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6章
羊男の狼退治①
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日曜日。
朝田は病院の近くのファミリーレストランに呼び出された。
呼び出し主は千堂。あの人まだいるんだ、と素直に思う。
「おーい、こっちだよ!朝田くん」
店の中に入ると千堂が手を振って出迎えてくれる。
その横には有馬の姿があった。
「千堂さん、師匠……こんにちは」
おう、と有馬から返事が返ってくるが、朝田は奇妙な感覚に囚われる。朝田が通っていた時、有馬と食事をすることはほとんどなかった。だからファミレスにいる姿なんて想像したこともなかったし、実際にいる姿を見ても違和感が大きい。
千堂と有馬は二人で並んで六人掛けの席のソファー側に座っていた。こっちこっち、と千堂に誘導され二人の目の前に座る。なんだか面接をされているような気分になる。
「えっと、まだ誰か来るんですか?」
「うん、そうそう。もうすぐ来るよ」
千堂は立ち上がって店の外を見始めた。その横で有馬は珈琲を静かに飲んでいる。この二人はなんだか対照的だなと朝田は思った。千堂は兄弟みたいなものと言っていたがイメージは全く湧いてこない。
「あ、来た」
千堂が嬉しそうな声をあげる。朝田が振り向いて見るとそこには花純と梅香が立っていた。花純が朝田の姿に少しだけ微笑み、頭を下げる。
「こんにちは。今日はご招待ありがとう」
「梅香さん、元気そうで何より!」
梅香の皮肉交じりの言葉に千堂は明るく返す。皮肉に全く気が付かなかったようだ。この二人も知り合いだったのか、妖怪のネットワークは意外と狭いのかも知れない。
「なんなのよ、このメンバー。
それに有馬さんが出てくるなんて珍しいわね」
梅香も有馬のことを知っているようだ。前に梅香が言っていた堂森の飲み会繋がりだろうか。有馬がそういう場所に出ていくことは想像しにくいが。
「よし、全員揃ったな。話を始めようか」
有馬は自分が飲んでいた珈琲を置いて、全員を見渡す。その言葉にメニューを配っていた千堂が動きを止めた。梅香はこらえ切れず吹き出す。
「有馬、ちょっと待って。まだ、まだ早いよ」
「有馬さんは相変わらずマイペースねぇ」
む、と呟いて有馬は再度珈琲に手をかけた。この三人は元々知り合いだったようだ。三人の間を流れる空気はかなりの昔馴染みといった雰囲気が漂っている。朝田は有馬のことをマイペースで天然な人だと思っていたが親しい人から見てもそうなんだろう。
注文を終えると有馬はようやく話し始めることが出来た。
「今回の通り魔騒ぎのせいで陽、花純さん、そして隣に入院している七海くんが狙われている。だが、本来はこの都市伝説は人を殺したりする類のものではない」
通り魔の噂は襲われた本人がその恐怖を語らなければその脅威が伝播するものではない。昔に比べると現代人は恐怖や刺激に耐性が付いている。誰かが襲われたとか誰かが殺されたという話だけでは実感が薄く、あまり都市伝説の力にはならないという。
だからその恐怖を本人に伝えさせる必要がある。襲われて本人が語る話が一番純度が高い栄養になるそうだ。だから怪人は元々、人を殺すことを想定していない。
「あ、あの、じゃあなんで私を通り魔は殺したんですか?」
有馬の話に花純が疑問の声を上げる。言葉だけを聞くと、花純は相当におかしなことを聞いているようだ。だが、確かに朝田の前で消えてしまった花純の身体についていた傷は明らかに致命傷だったように思う。
「花純さんのその身体は梅香さんが作ったものなんだよね?
多分、怪人から見るとそれは人間としてカウントされてないんだと思う」
有馬に代わって千堂が答える。その答えに花純は複雑な表情をする。
「話を戻すぞ。
だからあの都市伝説に対しては、お前たちだけが命の危険性がある」
朝田も七海も怪人が人を襲うところを見ている。
だから狙われるのだと有馬は指摘した。
「だが、黒木の妹。君は気付かれなければ危険はないと思う」
花純の存在は怪人が異質なものと考え、処分したと考えていると言う。都市伝説自体に姿を見られることがなければ、先ず安全だろうと有馬は言った。
「そう、それは良かった……
けれど、朝田くんたちはどうなるの?」
「何もしなければ、消されるだろうな」
「特に七海くんが危ないんだよね」
都市伝説はそれを知っている人、噂をする人が増えれば増えるほど活動範囲が広がっていく。今はまだ七海が入院している病院は範囲外のようだが、それも時間の問題である。
「七海くんはまだ十分に動くことが出来ないからね。
早めにどうにかしないと……」
「あいつの能力は1対1の空間を作ることだ。
一度襲われれば、助けたり守ったりすることは出来ないだろう」
もう外に出なければ大丈夫というものではないようだ。
朝田自身も有馬の家の近くで襲われたことを花純と梅香に話す。
「そこで、だ。
一つ提案がある」
「え? 私??」
有馬が梅香を真っすぐと見る。
梅香はその視線に気付いて、千堂と有馬を交互に見ている。
怯えるばかりの羊では狼に喰われてしまう。
有馬は昔、朝田に何度かそう教えてくれた。
喰われる前に喰え、そんなことを言っていたことも思い出す。
嫌な予感がする。
その日の夜、七海は病院から消えた。
朝田は病院の近くのファミリーレストランに呼び出された。
呼び出し主は千堂。あの人まだいるんだ、と素直に思う。
「おーい、こっちだよ!朝田くん」
店の中に入ると千堂が手を振って出迎えてくれる。
その横には有馬の姿があった。
「千堂さん、師匠……こんにちは」
おう、と有馬から返事が返ってくるが、朝田は奇妙な感覚に囚われる。朝田が通っていた時、有馬と食事をすることはほとんどなかった。だからファミレスにいる姿なんて想像したこともなかったし、実際にいる姿を見ても違和感が大きい。
千堂と有馬は二人で並んで六人掛けの席のソファー側に座っていた。こっちこっち、と千堂に誘導され二人の目の前に座る。なんだか面接をされているような気分になる。
「えっと、まだ誰か来るんですか?」
「うん、そうそう。もうすぐ来るよ」
千堂は立ち上がって店の外を見始めた。その横で有馬は珈琲を静かに飲んでいる。この二人はなんだか対照的だなと朝田は思った。千堂は兄弟みたいなものと言っていたがイメージは全く湧いてこない。
「あ、来た」
千堂が嬉しそうな声をあげる。朝田が振り向いて見るとそこには花純と梅香が立っていた。花純が朝田の姿に少しだけ微笑み、頭を下げる。
「こんにちは。今日はご招待ありがとう」
「梅香さん、元気そうで何より!」
梅香の皮肉交じりの言葉に千堂は明るく返す。皮肉に全く気が付かなかったようだ。この二人も知り合いだったのか、妖怪のネットワークは意外と狭いのかも知れない。
「なんなのよ、このメンバー。
それに有馬さんが出てくるなんて珍しいわね」
梅香も有馬のことを知っているようだ。前に梅香が言っていた堂森の飲み会繋がりだろうか。有馬がそういう場所に出ていくことは想像しにくいが。
「よし、全員揃ったな。話を始めようか」
有馬は自分が飲んでいた珈琲を置いて、全員を見渡す。その言葉にメニューを配っていた千堂が動きを止めた。梅香はこらえ切れず吹き出す。
「有馬、ちょっと待って。まだ、まだ早いよ」
「有馬さんは相変わらずマイペースねぇ」
む、と呟いて有馬は再度珈琲に手をかけた。この三人は元々知り合いだったようだ。三人の間を流れる空気はかなりの昔馴染みといった雰囲気が漂っている。朝田は有馬のことをマイペースで天然な人だと思っていたが親しい人から見てもそうなんだろう。
注文を終えると有馬はようやく話し始めることが出来た。
「今回の通り魔騒ぎのせいで陽、花純さん、そして隣に入院している七海くんが狙われている。だが、本来はこの都市伝説は人を殺したりする類のものではない」
通り魔の噂は襲われた本人がその恐怖を語らなければその脅威が伝播するものではない。昔に比べると現代人は恐怖や刺激に耐性が付いている。誰かが襲われたとか誰かが殺されたという話だけでは実感が薄く、あまり都市伝説の力にはならないという。
だからその恐怖を本人に伝えさせる必要がある。襲われて本人が語る話が一番純度が高い栄養になるそうだ。だから怪人は元々、人を殺すことを想定していない。
「あ、あの、じゃあなんで私を通り魔は殺したんですか?」
有馬の話に花純が疑問の声を上げる。言葉だけを聞くと、花純は相当におかしなことを聞いているようだ。だが、確かに朝田の前で消えてしまった花純の身体についていた傷は明らかに致命傷だったように思う。
「花純さんのその身体は梅香さんが作ったものなんだよね?
多分、怪人から見るとそれは人間としてカウントされてないんだと思う」
有馬に代わって千堂が答える。その答えに花純は複雑な表情をする。
「話を戻すぞ。
だからあの都市伝説に対しては、お前たちだけが命の危険性がある」
朝田も七海も怪人が人を襲うところを見ている。
だから狙われるのだと有馬は指摘した。
「だが、黒木の妹。君は気付かれなければ危険はないと思う」
花純の存在は怪人が異質なものと考え、処分したと考えていると言う。都市伝説自体に姿を見られることがなければ、先ず安全だろうと有馬は言った。
「そう、それは良かった……
けれど、朝田くんたちはどうなるの?」
「何もしなければ、消されるだろうな」
「特に七海くんが危ないんだよね」
都市伝説はそれを知っている人、噂をする人が増えれば増えるほど活動範囲が広がっていく。今はまだ七海が入院している病院は範囲外のようだが、それも時間の問題である。
「七海くんはまだ十分に動くことが出来ないからね。
早めにどうにかしないと……」
「あいつの能力は1対1の空間を作ることだ。
一度襲われれば、助けたり守ったりすることは出来ないだろう」
もう外に出なければ大丈夫というものではないようだ。
朝田自身も有馬の家の近くで襲われたことを花純と梅香に話す。
「そこで、だ。
一つ提案がある」
「え? 私??」
有馬が梅香を真っすぐと見る。
梅香はその視線に気付いて、千堂と有馬を交互に見ている。
怯えるばかりの羊では狼に喰われてしまう。
有馬は昔、朝田に何度かそう教えてくれた。
喰われる前に喰え、そんなことを言っていたことも思い出す。
嫌な予感がする。
その日の夜、七海は病院から消えた。
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