形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ

鍛高譚

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1-3 嘲笑の前で、芯を取り戻す

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1-3 嘲笑の前で、芯を取り戻す

婚約破棄の噂が広まってから、クラリティの周囲の景色はすっかり変わってしまった。
街を歩くだけでひそひそ声が追いかけてくる。
背中に突き刺さる視線は、かつての尊敬や羨望とは程遠い。

――ああ、私の地位は本当に地に落ちたのだわ。

ため息がこぼれる。
それでも外出をやめなかったのは、逃げ続ければ本当に負けてしまう気がしたからだ。

そんなある日の午後。

運命の悪戯か、彼女は街角で“その二人”と出くわした。

リーヴェントン・グラシアと、新しい婚約者エリシア・ハーミット侯爵令嬢。

二人は腕を絡ませ、取り巻くように人々の視線を集めて歩いていた。
あまりにも絵に描いたような、幸せそうな光景。

対照的に、クラリティへ向けられる視線は冷たく、どこか嘲りを含んでいた。

逃げ出したい。
それでも、足を止めたまま背筋を伸ばす。

そんなクラリティに気づいたリーヴェントンが、わざとらしいほど爽やかな笑顔で声をかけてきた。

「これはこれは、クラリティ嬢。お久しぶりだね」

その声音に含まれた侮蔑は、あまりにも明らかだった。

エリシアは控えめに微笑んでいるが、その瞳はクラリティを値踏みするように冷たい。

クラリティは乱れそうになる呼吸を整え、丁寧に礼をした。

「お久しぶりです、リーヴェントン様。お幸せそうで何よりです」

しかし彼は薄く笑い、彼女を見下ろすように言った。

「エリシアといると、本当に天国のようだよ。
君と違って、優雅で教養があって、美しいからね」

心の奥がぎゅっと痛む。
あまりにも幼稚で、あまりにも酷い。
しかし――ここで崩れてはいけない。

「素敵なご関係ですね。末永くお幸せに」

あくまで穏やかに微笑み、立ち去ろうとした。
だが、リーヴェントンはあざ笑うように声を上げた。

「そういえば聞いたよ。君、公爵家のガルフストリームと結婚するんだって?」

足が止まる。

「ええ。ご存じだったのですね」

「はははっ!」
リーヴェントンは大げさに笑い、その声は通りに響いた。

「君があんな氷みたいな男と結婚だなんて!
形式的な結婚ほど虚しいものはないんだぞ?
まあ、すぐ思い知るだろうさ」

その嘲りに、クラリティの胸の奥で何かが静かに弾けた。

彼女はくるりと振り返り、リーヴェントンを真正面から見据えた。

「リーヴェントン様」

涼やかな声。
涙はない。怯えもない。

「たとえ形式的な結婚でも、
私を捨てた方よりも、ずっと誇り高く生きられます」

通りの空気が凍りついた。

周囲の人々が驚いたように息を呑み、
数人が小さく頷くのが見えた。

リーヴェントンの顔が一瞬にして歪む。

「ほう……強がりが板についたじゃないか」

それだけ吐き捨てると、エリシアの腕を引いて不機嫌に歩き去っていった。


---

■ わずかな誇りの灯

クラリティは深く息をつき、胸の高鳴りを抑えた。

――言ってしまったわ。

震えが止まらない。
でも、後悔はなかった。

自分を捨てた男の前で、泣き叫ばず、みじめにもならず、
ただ誇りを選んだ。

そのだけで、胸のどこかに小さな灯がともる。

「形式的な結婚でも……私には私のやり方がある」

小さく呟きながら、公爵邸へと歩みを進めた。

ガルフストリームとの契約は、重く冷たい現実――
でも、同時に未来へつながる唯一の道でもある。

そしてクラリティはまだ知らない。

これから先、彼女が“誇り高く生きる”というその選択が、
どれほど大きな逆転劇を呼び込むことになるのかを――。

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