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5章
天つ狐の仕事④
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天狗の仕事は主に自分が配属されたエリアの監視と警備。
千堂はそう教えてくれた。
「さっきの話なんだが、俺の烏ならもう貸してやっているだろう?」
「それなんだけどさ、都市伝説の活動範囲広がっちゃっているんだよね。だから今の数じゃあちょっと足りないかなぁってさ」
「ふむ、ならば仕方ないな」
「あ、あの! ちょっと!!」
目の前で話し続ける二人に対して朝田はたまらず声をかけた。流してしまいそうになったが、監視されていたという部分はどうしても聞き逃すことは出来なかった。
「僕のことを監視してたっていつからですか?!」
「だから3年前だって」
「なんで監視してたんですか?!」
「だってお前も妖怪だろ」
「どこまで見ていたんですか?!」
矢継ぎ早に質問を繰り出す朝田に対して、元々答えを用意していたかのように有馬は答えていく。しかし、最後の質問に対しては少しだけ考える素振りを見せる。
「……黒木花純は、いい娘だな」
「デートの時はちゃんとエスコートしなきゃダメだよ、朝田くん」
有馬に続いて、千堂は笑いをこらえながら言う。この前出かけたときか。なるほど、3年間プライベートはなかったらしい。朝田は大きくため息をついた。
「まぁ、俺は見ているだけだ。
それに建物の中までは見ていないから安心しろ」
「安心できませんよ……」
「そうだぞ、英彦。朝田くんの家の前にも烏を配置しているだろう」
朝に千堂が外を気にしていたのはそういうことだったのか。これからはちゃんとカーテンを閉めようと朝田は誓う。
「兎に角だ、俺の目を貸すことは承知した」
「ありがとう、英彦!」
「では、監視にかかったらすぐ連絡をするようにしよう。
陽、お前も気を付けろよ」
監視の目が強化されるということは怪人にとっては最大の嫌がらせになると千堂は言った。都市伝説は『見られる』『知られる』ということを嫌う。監視から逃れようとすれば行動に制限がかかり、追い詰めるのが容易になるのだと説明を加える。
「それでは、またな」
有馬は二人を庭まで見送ってくれた。驚きはしたが、縁が切れたと思っていた師匠がずっと見守ってくれていたという事実には少し嬉しさを感じる。だが、言うことは言わないと。
「師匠、家の前の烏はやめてください!」
「あぁ、悪かったな」
有馬は朝田の頭をポンポンと撫でた。昔から何かあるとこの人は頭を撫でてくれた。無表情で不器用な有馬の精一杯の優しさの表現だったのだろう、このやり取りにも懐かしさを感じる。
有馬に別れを告げ、道に出る。
その時、朝田は息苦しさを感じる。これは前にも二度感じたことがある。
誰かが後ろからついてきている。
隣を歩く千堂は、千堂は……?
気が付くと千堂がいなくなっていた。
「違う。これは……」
朝田はすでに何が起こっているかを理解していた。
後ろからひたひた、と足音が近づいてくる。
朝田は大きく深呼吸をするとその場に立ち止まり、後ろを振り向く。
「お? 今回は逃げなくていいのか?」
「逃げても無駄だろ」
後ろには『木曜日の怪人』が立っていた。
「なぁ、今日は木曜日じゃないぞ」
「まぁまぁ、つれないことを言うんじゃないよ。
せっかく会いに来てやったのにさ」
怪人は鉈を構える。よく見ると固まった血が付いている。
一体何人の人を斬っているんだろうか。
「木曜日の怪人っていうのはさぁ、木曜日だけ活動できるって意味じゃない。
木曜日以外は目撃者を残さない、だけなんだよ」
今日ここで襲ってくる意味を朝田は理解する。
「羊男、お前らがいると俺はこれ以上強くならないようなんだよ」
「だからといって、簡単に殺されるわけにはいかない」
怪人は鉈を大きく振るう。朝田は寸前でその切っ先を避け、相手に向かって走った。そのままの勢いで怪人の顔面に目掛けて拳を振り抜く。
「いやぁ、そんな焦るなって」
完全に捉えたはずだった拳は空を切った。朝田の後ろから声がする。
「俺を倒そうと思わないようにな」
怪人は背後からその鉈を振るってくる。死角からの攻撃だが殺意が駄々洩れだ。朝田は身を捻り、躱す。
正面に捉えようとしてもその度に怪人は朝田の背後に移動してしまう。木曜日の怪人は背後から迫る。
師匠のしごきに感謝しなければな、これならまだ避け続けることが出来る。
だが怪人の動きを止めなければ、いずれ朝田の方が力尽きてしまうだろう。
「良い反応だな、だがこれはどうかな?」
怪人はどこからともなくもう一つの鉈を取り出す。二対の鉈を構えた怪人は次の瞬間、朝田の目の前から消える。
左右からの殺意、一方はまともに受けてしまう。
朝田は痛みにぐっ、と声を出す。
「お、やっと当たったな」
いつの間にか目の前に怪人が立ち、二つの鉈を叩き合わせている。
金属同士がぶつかる音が辺りに響き渡る。
「お前、なんで羊頭にならないんだ?」
「意味がないからだよ」
羊男になっても意味がない。ただ変身するだけだ。
最初に姿を見られている以上は変わる必要がないのだ。
「あん? お前気付いてないのか?」
怪人が意外そうな声を出す。
まぁいいや、と呟いて怪人は朝田に近付いてくる。
ひたひたひた、と足音が耳にまとわりつく。
前から、後ろから、あらゆる方向から。
「じゃあな、先輩」
その時、烏が怪人目掛けて飛び込んできた。
一羽が怪人に触れるとその後何羽もなだれ込んでくる。
「なんだこれはぁ」
朝田も目の前で起こっていることを茫然と見守るしかなかった。
怪人が鉈を振り回して烏を追い払っている。
「また邪魔が入ったな。
やっぱりあいつが言ったように木曜日じゃなきゃダメか」
舌打ちを残して、怪人は霧のように消えてしまった。
千堂はそう教えてくれた。
「さっきの話なんだが、俺の烏ならもう貸してやっているだろう?」
「それなんだけどさ、都市伝説の活動範囲広がっちゃっているんだよね。だから今の数じゃあちょっと足りないかなぁってさ」
「ふむ、ならば仕方ないな」
「あ、あの! ちょっと!!」
目の前で話し続ける二人に対して朝田はたまらず声をかけた。流してしまいそうになったが、監視されていたという部分はどうしても聞き逃すことは出来なかった。
「僕のことを監視してたっていつからですか?!」
「だから3年前だって」
「なんで監視してたんですか?!」
「だってお前も妖怪だろ」
「どこまで見ていたんですか?!」
矢継ぎ早に質問を繰り出す朝田に対して、元々答えを用意していたかのように有馬は答えていく。しかし、最後の質問に対しては少しだけ考える素振りを見せる。
「……黒木花純は、いい娘だな」
「デートの時はちゃんとエスコートしなきゃダメだよ、朝田くん」
有馬に続いて、千堂は笑いをこらえながら言う。この前出かけたときか。なるほど、3年間プライベートはなかったらしい。朝田は大きくため息をついた。
「まぁ、俺は見ているだけだ。
それに建物の中までは見ていないから安心しろ」
「安心できませんよ……」
「そうだぞ、英彦。朝田くんの家の前にも烏を配置しているだろう」
朝に千堂が外を気にしていたのはそういうことだったのか。これからはちゃんとカーテンを閉めようと朝田は誓う。
「兎に角だ、俺の目を貸すことは承知した」
「ありがとう、英彦!」
「では、監視にかかったらすぐ連絡をするようにしよう。
陽、お前も気を付けろよ」
監視の目が強化されるということは怪人にとっては最大の嫌がらせになると千堂は言った。都市伝説は『見られる』『知られる』ということを嫌う。監視から逃れようとすれば行動に制限がかかり、追い詰めるのが容易になるのだと説明を加える。
「それでは、またな」
有馬は二人を庭まで見送ってくれた。驚きはしたが、縁が切れたと思っていた師匠がずっと見守ってくれていたという事実には少し嬉しさを感じる。だが、言うことは言わないと。
「師匠、家の前の烏はやめてください!」
「あぁ、悪かったな」
有馬は朝田の頭をポンポンと撫でた。昔から何かあるとこの人は頭を撫でてくれた。無表情で不器用な有馬の精一杯の優しさの表現だったのだろう、このやり取りにも懐かしさを感じる。
有馬に別れを告げ、道に出る。
その時、朝田は息苦しさを感じる。これは前にも二度感じたことがある。
誰かが後ろからついてきている。
隣を歩く千堂は、千堂は……?
気が付くと千堂がいなくなっていた。
「違う。これは……」
朝田はすでに何が起こっているかを理解していた。
後ろからひたひた、と足音が近づいてくる。
朝田は大きく深呼吸をするとその場に立ち止まり、後ろを振り向く。
「お? 今回は逃げなくていいのか?」
「逃げても無駄だろ」
後ろには『木曜日の怪人』が立っていた。
「なぁ、今日は木曜日じゃないぞ」
「まぁまぁ、つれないことを言うんじゃないよ。
せっかく会いに来てやったのにさ」
怪人は鉈を構える。よく見ると固まった血が付いている。
一体何人の人を斬っているんだろうか。
「木曜日の怪人っていうのはさぁ、木曜日だけ活動できるって意味じゃない。
木曜日以外は目撃者を残さない、だけなんだよ」
今日ここで襲ってくる意味を朝田は理解する。
「羊男、お前らがいると俺はこれ以上強くならないようなんだよ」
「だからといって、簡単に殺されるわけにはいかない」
怪人は鉈を大きく振るう。朝田は寸前でその切っ先を避け、相手に向かって走った。そのままの勢いで怪人の顔面に目掛けて拳を振り抜く。
「いやぁ、そんな焦るなって」
完全に捉えたはずだった拳は空を切った。朝田の後ろから声がする。
「俺を倒そうと思わないようにな」
怪人は背後からその鉈を振るってくる。死角からの攻撃だが殺意が駄々洩れだ。朝田は身を捻り、躱す。
正面に捉えようとしてもその度に怪人は朝田の背後に移動してしまう。木曜日の怪人は背後から迫る。
師匠のしごきに感謝しなければな、これならまだ避け続けることが出来る。
だが怪人の動きを止めなければ、いずれ朝田の方が力尽きてしまうだろう。
「良い反応だな、だがこれはどうかな?」
怪人はどこからともなくもう一つの鉈を取り出す。二対の鉈を構えた怪人は次の瞬間、朝田の目の前から消える。
左右からの殺意、一方はまともに受けてしまう。
朝田は痛みにぐっ、と声を出す。
「お、やっと当たったな」
いつの間にか目の前に怪人が立ち、二つの鉈を叩き合わせている。
金属同士がぶつかる音が辺りに響き渡る。
「お前、なんで羊頭にならないんだ?」
「意味がないからだよ」
羊男になっても意味がない。ただ変身するだけだ。
最初に姿を見られている以上は変わる必要がないのだ。
「あん? お前気付いてないのか?」
怪人が意外そうな声を出す。
まぁいいや、と呟いて怪人は朝田に近付いてくる。
ひたひたひた、と足音が耳にまとわりつく。
前から、後ろから、あらゆる方向から。
「じゃあな、先輩」
その時、烏が怪人目掛けて飛び込んできた。
一羽が怪人に触れるとその後何羽もなだれ込んでくる。
「なんだこれはぁ」
朝田も目の前で起こっていることを茫然と見守るしかなかった。
怪人が鉈を振り回して烏を追い払っている。
「また邪魔が入ったな。
やっぱりあいつが言ったように木曜日じゃなきゃダメか」
舌打ちを残して、怪人は霧のように消えてしまった。
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