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第四章 シフティス大陸横断

第七百十三話 神風橋、中編

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 休憩を終えた俺たちは再び歩みを進める。
 ひとまず襲われる事は無かったが、ここより先はそうもいかないかもしれない。
 一体どんな困難が待ち受けているのか……気になるところだが、休憩中から
プリマの口数がやたらと少ない。腹が減ってしょうがないのかと思っていたが、顔色がとても
悪く見える。

「おいプリマ、平気か?」
「ん? 何がだ?」
「さっきから喋らないし顔色悪くないか」
「そんなこと無いぞ」
「……どうやらかなりしんどいようでございますね。アメーダは王女様に憑いているから
まだしも、プリマ様は憑いていないのでございます。死霊族へ与える悪影響を直に受けているので
ございます」
「憑依は苦手だからな」
「憑依すると楽になるのか?」
「だから平気だって。プリマは憑依なんて……」

 どさりと倒れるプリマ。
 慌ててピールが近づいて、プリマのほっぺを舐めるが反応がない。

「ったくしょうがねえな。ピール、乗せてやれるか?」
「クォン……」
「参ったな。俺が先導しないと神風でやられちまう。
どうだ、ルイン。お前さんそいつを背負ってくれねーか」
「ああ、そのつもりだ……おいプリマ。無理せずどうしようもなかったら
憑依ってのをやってもいいぞ」
「苦手だって言っただろ……何ともないのに力が入らない」
「大丈夫って言ってたのに、変なところで強がるなって。はぁ……無理して一緒に来なくても
よかったんだぞ」
「だって、プリマがあの町にいたってつまらない。お前以外に興味がないんだから」
「それはプリマが他のやつを知ろうとしてないだけだろう。俺の仲間は皆個性的で
楽しい。ちゃんと向き合ってみろ。俺もただ偉そうに言うだけじゃなく、お前と
向き合ってやるから」
「本当か? プリマはお前を殺そうとしたのに。それなら……ちょっとだけ、憑依してみるか……」

 プリマは突如形を変え、俺へと憑依を始めた。
 背筋がなんかぞくぞくする。
 それは憑依って言葉が前世のソレを連想させるからだろう。
 ……別に怖いのが苦手とかそういうんじゃない。
 ただ怖いってだけだ。そうに違いない。

「あれ? 普段うまくいかないのに、なんかうまくいったぞ?」
「相性がよかったのでございますね。おめでとうございます、プリマ様」
「やったぞ! ははっ。そうか、ルインの視界はこうなってたんだな。
ラングの力は使えるし、これでプリマも戦えるぞ!」

 あれ? 声が出せない。
 これはもしかして憑依されてる側は喋れないのか? 
 
「あー、あーー! あ、喋れた」

 突然プリマの声から俺の声に切り替わる。
 どんな仕組みなんだ、この憑依ってやつは。
 ジュディがかなり気味悪がっているのが見える。

「おい、一つの体で男声と女声を出すのはやめろ……」
「そうだぞ。プリマが憑依してる間はプリマが喋る!」
「いや、それはちょっと……」
「ふふふふ……面白い状態でございますね……っ! お気をつけて、何者かが
待ち構えているのでございます!」

 アメーダに静止され、ジュディが正面を向くと、橋の先、中央で
剣を一本前に構え、髪をポニーテールにしている子供のような男が
こちらを睨んでいるのが見えた。

「早速か……あれは神兵だろう。直ぐに襲ってこないってことはまだマシな
相手だろうな。さて、どうする?」
「出来る事なら……戦いたいぞ!」
「おい! だからそれ、やめろって!」
「プリマ、大人しく……暴れるぞ!」

 簡単に憑依なんてさせるもんじゃない。
 俺は改めてそう思った。
 調子が悪いプリマを担ぎながら戦うのは大変だろうと思ったが、もっと大変な状況に
なってしまったようだ。

 さて……この状況、どうしたものか。
 神兵と思われる男……見た所まだ十代のように見える。
 美しい黒髪を一本でまとめた、線の細い好青年といった雰囲気だが……目つきが
尋常じゃないほど悪い。
 どこぞの蛇使いに目をつけられた青年忍者のようだ。

「全員止まれ。この先に何の用だ? 今は大事な儀式の最中。
誰も通すわけにはいかない」
「そちらの言うところの儀式を邪魔するつもりは……ある! ……おい、あおってどうするんだ! 
そうじゃない。俺たちは何も……する!」
「儀式を邪魔する? 一体何の目的で……他国の破壊工作か」
「違うのでございます。我々は少々つまらぬ用事がございまして。邪魔をするつもりは
ないのでございます」

 ナイスフォローだアメーダ。
 今の俺はプリマの暴走を止められる気がしない。
 そのまま交渉を続けて……あれぇ? 

 気づくと俺は両手に黒い鎌を二本、握っていた。
 冗談じゃない! いきなり問答無用で戦闘するつもりか? 

「そっちの男はそのつもりがないように見えるが? いいだろう、そちらの男と一対一で相手をしてやる。
ちょうど退屈な見張りに飽きていたところだ」
「いいぞ。死霊族のプリマが相手をしてやろう!」

 盛大に喧嘩を売った。これはもう止めようがない。
 何でこうなるんだ……。

「何? 死霊族だと? ……ふっふっふ。はーっはっはっはっは! 
どうやらただのイキリだったようだな。この地で死霊族が相手になるとでも? 
くだらない冗談だ。そっちの女も死霊族か。もう一人は……無機人族か。
この先にどんなようかはしらんが、諦めて引き返すんだな。先に進んでも死ぬだけだ」
「通してくれるのか?」
「通りたければ勝手に通れ。俺が見張っているのはもっと厄介なモンスターや亜人種、魔族だ」
「……それじゃ遠慮なく……いくわけないだろう! プリマをバカにしたな! 
絶対許さないぞ、お前!」

 俺は勝手に二又の鎌を空中で振りながら構えだす。
 まるで体の言う事が聞かないが、怒りに我を失っているプリマの思考だけはわかる。

 もうこうなったらやるしかないか……さっさと終わらせて先に進ませてもらおう。
 
 しかし鎌か……まともに使った事がない武器だ。
 上手く扱えるのだろうか。
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