スキルゼロの欠陥転生~覚醒し聖女の婚約者として世界最強へと成り上がらん~

神無フム

文字の大きさ
28 / 36

27

しおりを挟む
 第二エリアを活動拠点にして一ヶ月が経過した。
 レベルを上げて倍近くなった報酬で、資金もそれなりに貯めることができた。
 そこで遂に半年間お世話になったボロ宿を引き払い、俺はアスファエルの紹介でお値段高めの宿に引っ越すことにした。

 大きな荷物は背負っている大きめのバッグと、腰に下げている相棒の剣だけ。
 半年間も活動していたのに荷物はこれだけなのは、自分が最低限の資金でやり繰りしていた証拠といえる。
 掃除を終えたらボロ宿の管理人である女性に最後、今まで世話になったお礼を伝えたら「上級狩人に成り上がりなさい」と嬉しくなるエールを貰った。

 強く背を押してもらい向かった新天地は、天使達が住む大聖堂の近くにあるマンション。
 そこは一日千セラフと、前住んでいたのと比較して十倍もするお値段だった。

 どうしてこんな高い場所に、活動拠点を変えようと思ったのか。
 本来ならば資金の大半は武器に使いたい所だったのだが、この世界はランクを上げなければ強い武器を扱う事はできない。
 レベルは200を越えて現在は280という状態、まだ上限に至るようすは無く一体いつFランクに上がれるのかは分からない。

 資金を貯める事を優先しても良かったのだが、そこでアスファエルから住む環境を良くすることを提案されたのだ。
 しかも前々から提案しようと思っていたらしく、俺の所持金に合ったオススメのリストまで取り出して。

「一ヶ月で三万セラフとか、数日前の自分なら有り得ない金額だな……」

 まるで高級ホテルのような外観をした施設に足を踏み入れると、スーツ姿の女性管理人が出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、カムイ様。この施設を管理するアメリアです」

「カ、カムイです。お世話になります!」

 お手本のようなお辞儀をする彼女に、つい前世の条件反射でこちらも頭を下げる。
 アメリアは営業スマイルで、早速予約している部屋に案内をしてくれた。
 自動で開閉するマンションの入り口を、何も考えずに彼女の後に続いて通ると、

「この出入口は王城の方々とか、登録をされている者しか出入りする事はできない特殊な結界が使用されているので、不審者とかに気を付ける心配はいりません」

「な、なるほど……」

 実に異世界っぽい説明を受けながら、俺達は十階の一番端っこの方にある部屋を目指す。
 部屋の前まで到着したら、そこで最後に書類にサインをして契約を済ませる段取りとなった。

 アスファエルの紹介だからなのか、それとも管理人さんが良い人なのか。
 出会ってから別れるまで、彼女は〈スキルゼロ〉が相手でも嫌な顔一つ見せることは無かった。
 サインを終えて渡した書類を手に、歩き去る背中を見送りながら俺は素直な感想を口にする。

「仕事のできる人って感じだったなぁ……」

 アレがキャリアウーマンというやつなのかと、思いながら今日から活動拠点となった新居に入る。
 前の1R部屋と違って今回は1LDKの広い空間なので、玄関に入ってすぐ目の前が部屋ではない。
 小さな廊下にはトイレと脱衣所、それと居間にダイニングルームの合計四つの扉がある。

 前世の記憶を刺激される懐かしい光景に、軽い感動を覚えながら一つ一つチェックをする事に。
 脱衣所、お風呂、トイレ、リビング、ダイニングルームにキッチン。
 どれも一人で扱うのには十二分過ぎる広さで、事前に購入していた家具がアスファエルのコーディネートによってオシャレに設置されている光景はセンス皆無な自分には絶対にできない事だ。

「これで月三万セラフとかお得過ぎないか? 後で実は三十万でしたとかならないよな?」

 そんな感じでビビっていたら、不意に玄関の方から軽快なチャイム音が鳴り響く。
 一体誰だろう、そう思いながらリビングから移動した俺は無警戒で玄関の扉を開いた。

 するとそこに立っていたのは、──なんと身を隠すローブを羽織った聖女様だった。

「せ、聖女様!?」

「いきなり押しかけてしまい、すみません。実は姉達から新居祝いを理由に家に押しかけろと言われて……」

「それは別に構わないんだけど、セキュリティは」

「それでしたら、わたくしは聖女なので全てフリーパスで入れます」

「なるほど、そういえば王城の人達は入れるみたいなこと言ってたな。……って、オリビアさんは? まさか一人で此処に?」

「オリビアは始祖様からの命令で今は〈フェスティバル〉に参加しています。ですから姉様の二人が護衛で来てくれました。今は趣味の本を買うためにニジゲン天国に向われましたが」

「あー、そういえば祭りは今日開始でしたね。俺には関係ないんで忘れてました……」

 早朝でノルマを終わらせて帰還する際、大集団の狩人達が遠征に向かっている光景を思い出す。
 貴重な祭りの体験と上級狩人達の戦いは是非とも見学したかったけど、残念ながら今の俺では足りないものが多すぎる。

 ちなみにニジゲン天国とは、〈ウリエル・エリア〉に漫画小説フィギュアなど様々なオタク文化を結集させた夢の地の名称だ。
 前世がオタクであった自分も一度は足を踏み入れたい場所なのだが、如何せん散財しそうな気がするので自主的に禁じている。
 ──と、いけないいけない。今はそんな事よりも来訪された聖女様の事に集中しなければ。

「自分も今来たばかりなので、取りあえず上がって下さい」

「は、はい! お邪魔します! それとこれはつい先程作ったチーズケーキです!」

「……ああ、いつもありがとうございます」

 手にしていたケーキ入りの箱を受取り、新品の来客用スリッパを出すと聖女様は慣れた動作で履き替える。
 しゃがむ動作とか一つ一つに品があるのは、流石は王族のお姫様といった感じ。

 先導してリビングに向かい、まだ誰も使った事のないソファーで休憩してもらう事にした。
 記念すべき最初の来客、ここは何としてもおもてなしを成功させたい。

 たしかキッチンには、アスファエルのアドバイスで色々と飲み物とか茶菓子が事前に用意済だったはず。
 飲み物は何を出すべきなのか、魔石で稼働する懐かしき形状をした冷蔵庫を開ける。
 中には『お茶』『果物ジュース』『コーヒー』など色々とある為に、どれをお出しするか悩んだ。

「すみません、聖女様は飲み物はなにが良いですか?」

「あ、わたくしもお手伝いします、なので!」

 婚約者である事を強調し、慌ててキッチンにやってきた聖女様は実に可愛らしい動作で隣に並ぶ。
 こうなっては仕方がない。二人で飲み物を選んで、茶菓子は聖女様が作ってきたチーズケーキを自分がナイフで二皿に切り分ける。
 そんな風に二人で共同作業を行っていると、何だか婚約者というより新婚の夫婦のように思えた。

 ──って、相手は聖女様だぞ。恐れ多すぎる!

 勢いよく頭を左右に振って雑念を払う。
 婚約者という関係は、自分の中にある力の副作用を対処する役割に付属したものだ。
 手紙だって毎日やり取りしていたけど、彼女のはファンレターみたいな内容で恋愛を意識してやっていたわけではないと思う。
 けして恋仲ではないと、浮かれないように自制心を強く持った。
 それから清らかな心を以って彼女を見た。

 ローブを脱いだ聖女様は、今日はいつもの専用の法衣ではなく清楚系コーデ。
 凄く似合ってるし可愛すぎて、先程の雑念が復活し余計に意識してしまう。
 こちらの視線に気付いて微笑む彼女に、心臓の鼓動は次第に大きくなっていく。

 しかも今は二人っきり、殺意を向けてくる邪魔なオリビアはいない。
 最近やたら出現するようになった欲望の悪魔が、『チャンスなのでは?』とささやいて来るのを俺は鋼の意思で無視した。

 ダメだダメだダメだ! うかつに手を出して嫌われたら元も子もないだろう悪魔め!

 自分自身と戦いながら用意を終えたら、ジュースとケーキを乗せたお盆を手にリビングへ。
 対面側に座ろうとしたら、聖女様が腕を掴みそれを止めた。

「婚約者なんですから、ピッタリ隣りが良いです!」

「は、はい……」

 有無を言わせない彼女の圧に負けて、一つのソファーに二人で腰掛ける事に。
 予算の都合で大きいのは買えなかったので、肩が触れる程にスペースに余裕はない。
 以前にも嗅いだことのある、聖女様の花のような香りに包まれて心臓の鼓動は大きくなる。

 ヤバい、すごくドキドキする。
 思えば婚約者だというのに、二人っきりの時間は今までなかった。
 これまで感じた事のない程の、甘酸っぱい雰囲気に悪魔のささやきがエスカレートする。
 俺は黙ってフォークを手に黙々と食べ進めケーキを完食、そのまま一気にジュースを飲み干す。

 洗い物をして、この気持ちを鎮めようと立ち上がろうとしたら、
 隣にいる聖女様に腕を掴まれて、立ち上がるのを阻止された。

「せ、聖女様……?」

「あの、実は本日ここに来たのには、一つ大事なお願いをしたくて……」

「お願いですか、それは一体なんですか」

 彼女には毎日お世話になっている。
 自分にできることなら、何でも叶えてあげたい。
 覚悟を胸に待っていると、この上なく可愛らしい上目遣いで聖女様は自身の願いを口にした。

「オリビアの目がない今日、ソウスケ様とニジゲン天国でデートをしたいのです!」

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...