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第2章 離れ離れの2人の心
第1話 16歳になった王女
しおりを挟む「お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
あの滝の騒動から6年の歳月が過ぎた。
リーリラは再びエステール家に戻されひっそりと暮らす日々が続いていた。
誕生日が近くなるとこっそりと王城に招かれ家族から毎年誕生日を祝ってもらっている。そして、今年も16歳の誕生日を迎え、両親と姉であるリズと一緒にささやかな誕生日祝いを行っていた。
「貴女の誕生日を盛大に祝えなんて本当にごめんなさい」
母であるマリーはぎゅっとリーリラを抱き締める。
「リーリラ、国の事情でお前に我慢ばかりさせてすまない」
次は私が抱き締める番だと言わんばかりに父であるアーサーも抱き締めてくれた。会うたびに謝罪する両親に大丈夫、気にしないでと抱きしめ返す。
「誕生日祝いにドレスを作ったのよ。水色のドレスなの。きっと貴女に似合うはずよ。」
とマリーは嬉しそうに笑う。
「お母様、ドレスなんて着る機会ないですよ」
とキョトンと首を傾げる。
ずっと男の子として過ごしているリーリラには不要の品だ。
「リーリラ、もうすぐ成人を祝う会が城で開かれるでしょう。誰だって参加できるのよ。あなたも参加しないとだめよ」
とクスッと笑うのは姉のリズであった。
18歳になったリズは騎士であるリチャードを王配に迎え夫婦になった。
二人は2年前の成人の祝いの会で出会い、知城の護衛に付いていたリチャードがこっそり会場から抜け出したリズと鉢合わせたのだ。近くで王女を見たことがなかったリチャードは一目でリズに恋に落ち、リズへの猛アタックと王に認められるために功績を挙げ、ようやくリズを口説き、王からも認められ、王配の座を手に入れることが出来たのだ。
「綺麗に変身してせっかくパーティを楽しみなさい。誰かさんと踊りたいでしょう??」
とこっそり耳元で話すとリーリラの顔が少し赤くなる。
「そうだな、リーリラの晴れ姿を見てみたいなぁ」
とアーサーはにこやかに顔を綻ばせる。
「リーリラ、成人祝いの会で良い出会いがあるかもしれないわ。リズも二年前にリチャードと出会ったでしょう。あなたも女性としての幸せを掴む機会もあるのよ。望むなら結婚だってできるわ」
とマリーはリーリラの手をぎゅっと握った。
"男の子として生きろと言われ、次は女に戻り相手探して結婚…あははは…馬鹿らしい、帰ろ。"
「また、機会があれば考えます。では、私はこれにて失礼します。」
もう帰るのかと名残り惜しくされたが、外套を頭まで被ると頭を下げてすぐに退出する。
外に出るとリチャードが待っていた。
「家まで送るよ」
「いつもすみません」
とペコリと頭を下げる。
「ほらほら気を使わない。一応家族なんだからね。あっ、そうだ!カイルに送ってもらう?」
カイルの名前を聞いた途端に無愛想な表情で「結構です!!」と断る。
「怒るなよ。素直じゃないなぁ…」
「何か言いました??」
「いや、別に」
二人は城を後にしてリーリラは家まで送ってもらう。
六年前からカイルとはほとんど会話をしていない。リーリラが神殿から戻った後、学校の寄宿舎に入りほとんど家に帰ってこなかったのだ。
学校を卒業をした後、騎士になったカイルは不規則な時間で働いておりほとんど顔を合わすことがない。
たまにカイルが休日の時に夕食を共にするが話かけても、あぁと愛想のない返事しか返ってこず、いつからか話すことに疲れ、話かけるのを止めたのだ。
きっとカイルは自分のことを迷惑に感じていると思い、最近は赤の他人の自分がいるからエステール家の雰囲気も悪くなっているのだと責任を感じ始めていた。カイルの休日にあえて家にいないようにし、夕食も友人と食べ、エステール家の団らんを壊さないように気を使っている。
しかし、知り合い達は二人が仲が悪くなったことも知らずにカイルの話題を出すのでその度に自分の知らないカイルの姿を知り胸が痛くなるのだ。
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