』『同人誌』などが一つの街を占める程に大人気コンテンツと化していた。
製品化を担っているのは、〈ウリエル・エリア〉の管理を任されている四大ギルドの一角。
小人族の超絶美少女リーダー、〈巨人要塞〉テルースを中心としたティターンギルド。
色々とツッコミ所のあるワードがあるけど、そこら辺は絶対に触れてはいけないタブーとされているので気にしてはいけない。
もしも本人の耳に届くような事があれば、首から下を地面に埋められる刑に処されるので。
国のトップに君臨するギルドと聞くと、何だか怖いイメージが真っ先に浮かんでしまう。
だけど創作に情熱を以って取り組んでいる人らしいので、他のギルドに比べるとテルースはまだ親しみを持ちやすい部類であった。
なんせ他の四大ギルドの美少女リーダー三人は、誰に聞いても色々とクセが強いことで有名だから。
──と、物思いに耽るのはここまでにしておこう。
聖女様と大きな門を通った俺は、この世界で築き上げられた懐かしき故郷に類似した景色に足を止めた。
ビルが立ち並ぶ現代日本の都市部みたいな風景、近くには迷子防止の為に案内版が設置されている。
異世界ファンタジーのこの世界では、とても違和感しかない景観だ。
だけどこうして見ているだけでも、何だか懐かしくて涙が込み上げてくる。
割り切ってはいてもやはり、心の片隅で前世に残してしまった家族達に未練があるからだろう。
けして言葉にする事の出来ない感動に棒立ちしていたら、
「す、すごいです! 本に描かれていたキャラクターの看板がいたるところに!?」
目を輝かせた聖女様が、目の前の景色に心の底から嬉しそうに自分の腕にしがみついてくる。
そんな事をされると胸が押し付けられて大変落ち着かないのだが、どうやら彼女は夢中になっていて全く気付いてない様子。
いつものように邪な感情を強い意思で抑えつけながら、気を取り直して彼女に本日のプランを聞いてみる事にした。
「オリビアさんがいつ戻ってくるか分からないし、先ずは聖女様が行きたいところに行きましょうか」
「そうですね! でしたらこの各店の詳細を記した手帳を見て──」
聖女様が取り出した手帳には、手書きで『この店のお手製フィギュア必見』『この店は恋愛漫画コーナーに力を入れてる』『この店の漫画料理は絶対に食べたい』とかそういった内容が事細かく、びっしりと書き詰められていた。
しかもジャンルと製品リストまで、付箋で綺麗に分かりやすくまとめている。
おお、これは凄い。しかも非売品の閲覧だけできる展示物までリサーチしているぞ。
中々の本気っぷり、これには血液A型の狩人も満面の笑顔で頷く事だろう。
正直に言って、オタクな自分でも感心してしまう程の入念な計画だった。
一方で勢いのままに見せてしまった聖女様は、少しびっくりした俺の顔を見てハッとなり我に戻った。
続いて輝かんばかりの笑顔は一瞬にして曇り、今まで見た事が無い程に真っ青になる。
その姿は例えるならば、今まで隠していたオタク活動が会社の人にバレてしまったような感じ。
思い出せば手紙の中で、こういった趣味に関しては一切話していなかった気がする。
基本的には応援するメッセージと、他には近況とか好きな食べ物とか嫌いな食べ物とかそういったやり取りしかしていない。
でも清楚な聖女様がガチオタクだと知っても、自分はまったくドン引きなんてしないしむしろ好感度が増したくらいだ。
「あ、いえこれは違うのです! 姉様方から聞いてピックアップしたものを書いただけで、わたくしは──」
「誤魔化す必要はないですよ、自分も聖女様の仲間ですから」
「仲間……ソウスケ様も、ニジゲン文化がお好きなんですか?」
「はい、ですから安心してください。聖女様の気持ちは凄く理解できます!」
安心させることを第一に、俺は彼女の同族である事を証明する手帳を取り出す。
チェックしている店は違うが、内容は聖女様の手帳に書いてあるのと大差はない。
ジャンルは違えどオタク仲間である事を知った彼女は、目を輝かせて手を握ってきた。
「う、嬉しいです! ソウスケ様に理解がある上にお仲間なんて!」
「自分も、聖女様が同士だったなんて感激です」
「そうと決まれば、早速店巡りを始めましょう。わたくしにソウスケ様の好きを教えて欲しいです」
「はい、よろこんで。自分にも聖女様の好きを教えてください」
自分でもびっくりする程、スラスラと思った事を口にすることができた。
これはきっと相手が、気心の知れた心優しい聖女様だからだ。
俺は彼女の手を優しく握り返すと、前世で夢の一つとしていた美少女とのデートを開始する事に。
「あ、でも一つだけ白状しても良いですか?」
「はい、なんでしょうか」
「実は自分、女性とデートするの初めてなんです」
「それなら全然問題ありません、むしろ安心しました!」
「どういう意味ですか、聖女様?」
安心したと言った聖女様は俺の手を力強く握って来ると、
「わたくしも、デートをするのは初めてなので」
世の男性全ての心を射抜く、最高の照れ笑いをした。
◆ ◆ ◆
ローブを纏い素性を隠している少女と、冴えない普段着の少年が手を繋いで歩く光景。
どこからどう見ても恋人にしか見えない上に、二人とも緊張している様子は見ている側も何だかドキドキさせられてしまう。
そんな青春している姿を、物陰から眺める二人のネコミミメイドがいた。
「にゃーんてこったい! まさか姫様のデート現場を目撃できるにゃんて!?」
「しかも手を繋いでるにゃん! こんな素晴らしきてぇてぇ現場、飲んでるブラックコーヒーが甘くなっちまうにゃんよ!」
許容量を軽くオーバーする『尊い光景』を目の当たりにて、二人は周囲の目も気にせず地面に転がって身もだえる。
脳裏にフラッシュバックしたのは、物心ついたばかりの幼いアウラが「ねえたまー」と呼んでくれていた思い出。
あの時から城の仕事とニジゲン文化だけに人生を費やして生きた、〈アース・メイド〉達には一つの大きな目的が生まれた。
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忍ばせていたお菓子を渡して「だいすきー!」と言われたい。
そんな平穏で幸せな光景を思い浮かべただけで、二人は鼻血が止まらなくなりそうだった。
周囲を偶々通りかかった狩人達も、これにはドン引きである。
だがそんな外野の視線は、〈アース・メイド〉にとっては心底どうでも良かった。
押しと押しが絡む現場を観測する事は、ファンである彼女達にとって至福であり『人生』そのもの。
今気にしなければいけないのは周囲の有象無象ではなく、将来の幸せプランに必要不可欠な二人のデートを成功させる事。
「絶対に成功させないといけないにゃん、アスメイB!」
「余計なことはしないにゃん! だが邪魔者が現れたら全力で掃除するにゃんよ、アスメイA!」
〈アース・メイド〉略してアスメイAとアスメイBは、城で働いている時以上にやる気に満ちた表情でホウキを手に立ち上がる。
Sランク狩人のにじみ出る強い圧を受けた周囲の見物人たちは、身の危険を感じて慌ててその場から退避した。
「にゃはは、今ならメイド長すら倒せそうな気がするにゃん!」
「おい、フラグを立てるにゃ! 本当に来たらどうするにゃんよ!?」
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