スキルゼロの欠陥転生~覚醒し聖女の婚約者として世界最強へと成り上がらん~

神無フム

文字の大きさ
27 / 36

26

しおりを挟む
 エステルの為にも、力を制御できるように第二エリアで特訓を始めて数日が経過した。
 だが強大な力の流入は、まるで蛇口を全開にしたような感覚で一向に出力を押さえる事が出来ない。
 俺の〈英雄願望〉をトリガーとして発動する、この強大な力。
 大抵のパターンとして、こういうものは思いの丈で強弱が決まるのだが。

 朝からやっているというのに、まったく進展がなかった。
 防御に使用する黒いジャケットみたいなものは、勝手に生成されるので何の問題も無い。
 しかし剣に集める負の魔力は、いくら念じても集まる力の量が止まらず『媒体』に甚大なダメージを与えてしまう。

「うーん、困ったなぁ……」

 手に握る、鉄製のシンプルなデザインの剣を見下ろす。
 それはエステルの店で買った剣ではなく、他の店で新人鍛冶職人が試験で作ったワゴンセール品。
 安価な素材を使用している為に、武器のクオリティは彼の剣に比べると数段劣る。

 ゆえに先ほどのたった一秒間だけの発動で、剣身には既に大量の亀裂が入っていた。
 それを好機と判断してか、〈アッシュウルフ〉遠吠えで仲間を集め迫って来る。
 合計で十体の敵を見据えた俺は、再度力を発動して剣を横に振り払った。

 本来こんな安物で壊れかけている武器なんて〈アッシュウルフ〉の皮膚すら傷付けられない。
 だが漆黒を纏った剣は、目の前まで迫っていた狼達を全てまとめて真っ二つにする。
 目の前でモンスターの身体が崩壊し、全て光の粒子になると倒した自分に吸収されて経験値となった。
 続いて手にしている剣から、バキンと嫌な音が鳴り響く。

 今回も一秒間だけの瞬間的な発動をしたのだが、見ればワゴンセール剣は木っ端みじんになっていた。
 一回目は耐えても二回目では安物の剣は必ず壊れてしまう、この数時間の訓練で得たのはそんな貴重な経験だった。
 折れてしまった剣を見た俺は、胸中で小さな溜息を吐いた。

 ……これでもう何十本目なんだろう。そろそろソードデストロイヤーの二つ名を与えられてもおかしくはない。
 簡易的に作った大きな穴に、集めた破片と柄を丁寧に埋葬する。
 沢山の剣の墓の前で手を合わせた後、俺は少し離れた場所に設営されている休憩所に足を運ぶことにした。

「あの安物で一回ということは、エステルの剣なら三回までは耐えられるかな?」

 少し離れた所には草原地帯に似つかわしくない、まるで前世の世界にあったグランピングのような施設がある。
 半透明の大きなテントの内装は、まるで王族の一室をそのまま持ってきたような作りをしている。
 聖女様はその中で豪奢なソファーに腰掛けて、花瓶の中にある種に光を照射し花を育てていた。

 どうやらアレはスキルの特訓の一つらしく、花の成長度合いで常に適正の出力を継続して当てなければいけないとの事。
 力の瞬発的な切り替えと、それを常に継続しなければいけない事から相当難易度が高い事をしている。
 すごい人だと感心しながら、俺はテントを改めて見た。

 この施設は外部からは見えないように隠蔽効果が施されており、俺が手渡された王特製の魔石はその効果を打ち消すらしい。
 少し気後れしながらも中に入ると、適度な温度に保たれている室内にホッと一息を吐く。

 戻ってきた気配を敏感に感じ取った聖女様は、花を育てる作業を止めるなり「お待ちしてました!」と言って手招きをしていた。
 隣りでは依然としてオリビアが殺気を放っているが、多少は慣れてきた俺は緊張しながらもスルーして歩み寄り彼女の隣に腰掛ける。

「聖女様、すみません〈浄化〉をお願いします」
「はい、こちらにどうぞ!」

 目を輝かせて待ってましたと言わんばかりに、彼女は自身の丈が短いスカートから露出した色白の太腿を軽く叩く。
 恥ずかしがることなく熱烈なアピールをする聖女様に、俺は思わず苦笑いしてしまった。

「えっと、膝枕まではしなくても良いと思うんですが……」

「いえいえ、何度も力を使用して心身も疲弊しています。ですのでわたくしの膝でしっかりと休んでください」

「隣のメイド様が、物凄い顔をしているんですが……」

「大丈夫です、婚約者なので問題ありません!」

「あ、はい」

 有無を言わせない圧にあっさり負けて、腕を引っ張られた俺は半ば強引に寝転がされる。
 後頭部に柔らかい膝の感触を知覚しながら、こちらを見下ろす聖女様の笑顔にドキッとさせられた。

 か、可愛い。この角度で聖女様を見るのは、本当に心臓に悪い……。
 正に自分だけしか見ることのない究極の絶景に、危うく心臓が二度目の停止を迎えるかと思った。
 しかも彼女も羞恥心で、頬を赤くしているのがポイント高い。

 ……聖女様の膝枕とか、贅沢にも程があるだろ。

 本当に最近はアスファエルといい、何かと膝枕を美少女にされる機会が増えた気がする。
 前世ではこんな事一度もされた事がなかったので、嬉しさと恥ずかしさと色々な感情に胸の内側が一杯になる。

 目を開けていると、聖女様と視線があって凄く落ち着かないのでまぶたを閉じる事に。
 真っ暗な世界で考えるのは、この力を一体どうしたら上手く使いこなせるようになるのか。
 一向に糸口が見つからず、ただ買ってきた剣のストックを減らし続ける現状に少々焦りが生じる。

 あの下級狩人達には、偉そうなことを上から目線で思っていたのに。
 自分も結局は、力の使い方が対して変わらない──ド三流ではないか。
 でも彼等はスキルに対する思考を止め、レベル上げという最も分かりやすい方向に逃げた。

 だから難しいからと言って、絶対に考える事を止めてはいけない。
 考えるのを止めたら、その時点で上を目指すことはできなくなるのだから。
 今までもそうしてきたように、ひたすらどうしたらスキルを制御できるのか考え続けていると。

 聖女様の指が、頬に優しく触れてくる。
 華奢な指先から伝わってくるのは、温かい浄化の力。
 身体に浸透するように広がる力はいつもの様に外側から徐々に消すのではなく、負担を掛けないようにある程度区切ってから負の魔力を消していく。

「今回は蓄積量が少々多いので、少し時間が掛かりそうです」

「す、すみません。自分の為に手間を掛けさせてしまって……」

「お気になさらないでください、わたくしはソウスケ様とこうして一緒にいる時間を長く取れて幸せなのですから」

「聖女様……」

 心優しい彼女の言葉に、申し訳ない気持と同時に胸の内側が熱くなる。
 この時間を無駄にしない為にも、俺は彼女の浄化する技術に改めて意識を向け。

 ──もしかしたら、これならいけるんじゃないかと思った。

 今の自分は例えるならば、無条件で無制限に全周囲から力を集めている状態。
 そこにある一定の制限を設ける事ができれば、剣に過剰な負荷を与える事も無くなる可能性が高い。
 彼女の力の使い方を直に体感しながら、その極められた技術をしっかり見極める。
 数分間ほどの時間を掛けて浄化が終り、だいぶすっきりした俺は起き上がると、

「聖女様、ありがとうございます。おかげで次はできそうな気がします」

「どういたしまして。応援していますよ、ソウスケ様」

「はい、頑張ります!」

 この感覚を忘れない内にエステルの剣を手にテントから飛び出し、周囲にリポップした〈アッシュウルフ〉を見据える。
 今までの力の使い方はトリガーを引いた後に、津波の様に押し寄せてくる力を制御しようとしていた。
 でも既にフルスロットルの力を制御するのは、今までの経験上どうやっても不可能だった。

 ここで発想を変える必要があると、自分は先程の浄化の仕方から思いついた。
 周囲に満ちている力、これの範囲を無制限ではなく区切って集める事が出来ればいけるのではないか?
 頭の中にある、スキルに関する知識を再度思い出す。

 力を使うのに必要なのはイメージ、──想像力こそが力を御すのに最も必要な要素である。
 目を閉じ自分を中心に、周囲一メートルくらいを箱で外界から遮断する想像を。

 それから力のトリガーを引き、周囲の魔力を黒衣に変換し残った分を刃に集める。
 集まった負の魔力は剣を漆黒に染め、光を拒絶する魔剣へと変化させた。

 高負荷が掛かっている様子はない。
 コレならば、自分が思い描く通りに戦える。

 向かって来る〈アッシュウルフ〉達を見据えた俺は、我流の〈紅蓮王剣術〉を駆使して一体ずつ処理していく。
 二体、四体、そして最後の一体を両断した末に、負の魔力を解除して手にしていた剣を見下ろす。
 今まで力を使用した後は、必ず亀裂が入っていた剣身に今回は傷一つ無かった。

「……やった。やったやった成功したぞ!?」

 数日かけてようやく、大きな第一歩を踏み出す事が出来た。
 湧き上がる歓喜の感情に全身を震わせ、この成功を一番に伝えたくて聖女様の待つテントに向かった。

 この後にお祝いと称し聖女様から頬にキスをされた俺は、訓練相手に名乗り出たオリビアによって過酷な防戦に身を投じる事になるのであった。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...