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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百二十八話 憤怒

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 俺はいつだって一人だった。 
 暗闇の中、むなしく聞こえる軽蔑の声。
 生かされてる。ただそれだけの存在。
 真っ暗な中考えるのは、僅かに見えていた前世のことばかり。
 面白い本を読んだり、好きなアニメを見たり。
 それも良く見えるわけじゃない。
 でも、楽しかった。
 誰かが作ってくれたものには、その人の思いが染み出てるから。
 自分もこうなれたらって感情移入しやすい。

 今の俺にあるものなんて、前世以下。
 もう一人自分が居れば、暗闇の中でも楽しかったのかもしれない。
 でも、その時は誰も居なかった。

 ずっとそう思ってた。

「お前は肝心なとき、居ない。お前に気付いたときは、お前のことが嫌いだった。どうし
てあのとき俺に話しかけてくれなかったんだって。どうして囁いてくれなかったんだって
……そう思ってた……」
「くっ……これはまずい! やはり戦うべきでは無かった! 光調の横断衝!」

 光が上空よりソレに浴びせられるが、何の効果も得られていない。

「収束した力で弾かない!? ここで、覚醒するのか。いや、まだ……完全ではない」
「ここで俺が負けたら、お前は二度と話してこない。役に立たないクズに用は無いって
呆れるだろ、お前。そうだよ、だから俺は……俺自身に怒りを覚える。装備頼りの馬鹿
野郎がってな!」
「……魔の深淵。一体どの系統の……いや、なり切れていないのは迷いか」

 観客から悲鳴が上がり、司会は何も告げられずにいた。
 ルイン・ラインバウトの背中からは浅黒い翼が生え、目は赤く光り、先ほど受けた腕の傷
は塞がっている。
 体は僅かに宙に浮き、三本目のレピュトの手甲が怪しく蠢く。
 所持していたカットラスなどの装備類は消滅。薄い布一枚しか身に着けていない。
 
「……くっ。何という威圧感。これは幻術主体で攻めるしか……燃紅蓮斗、双破!」
「ターフスキアー、ネオ。極氷塊のツララ」

 極大の燃え盛る幻術を撃ち放つメイショウ。
 にもかかわらず即座にそれを上回る氷の塊で相殺して見せるソレは、更に追撃の体制を図る。

「まさか幻術まであっさり消されるとは……しかし武器の無いあなたなら
術の勝負で片をつけることはできないでしょう」
「クルージーン・カサド・ヒャン……この形態に託したのか」
「あれは神話級アーティファクトか! これは、まずいですね。ですが引けない。今ここで止め
てみせる! 会場ごと吹き飛ばすつもりですか!」
「戻ったら、届けようと思っていた。それは俺と……ベリアルからの花となるはずだった。俺一
人じゃ渡せない。だから戻って来るように。俺自身の力であいつに送ろう。紫電清霜・二人静」

 暗く渋い紅紫色の分厚い斬撃が、禍々しさを持つ剣から一直線にメイショウへ発せられる。
 その斬撃は、斬られたものが気付かぬほどの速さで相手の懐を切り裂く。

「この、光調気を貫くとは……あなたの勝ちですよ……見事です。ですが、被害は、抑え……」
「いいや……俺の……失格、負けだ……」

 どさりと落下するルイン。血を噴き出して倒れるメイショウに、闘技場は騒然となる。
 慌ててシュイオン先生が飛び出し、両者を運ぶように指示した。
 直ぐに運ばれていく二人の選手。
 しかしイビンは冷静だった。

「ツ、ツイン選手。使用不可の装備使用により、反則負け……です。勝者はメイショウ選
手……生きて……生きてますよね。ライラロさん!」
「大丈夫よ。致命傷は避けてる。でも、あのバカ、危うく会場消し飛ばすところだったわ
……」
「どど、どうして……」
「さぁ。でも思い留まったようね。思い留まらせたと言った方がいいのかしら。危うく自
分で罪に苦しむとこだったじゃないの……」
「ちょっといいかしら。司会さん。わたくしに代わってもらえませんこと?」
「え? は、はい雷帝様」
「よろしい。えー、こほん。今の戦闘、わたくし雷帝ベルベディシアが説明して差し上げ
ますわ! 差し上げるのよ! 差し上げるのね。差し上げるに違いないのですわ!」

 ベルベディシアの突然の話に場内は静まり返る。

「先ほどの試合。どちらも負けですわね。わたくしはちゃんと見ていましたわ。あの
男……メイショウも最後にアーティファクトを使用したのだわ。それにあの男は恐ら
く、この国の女王と王女の命を狙っていたのですわ!」

 場内が騒然とした騒ぎとなる。

「それはどういうこと? 覚者と聞いたのだけれど。確かシフティス大陸の均衡を保
つために存在するのでしょう?」
「わたくしがこの国に肩入れした意味を理解し、暗殺しに来たのは彼ですわ。先ほど
のやり取りでわたくし、確信しましたの。わたくしは約束事は守りますわ。テンガジ
ュウ、女王と王女を守りなさい」
「え? でも俺これから試合……」
「汚いぞテンガジュウ! どうぞその役目、ベロアに!」
「ビローネも試合がぁ……」
 
 二人の意見が割れてしまう。
 この後の展開は、彼女を知る者であれば、答えはみえていた。

「それならば仕方ありません。わたくしが守ります……」
「雷帝自ら!?」
「くっ……ならば試合の賞とやらはこのベロアが見てやろう!」

 こうして雷帝ベルベディシアはなぜか、メルザを守る役目を雷帝本人から仰せつ
かったのだった。
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