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第四章 シフティス大陸横断

第六百九十八話 出発前に頼み事

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 昨晩はビーたちを交え、歓迎の大宴会を開いた。
 今回の大陸横断で同行させてもらえないことに随分とご立腹だったビーだが、レナさんを
ちゃんとこの地になれるまで見守ってやるように言うと、口を紡いだ。
 それでもまだ不満そうだったが、この町にいる多くの仲間と広く交流していて
欲しい旨を告げると、ようやく納得してくれた。

「助けてくれたのは嬉しいが、俺はせっかくベリアルに貰った武器を、まだ活かせていない。
今後は死霊族とだって戦うかもしれないんだろ?」
「そうかもしれない。だが今回の目的は俺個人が引き受けてしまった依頼。
王女の声を戻すという意味もあるが、シカリーの協力は今後必ず必要となるだろう。
道中はアメーダと……プリマもいるから、こっちは平気だと思う」
「お前は直ぐ一人で無茶をする。残されてるやつらは気が気じゃないって事、忘れるなよ」
「ああ。わかってはいるんだ。だが今回はあまり大人数で行動できない。
皆にはかなり大変な作業もやってもらうことになる。それにメナスは人見知りも激しいし、傷ついてる。
長く一緒に同行したビーや、エーたちがフォローして馴染ませてやってほしいんだ」
「……わかったよ。その頼み方はずるいぜ。断れるわけがない。いいか、なるべく早く戻って来てくれよ。
その……ごにょごにょ……」
「ん? どうした?」
「何でもない! それじゃな!」

 何か最後ブツブツと言っていたがどうしたんだろうか。
 夜分に外で見回りをしてくれていた者から連絡があり、メイズオルガ卿を出迎えに行った。
 時間は既に深夜。これ以上疲弊させては申し訳ないので、明日の朝話す内容を伝えようと
したが、そちらも忙しいだろうと、詳しくはルジリト経由で話をしてもらうこととなった。
 コーネリウスは自分も連れていけとビーと同じ反応だったが、こちらはメイズオルガ卿が
王女同伴ということもあり、諫めた。

 コーネリウスへは訓練場を教えておき、不在時でもここで、俺の仲間と特訓することを許可した。
 今のコーネリウスの実力で言うなら……ジェネストには敗北するだろうな。
 

 ――――そして翌朝。
 きっちりと温泉に浸かり、体の万全さを確認してからルーンの安息所へと向かう。
 昨晩の騒ぎとは一変。まだ朝早い時間なのに、皆勢ぞろいしていた。

「お早うございます。主殿。凛々しい顔立ち。道中お気をつけて」
「ルジリト。全面的にお前に任せてしまっていてすまない。白丕が頼っていたのも頷ける采配だ。
四幻、それにエーやビー。ジェイク、レッジ・レッツェル。メナス、沖虎、彰虎。ナナー。
新たに加わった多くの仲間たち。皆、仲良くしてやってくれ。今回皆を連れていけない理由は話した通り。
少し旅に出る。次に戻って来たら子供が産まれる頃になる。こんなことを言うのは少し恥ずかしいが……皆で
見守って欲しい。それじゃ……」
「待て。俺も……連れてってはくれないか」
「……アルカーンさん。体はもう大丈夫ですか?」
「……ああ。俺は直ぐにでもリルを」
「ダメです。わがままは聞いてあげません。リルやカノンを心配しているのは皆同じです。
いくら兄弟だからって一人だけ優遇はしません。それに……」
「それに?」
「あなたにはお願いしたい事以外にも、役目があるんですよ。いいですか? これは負けたあなたに
対する支払うべき対価。今日からナナーとビュイを幼い妹と思い育ててください。両者ともに団子屋で仕事が
きまっていますが、教育はあなたが行うんです」
「何? しかし俺は……」
「おや? 約束は果たせぬと?」
「ぐ……わかった」
「ってことでナナー。ビュイ。よかったな。お前ら二人の新しい兄はアルカーンさんだ」
「兄なのか?」
「兄だ?」
「そう、兄ちゃんって呼んで何でも聞いてくれ。それじゃよろしく!」

 サラが少し心配そうにしている。
 今までの兄の事をよく知ればこそなのだろう……が。

「ルイン、ちょっとあれ、可哀そうじゃない?」
「ふふ。いいんだよあれで。俺はアルカーンさん程、兄弟愛に満ちたやつを知らない。
あれだけ刺激があれば、少しは考える時間も減るだろうし、ちゃんと風呂や食事もするようになるさ」

 早速アルカーンの裾を引っ張り、遊びを要求するナナーとビュイ。
 本当に座敷わらじみたいだな。

「あなた様。支度は完了しているのでございます。さぁ……」
「ああ。皆、行ってくる! こっちの事は任せたぞ!」
『おおーーー!』

 大きな皆の声に後押しされ、俺はプリマ、アメーダ、そしてパモを伴い、再びシフティス大陸へ出る泉へと
向かうのであった。
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