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第四話 新たな決意
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第四話 新たな決意
ヴェルナは鏡の前に立ち、自分の姿をじっと見つめていた。
床には、舞踏会で身にまとっていた深紅のドレスが無造作に置かれている。
今の彼女を包んでいるのは、飾り気のない寝間着だけ――けれど、その瞳には先ほどまでとは比べものにならない強い光が宿っていた。
(……泣いている暇は、もう終わり)
数時間前、セザールから婚約破棄を告げられた瞬間は、確かに心が折れそうになった。
屈辱と悲しみで胸がいっぱいになり、立っているのもやっとだった。
だが今は違う。
「私は負けない……絶対に、見返してやるわ」
その言葉は、誰に向けたものでもない。
――自分自身への誓いだった。
---
その夜、ヴェルナはベッドに横になることなく、机に向かっていた。
婚約破棄そのものが辛かったのは事実だ。
だが、それ以上に許せなかったのは、セザールとリリアンが“勝者”のように振る舞っていたことだった。
(どうして、あそこまで余裕だったの?)
ペンを取り、思いつく疑問を書き出していく。
「リリアンの家は、多額の借金を抱えているはず……」 「それなのに、なぜあんなに堂々としていられるの?」
胸の奥で、確信が形を成していく。
(これは、ただの気まぐれじゃない)
家同士の利害。
金と権力――そうしたものが絡んでいると考えた方が、よほど自然だった。
(この婚約破棄は……始まりに過ぎないのかもしれない)
---
「ヴェルナ様、お休みにならないのですか?」
控えめなノックとともに、側近のクラリッサの声が響いた。
「入ってちょうだい」
扉を開けて現れたクラリッサは、夜気を防ぐために薄手のショールを羽織っている。
その表情には、はっきりとした心配の色が浮かんでいた。
「何かお力になれることはありませんか?」
長年仕えてきたからこそ、クラリッサには分かる。
今のヴェルナが、平静を装っているだけだということを。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。少し……考え事をしているだけ」
ヴェルナは微笑んだ。
その笑みは穏やかだったが、奥に潜む決意を、クラリッサは見逃さなかった。
「何かございましたら、いつでもお呼びください」
そう言って、クラリッサは静かに部屋を後にした。
---
一人になったヴェルナは、改めて深呼吸をする。
(感情で動いたら、負け)
必要なのは冷静さと情報。
そして、確実な一手。
「まずは……情報を集めることね」
父や兄の協力は期待できない。
これまでの関係を思えば、それは明白だった。
(……母様)
マティルダ・アルヴィス侯爵夫人。
唯一、ヴェルナを心から気遣ってくれる存在。
「母様の人脈なら……使えるわ」
社交界に広い交友関係を持つ母なら、何か掴めるかもしれない。
それに、屋敷の使用人たちの中にも、信頼できる者はいる。
(焦らない。確実に、一歩ずつ)
---
夜が更けるにつれ、胸を支配していた悲しみは静かに薄れていった。
代わりに残ったのは、冷えた覚悟だけ。
「私は、この状況を――逆転させる」
鏡に映る自分を見つめる。
背筋を伸ばし、視線を逸らさない。
そこにいるのは、捨てられて泣く令嬢ではない。
反撃を始める覚悟を決めた、アルヴィス侯爵家の娘だった。
---
翌朝。
ヴェルナは何事もなかったかのように食堂に現れた。
使用人たちは一瞬驚き、すぐに深く頭を下げる。
優雅に朝食を取るその姿に、昨夜の涙の痕跡はない。
父であるアルヴィス侯爵が朝刊越しに一瞥を送ったが、ヴェルナは意に介さなかった。
侯爵はわずかに眉をひそめただけで、何も言わない。
「母様、後で少しお時間をいただけますか?」
食事を終え、ヴェルナが声をかけると、マティルダは驚いたように目を瞬かせた。
「ええ、もちろんよ。何かあったのね?」
「はい。少しだけ……お話ししたいことがあります」
その言葉とともに、ヴェルナは静かに立ち上がる。
――この日から、彼女の計画は動き出した。
泣き寝入りなど、するつもりはない。
セザールとリリアン、そして彼らを支える者すべてに――
自分の真価を、思い知らせるために。
ヴェルナは鏡の前に立ち、自分の姿をじっと見つめていた。
床には、舞踏会で身にまとっていた深紅のドレスが無造作に置かれている。
今の彼女を包んでいるのは、飾り気のない寝間着だけ――けれど、その瞳には先ほどまでとは比べものにならない強い光が宿っていた。
(……泣いている暇は、もう終わり)
数時間前、セザールから婚約破棄を告げられた瞬間は、確かに心が折れそうになった。
屈辱と悲しみで胸がいっぱいになり、立っているのもやっとだった。
だが今は違う。
「私は負けない……絶対に、見返してやるわ」
その言葉は、誰に向けたものでもない。
――自分自身への誓いだった。
---
その夜、ヴェルナはベッドに横になることなく、机に向かっていた。
婚約破棄そのものが辛かったのは事実だ。
だが、それ以上に許せなかったのは、セザールとリリアンが“勝者”のように振る舞っていたことだった。
(どうして、あそこまで余裕だったの?)
ペンを取り、思いつく疑問を書き出していく。
「リリアンの家は、多額の借金を抱えているはず……」 「それなのに、なぜあんなに堂々としていられるの?」
胸の奥で、確信が形を成していく。
(これは、ただの気まぐれじゃない)
家同士の利害。
金と権力――そうしたものが絡んでいると考えた方が、よほど自然だった。
(この婚約破棄は……始まりに過ぎないのかもしれない)
---
「ヴェルナ様、お休みにならないのですか?」
控えめなノックとともに、側近のクラリッサの声が響いた。
「入ってちょうだい」
扉を開けて現れたクラリッサは、夜気を防ぐために薄手のショールを羽織っている。
その表情には、はっきりとした心配の色が浮かんでいた。
「何かお力になれることはありませんか?」
長年仕えてきたからこそ、クラリッサには分かる。
今のヴェルナが、平静を装っているだけだということを。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。少し……考え事をしているだけ」
ヴェルナは微笑んだ。
その笑みは穏やかだったが、奥に潜む決意を、クラリッサは見逃さなかった。
「何かございましたら、いつでもお呼びください」
そう言って、クラリッサは静かに部屋を後にした。
---
一人になったヴェルナは、改めて深呼吸をする。
(感情で動いたら、負け)
必要なのは冷静さと情報。
そして、確実な一手。
「まずは……情報を集めることね」
父や兄の協力は期待できない。
これまでの関係を思えば、それは明白だった。
(……母様)
マティルダ・アルヴィス侯爵夫人。
唯一、ヴェルナを心から気遣ってくれる存在。
「母様の人脈なら……使えるわ」
社交界に広い交友関係を持つ母なら、何か掴めるかもしれない。
それに、屋敷の使用人たちの中にも、信頼できる者はいる。
(焦らない。確実に、一歩ずつ)
---
夜が更けるにつれ、胸を支配していた悲しみは静かに薄れていった。
代わりに残ったのは、冷えた覚悟だけ。
「私は、この状況を――逆転させる」
鏡に映る自分を見つめる。
背筋を伸ばし、視線を逸らさない。
そこにいるのは、捨てられて泣く令嬢ではない。
反撃を始める覚悟を決めた、アルヴィス侯爵家の娘だった。
---
翌朝。
ヴェルナは何事もなかったかのように食堂に現れた。
使用人たちは一瞬驚き、すぐに深く頭を下げる。
優雅に朝食を取るその姿に、昨夜の涙の痕跡はない。
父であるアルヴィス侯爵が朝刊越しに一瞥を送ったが、ヴェルナは意に介さなかった。
侯爵はわずかに眉をひそめただけで、何も言わない。
「母様、後で少しお時間をいただけますか?」
食事を終え、ヴェルナが声をかけると、マティルダは驚いたように目を瞬かせた。
「ええ、もちろんよ。何かあったのね?」
「はい。少しだけ……お話ししたいことがあります」
その言葉とともに、ヴェルナは静かに立ち上がる。
――この日から、彼女の計画は動き出した。
泣き寝入りなど、するつもりはない。
セザールとリリアン、そして彼らを支える者すべてに――
自分の真価を、思い知らせるために。
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