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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百七十二話 タルタロスでありタルタロスで無い者との闘いその二

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「おいタナトスてめえ。ルインに何しやがった!」
「無理やり眠らせて溜めていたものを吐き出させた。ただそれだけさ。残り二分程。片付
くのかな」
「だえー」
「ちっ。プリマ、封印に戻っておくぞ!」
「いやだ! 一緒に戦うんだ!」
「よした方がいい。君、下手したら消滅するよ」
「いいから戻りやがれ!」

 無理やりルインの封印へと戻ったベリアルとプリマ。
 ベリアルが消えると地上へグングンと落ちていくが、構う様子は一切見られない。

「風臥斗」

 霧に一筋の風が吹き荒れると、霧の中へ沈んでいく。
 タナトスとヒューメリーは上空でただそれを見つめているだけだった。

「出来る限りの協力はしたよ、タルタロス。後は彼次第だ」
「だえー。本当にいいんだえ?」
「ああ。あの神と因縁を分かつのは彼の役目だろうからね」

「不幸の極み。魂の怨念を感じるぞ。ようやく手中に収めたのだ」
「誰を手に入れたって?」
「一宮水花の魂。どれ程欲しかったことか。魂の器を歪められたときは随分と焦ったもの
よ」
「お前が欲して捻じ曲げたのか?」
「否。これを捧げるのはもっと上の存在。前世も、そのまた前世も、そのまた前世も不
幸、不幸、不幸、不幸。不幸を不幸で重ね続けると魂はどうなるのか。その実験の果て。
ようやくこれで……」
「下らぬな。その結果貴様如きに補足されるような魂ではなくなったことに気付かぬと
は。この目は失われて久しいが、そのために見えぬものがよく見える。神としての存在
を抹消されてただの邪神に戻る貴様の姿がな」
「……それが最後の遺言か。霧に飲まれたこの状態。もう魂が溶けて取り込まれておるで
はないか」
「霧に塗れてよく見えないのか。ならみせてやろう……ラモト・ギルアテ!」

 青白い爆炎が周囲一帯にまき散らされ、巨大爆発を引き起こす。
 まるで何かに引火したかのように、霧は上空へと昇っていった。
 
「ばかな……何故魂が霧散する!?」
「そいつらはもうもぬけの殻。ベリアルの抜けた魂の半分は余りにも大きかったようだ。
この程度の魂では足りぬようだな」
「貴様、既に分離していたというのか!?」
「気付かなかったのか。さっき竜がいただろう? あっちがベリアル。俺は……ただの|一宮水
花《いちのみやすいれん》だ」
「ふざけおって。誰がそんな真似、出来る者……まさか、タナトスめが!」
「お前も目が見えてないんだな。気配を感じ取るのも弱いのか。いや、もしかしたら妖魔
に対して特別な何かを感じ取れるのか。霧神……いや、マガツヒよ。貴様は己の役割を越
えた神だろう。地底で何が起こったのか知らないが……」
「人間如きが神に立ち向かえるとでも思うておるのか!」

 再び姿を現したタルタロスは、両腕、両足共に霧で包まれ、その背後には恐ろしい邪神の
顔が映し出されていた。
 ルインはレピュトの手甲と併せて三本の剣を手にし、見えない目で攻撃対象を定め終わっ
ていた。

「意識がはっきりする……俺は元・人間だ。そう、俺はただの人間だった。ベルベディシア
の誌歌により思い出した。赤紫のような……人と魔。もう、ただの人間じゃないとな!」
「肉体などいらぬ! その魂のみをもらい受けるぞ、一宮水花よ!」
「リーサルレデク・ルージュ! 流星、エクスピアシオン贖罪の剣!」

 本体であるタルタロスの懐には一本の赤い剣が深々と突き刺さり、無数の斬撃が刻まれて
いた。
 タルタロスは微動だにせず、背後に映し出された恐ろしい霧神の姿が徐々に掻き消えよう
としている。
 一宮水花であるソレは、タルタロスに憑りついていたマガツヒという名の邪神を封印し
てしまった。
 
「な、ぜ……神を封印、出来……る」
「さぁな。貴様らが魂を弄び過ぎたせいで、狂っちまってるんだろう。それにしてもタナ
トスの奴。また意識を失うのかと思ったのに何とも……」

 マガツヒを封印した直後。
 ドクッという脈打つような動悸が全身を駆け巡る。
 グラグラとしながら地に経っているのがきつくなり、その場でルインは膝をつく。

「グ、アアアアアアアア!」
「……ヒュー!」
「だえーー!」

 ヒューメリーが急いで一宮水花へと液体を振りかけるが、その動きは止まらない。
 光剣ソフドを使い立ち上がると、もがき苦しみだす。
 
「なぜだ。これで上手くいくはずなのに! まさか……魂の器が停止していない? タル
タロス、目を覚ませ!」
「グ、ウアアアアアアアアアアーーー!」

 マガツヒが作動させたと思われる紫電級アーティファクト。
 それはタルタロスの触角部分から現れ上空へと浮かんだ。
 マガツヒが消滅すれば効果は止まるものだと思っていたタナトス。
 しかし――「実にいい戦いでしたよ。この常角のアクソニスがしかと見届けました。
ついでに試させて頂きます。紫電級アーティファクト、魂の器。地底で眠らせておくよ
うな代物では無い。これがあれば……ふふふ、さぞ王も喜ぶでしょうね」

 その存在はずっと隠れていたのかそれとも離れた場所で見定めていたのか。
 突如現れるその者は、大きな白くきらめく器を手に持ち、うっとりと佇み一宮水花の様子を
見降ろしていた。

「一体どうやって! それに触れることが出来るのは神か管理者だけのはずだよ!」
「誰が喋ってもいいといいましたか? この常角のアクソニスが許可を下していないという
のに。まぁいいでしょう。簡単な答えです。神の手をもぎ取って使えばいいだけのこと」
「なっ……地上の神を使役してるとでもいうのか?」
「常角のアクソニスがもぎ取って使っていると言っているのです。それだけ分かれば十分で
しょう? 時期にその者の魂が消滅するのですね。さぁ早く、早く見せなさい」
「爆輪! やらせないよ!」
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