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第五章 親愛なるものたちのために

第七百六十四話 図書館の司書

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 鉱道を後にし、地図を見ながら今度は真反対方向にある図書館を
目指す。
 鉱道まではミットが案内してくれたおかげでスムーズに鉱道まで辿り
着く事が出来た。
 しかし帰りはなんとなくこっち……という方角で戻っているのだが、似たような外観の建物が
多く存在し、若干道に迷う。
 その間、周囲の人々を観察していたが、戦闘に長けていないような町民が殆どだ。
 つまりこれは戦闘する何かしらの集団がいる証拠だろう。
 俺の町だと、戦闘に長ける者が多い。ムーラさんだって戦う事ができる。
 といってもモラコ族を危険な目に合わせたくはないのだが……。

 それと、町中では魔族らしい魔族を見ていない。
 シフティス大陸には奴隷もいるという話を聞いて、少し治安を
心配していたんだが……この辺りにはいないのか? 
 前世の文明が発達した時代でさえ、奴隷商は存在した。
 人であるならば、隠しながらでも奴隷制度をもっていそうなものだ。
 人間は道筋を間違えると、途端に残忍、傲慢、怠惰で欲望に塗れる。
 割合として多いわけではないが、許されない行為を取る者も存在してしまう。
 それらも含めて人間であることは理解しているのだが、許せる行為ではない。

 しかし今のところ悪人のような外見の者は見ていない。
 ここらは治安が悪いわけではないようだが……ようやく商店が並ぶ
場所まで戻って来れた。
 先ほど受け取った鉱石類は、結局全てパモに預けた。
 貴重な石だし、なくすと困るからな。
 見覚えのある辺りまで来ると、地図を頼りに再び西へ歩いていく。

 ――図書館は西側へ少し進んだところにある大きな建物だった。
 ここまでは治安がいいと感じられたのだが、図書館より奥……もっと西の
方面は、明らかに空気が違う。

 ……区画分けされてるんだろう。ここから先は進まない方がいい。

 図書館内へ入ると、受付の女性司書が立っていた。
 驚く事に眼鏡をかけている。
 度が入っているなら、これも作られた事になる。
 
「受付をします。そこでぼーっと立っていられると迷惑です。こちらへ」
「あ、ああ……すまない」

 結構厳しい人だな。いわゆるジト目っていうやつか……こちらをじーっと見ている。
 受付の女性の前まで行くと、いぶかしんだ顔で見られる。

「こちらのご利用は初めてですね。失礼ですが入館証はお持ちですか?」
「いや。先にグレンさんから預かった本を返却したい。これなんだけど」
「……本来はご本人が直接返却すべきです。なぜあなたが代理を……少々お待ちください」

 受付は本と氏名を照らし合わせているようで、書類を確認している。
 すると少し顔色が変わった。

「失礼しました。バーニィ家の方だったのですね。お詫びいたします。
それでは入館証を」
「いや、持ってない。このブローチと、鉱道の人に渡す手紙しか」
「拝見してもよろしいですか?」
「ああ」

 ブローチと手紙を渡すと、ため息を一つ入れて、一枚の紙と書くための筆記具を渡された。
 この筆記具……やっぱり剣と馬のマークが入っている。
 
「ではこちらに氏名と、現在の宿を記入してください。部屋の名前もわかれば
記入を。同居している方がいればそちらも記入してください」
「……宿の名前はわかるが部屋の名前はわからないが……これでいいか?」
「確認します。宿は分け明かり、同居者はモジョコさんですね。
仮の入館証発行代金に金貨一枚。こちらは有効期限があります。
失くさないように大切に保管してください。お帰りになるまでに正式な入館証を
発行しますので、帰りに必ずお立ち寄りください」
「……随分と念入りなんだな」
「当然です。本一冊でも紛失すれば、大騒ぎですから。
借入の返却が無い場合は住所へ連絡員が伺います。住所が間違っていた
場合は最悪手配書が回りますからね。宿を利用されている場合は貸出禁止。
館内の一部を除いて書物の確認は自由。飲食などは一切禁止です」
「わかった。実はレオ殿からこちらで伝書の書物がどこにあるか聞けば
教えてもらえると聞いたのだが」
「伝書ですね。直ぐに確認します」

 あれ、場所を聞いたらさっきとはまるで表情が変わって生き生きしたな。
 司書だから、これがメインの仕事だし、本業は楽しいのか。
 こういった受付は本来司書役がやるより受付嬢などが適任なのだろう。

「C六ですね。そちらまでご案内しましょうか?」
「お願いしてもいいか? 助かるよ」
「いえ。仕事ですので」

 広い館内を案内してくれる司書。
 歩く音が一切しない。館内は静かにというお手本のようだ。
 俺も見習って音を立てないように歩く。

「こちらです。館内はお静かに。少し覗く程度なら構いませんが、立ち読みも
ご遠慮ください。
椅子は空いている場所をご自由に使っていただいて構いません。
汚さないようにしていただければ、掛ける布などもお貸しします。
もし寝てしまっていびきなどをかくようでしたら、容赦なくおいだしますからね」
「大丈夫だ。ありがとう……随分沢山あるな」
「伝書に纏わる項目は多いですから。それでは」

 司書は再び音を立てずに歩き、受付の場所まで戻っていった。
 ……完璧な司書というのは恐ろしいな。仕事に余念が一切ない。
 あの手のタイプは怒らせると大変だろうな……。
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