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第二部 主と働く道 第一章 地上の妖魔

第百四十四話 新たな旅立ちの前に

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 妖民のエリアの帰り道は、定番イベント雑魚漢共の襲来もなく無事に戻る。

 そもそも俺自身がベルローゼさんの弟子として
知られており、更に妖魔は他者への関心が薄い。

 俺も妖魔らしいのだがその辺はよくわからないな。
 故郷も何処にあるかはわからないし、俺を捨てた者に興味などない。
 もしかするとその関心の無さが妖魔たる所以なのかも知れない。

 領域へ戻るとフェドラートさんとライラロさんが来ていた。

「それでね、ベルディスったら酷いのよ。私を檻に入れてね」
「それはいけませんね。きっと彼はあなたを檻に閉じ込めていたいと思う程お好きなのでしょう。
その場合は檻ではなく部屋へ導くべきでしたね」
「そうなのよ! あなた本当話がわかるわね。今度焼き菓子をご馳走するわね」
「いえお気遣いなく。その焼き菓子は是非ベルローゼへご持参ください」

 ……道端で何話してるんだこの二人は。

「あのー、お二人とも。よく来てくれましたね。
折角なのでルーンの安息所へどうぞ」
「おやルインさん。ちょうど今伺った所です。ライラロさんにばったりとお会いしましてね。悩みを聞いていたのですよ」
「ライラロさんの話は長くなりますので……さぁライラロさんも」
「ええ、それでね……あっ、ちょっとバカ弟子! 押さないでよいい所なのに!」

 俺たちはさっさと二人を案内する。

 巨木の中にはミリルにリルとニーメ、アルカーン、マーナとココットがいた。
 師匠とベルローゼさんは地下訓練場だろう。

 こちらは俺とメルザ、ファナ、サラ、パモにフェドラートさんとライラロさん。
 総勢十三人もいるのか。
 
 師匠とベルローゼさんを入れると十五名。カカシとルーが入れば
十七もメンバーがいる事になる。

 ニーメとココットとマーナはまだ戦えないが、ニーメは戦闘経験が
あるしマーナもただのぬいぐるみでいたくないらしい。
 ニーメにお願いして材料採取や自分で出来る事を模索している。

 ココットはココット用の武装を見つけないといけない。
 どこにあるか調べるのもあり、そこが次の目標地でもある。

 幻妖団メルのメンバーにフェドラートさんとベルローゼさんは入っていない
が、しばらくの間はゲストとして参加する。

 どちらもフェルス皇国の重鎮な上、どれほど強いのか未だに
俺でもよくわかってない。
 
メルザの怯え方を見る限り、フェドラートさんも強いんだろうな。

「それにしても女性方、お召し物が大変美しいですね。
メルザさん。その衣装で是非、挨拶を私に丁寧にしてみましょうか」
「えーっとこう裾を少しつまんで……ご機嫌です。先生!」

 自分の機嫌を表してどうする! 相手に対して使うんだよ! 

あ、フェドラートさんがすごい怖い笑顔になった。怖いよ。

「言葉遣いはさておき、洋服をつまんでお辞儀をしているだけではなく、膝を少し曲げ後ろに片足をわずかに
持っていきなさい。
義手の方は掴まなくても平気です。少し身体を横に傾け首もこう。
上目遣いになるよう……そうです! その姿勢です!」

 そう、喋り方はいいんだよ。可愛げがあるし。
 問題は女の子らしい仕草は時に必要って事なんだよね。

 普段はいいけどフェルドナージュ様の前で腕を組んで
えっへん! 
してたらいつか蛇に飲み込まれるだろう。

「そう言えばこの世界って学問や礼儀作法を勉強出来るような場所ってあるのか?」
「地底では各自好きなものを学んだりしていますから、あまり
学べる場所はありませんね。書物などは豊富ですしそれぞれ家業を継ぐものが
殆ど。武芸や術なども家独自の者が殆どですね。
妖魔は変わり者が多くて他者への関心が薄いですから」
「地上にはあるわよ。トリノポート大陸にはないけど。
それこそ前に話していた古代樹の図書館付近は
大がかりな教育を受けれる施設もあるわね。
この大陸の西にあるキゾナ大陸にあるわ」
「へぇ、面白そうだね。僕も行ってみたいなそこ」
「ここからだとカッツェルの町経由で最西端のロッドという港町
まで行く必要があるわね。そこから船で行けるけど。空は無理ね。
撃ち落されるわ。外界からの侵入に凄く警戒している地域だから」
「だいぶ危険な地域なのか? 実はニーメやマーナに勉強させて
やりたいんだよ。ここで算術を少し教えたが、あの年で
学べないのは
可哀そうだと思って。鍛冶の勉強も大事だけどね」
「そうだな。弟子の成長は鍛冶技術以外の面でも必要だ。
より精工な時計を作るための知識が必要不可欠だ」
「僕、学園っていうの興味あるかも。お兄ちゃんの教えてくれる数字
凄くわかりやすいし!」
「あんなやり方あり得ないわ。どこで覚えたのよ全く。
便利すぎるじゃない。商売人が青ざめるわよ」

 現世の算術は確かに進んでいる。数千年かけて培われた
計算法だしな。
 掛け算一つとってみても考え方の理念が違う。

「私も実に興味があります。古代樹の図書館とは、まさに知識が詰まった場所なのでしょう? 妖魔国以外に行ける機会は本来なら
十年に一度の機会。この領域は反則のようなものですからね。
ルインさんにはフェルス皇国一同感謝しておりますよ」
「安全ではないけど、これだけ大人が居れば平気でしょう」
「そうね。私やリルやサラはいつでも戦闘に出れるしね」
「じゃあ行くのは俺とメルザ、ファナ、リルとサラにニーメとマーナ。
パモとミリルとライラロさんとフェドラートさんにアルカーンさんかな? 
ルーはつれていけるのかな」
「ドラゴンは無理ね。パモも難しいわ。討伐されかねないもの。
マーナはぬいぐるみに見えるから多分平気だわ」
「ぱみゅ……」

 しょげるパモ。すまない……連れてってやりたいんだが。

「ルーがいけない以上わたくしもお留守番してますわね」
「師匠と先生は多分行かないよな。戦闘に夢中だろうし」
「そもそもベルディスはあの国出身よ。嫌いなのよ、あの場所」
「そうか、だから師匠は様々な方面に詳しいのか」
「そうよ、ベルディスは凄いの! それでね」
「あ、ちょっと師匠達に確認しに行ってきます」

 ライラロフラグを回避した俺は地下訓練場に行く。

「かっはー、やるじゃねえか。やっぱりつええ奴と戦うのは最高だぜ! 斧重殲撃!」
「そうだな。やりすぎるとここが壊れそうだが。妖黒星連彗星!」

「お二人ともー! 壊れますって! あきませんて!」

双方の技がぶつかり衝撃破が生み出される。
吹き飛ぶ俺。冗談じゃない! こんなとこにいたら俺は死ぬ。

「いいとこだ、邪魔すんじゃねえ! うぉおおおおお! 
風斗烈斬斧!」
「黒星の鎌」

 ちょ、それ、らめぇ! 

 爆風で地下の小屋が粉々になる。
 ニーメとムーラさんが作ってくれたやつが……なんて酷い事を。

「ふう、楽しめたぜ。ひとっ風呂浴びにいこうぜ」
「ああ、そうしよう」

「……二人ともこれどうするんですかー! ボロボロですよ!」
「ん? 最初からこんなもんだろ? それより何のようだ?」
「もういいです……ムーラさんに直してもらいます。
新技ぼこぼこ炸裂させないでくださいよ! 
それより俺達は古代樹の図書館まで行く予定なんですけど
お二人はどうしますか?」
「おれぁここに残る。ベルローゼとちょいと洞窟とやらに
行ってみるつもりだ」
「ああ、そちらはフェドラートがいれば十分事足りるだろう。
その洞窟とやらでアーティファクトが見つかるなら行ってみる価値は
ありそうだしな」

 フェルドナージュ様の仕事を考えるなら手分けして探した方がいいか。

「わかりました。準備にしばらくかかるので、旅立ちは三日後
辺りになると思います。いない間は領域をお願いしますね」
「任せておきな。そんじゃ温泉に行ってくるわ」

 少し不安を残し、俺たちはボロボロになった地下訓練場を後にした。
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