形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ

鍛高譚

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2-3 過去との対峙、そして気づく“変わった自分”

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2-3 過去との対峙、そして気づく“変わった自分”

ガルフストリーム邸での生活が始まって数カ月。
クラリティは一人で過ごす寂しさを抱えながらも、ようやく日々を整えられるようになっていた。

友人ができ、予定ができ、会話ができる。
それだけで、世界はこんなにも色づくものなのだと知った。

そんな穏やかな日々の最中――
彼女の元婚約者、リーヴェントン・グラシアに関する噂が、突然耳に届いた。

■ 元婚約者に降りかかる“ざまぁ”の噂

「聞いた? グラシア家、かなり危ないらしいわ」

夫人たちの集まりで、誰かがそう口にした瞬間、クラリティの胸に小さな波紋が広がった。
名前を聞いても、もう動揺はしない。それでも、心の奥が少しだけざわつく。

「結婚した令嬢がとんでもない浪費癖で、家計が崩壊寸前ですって」

「それだけじゃなくて、リーヴェントンが賭博に手を出してるって噂まであるの。しかも商談の失敗で訴えられたとか」

周囲の夫人たちの声が、まるで遠くのざわめきのように聞こえる。

クラリティの胸に浮かんだのは
“スッとする気持ちではなく”
ただ静かな戸惑いだけだった。

(あの人が……そんなふうに)

かつて彼に裏切られた痛みは確かに存在する。
しかし、彼が落ちぶれたと聞いても、胸は冷えた水のように静かだった。

■ そして訪れた、偶然の再会

それから数日後のこと。
クラリティは街の馬車通りを歩いている最中――

「……クラリティ?」

弱々しい声で呼ばれ、振り返ると、リーヴェントンが立っていた。

痩せ、服は以前のように華美ではなく、表情は疲れ切っている。
クラリティは驚きよりも、“ああ、噂は真実だったのね”という冷静な感想が先に浮かんだ。

「どうしましたか、リーヴェントン様」

その落ち着いた声に、リーヴェントンの目が揺らいだ。

「……少しだけ、話をさせてくれないか」

情けなさと、すがるような声。
かつての傲慢さはどこにもない。

クラリティは躊躇したが、彼のあまりの変わりように、立ち話程度ならと了承した。

■ 「後悔している」――遅すぎる告白

近くのカフェで向かい合うと、リーヴェントンは机の上に視線を落とし、絞り出すように言った。

「……僕は、君を捨てたことを後悔している」

クラリティは静かに瞬きをした。
傷ついた心で聞く言葉ではなくなっていることに、自分で驚く。

「そうですか。しかし、それを今さら私に伝える必要がありますか?」

クラリティの声は穏やかで、しかし確かに距離を置いていた。

リーヴェントンは苦しげに唇を噛む。

「エリシアとの結婚は……地獄だったんだ。身を飾ることと賭け事にしか興味がなくて、家の金をどんどん使い込んで……。僕の家はもう破産寸前だ」

以前なら彼の惨状を聞いて胸がざわめいたかもしれない。

しかし今のクラリティの胸に浮かんだのはただ一つ。

(……それはあなた自身が選んだ未来でしょう)

「お気の毒に。ですが、その道を選ばれたのはあなたです」

冷たいが、事実を述べただけの言葉。
リーヴェントンは何か言い返そうとしたが、クラリティのまっすぐな瞳に射すくめられ、口をつぐんだ。

■ “自由”を手に入れた自分に気づく瞬間

カフェを出た後、クラリティは胸に手を当て、小さく息を吐いた。

(驚くほど……心が軽い)

彼が落ちぶれた姿を見ても、怒りも復讐心も湧かなかった。

かつて彼に向けていた感情は、もうどこにもない。

「私はもう――過去に縛られていないのね」

そう呟くと、胸の奥からふわりと安心が広がった。

■ ガルフストリームが見た“変化”

邸に戻ると、書斎から出てきたガルフストリームと廊下ですれ違った。

いつもなら淡々と挨拶するだけの彼が、その日はわずかに視線を止めた。

「……外出していたのか」

「ええ。少し、街を歩いてまいりました」

クラリティの表情はいつもより明るい。
ガルフストリームはそれに、ほんの一瞬――気づかれない程度の微かな違和感を覚えた。

(……以前より、穏やかな顔だ)

彼は何も言わず、すぐに視線を逸らしたが、胸の奥にわずかに刺さるものがあった。

嫉妬でも、心配でもない。
名前のない感情が、微かにきしんだ。

■ 未来へ向かうために

リーヴェントンの没落の噂は社交界に広がり続けた。
だが、クラリティは耳を貸さなかった。

「過去は、もう過去のこと。私の人生は、私が選ぶのだから」

胸に宿った光は、揺るぐことなく輝いていた。

そして、その光は――
やがて冷たい夫婦生活を変えていく、小さな“始まり”となる。

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