婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第五話 家族との対立

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第五話 家族との対立

 朝陽が屋敷の大きな窓から差し込み、食堂を柔らかな光で満たしていた。

 ――けれど、ヴェルナの心は一晩中、嵐の中にあった。

 昨夜の舞踏会。婚約破棄。嘲笑。
 眠れないまま迎えた朝だったが、彼女の背筋は真っ直ぐ伸びている。

(感情を見せたら、負け)

 アルヴィス侯爵家の令嬢として、それだけは守らなければならなかった。

 食堂では、父であるアルヴィス侯爵がいつも通り新聞を広げて座っていた。
 母のマティルダは、静かに食卓を整えている。

 いつもと変わらぬ朝の風景。
 ――けれど、ヴェルナにとっては、もう違う。


---

「おはようございます、母様」 「おはよう、ヴェルナ」

 マティルダは優しく微笑んだ。
 だが、侯爵は一度も顔を上げない。

 しばらくの沈黙の後、ヴェルナは意を決して口を開いた。

「父様。昨夜の舞踏会で……婚約破棄を告げられました」

 新聞をめくる音が、止まる。

 空気が張り詰め、マティルダの表情が強張った。

「……婚約破棄?」  侯爵はようやく顔を上げ、冷ややかな視線を向けてくる。

「はい。セザール様は、リリアン・ハーヴィー嬢との婚約を公表されました」

 数秒の沈黙の後、返ってきた言葉は、あまりにも淡白だった。

「それで?」

 ヴェルナは、一瞬、自分の耳を疑った。

「……それで、ですか?」

 怒りでも、驚きでもない。
 ただの――無関心。

「お前が婚約破棄されたのは、自分に何か足りなかったからだろう」 「それ以上、何を話す必要がある?」

 胸を、鋭く刺された気がした。

「父様……私は、社交界での立場を守るために、出来る限りの努力をしてきました」 「それでも、足りなかったとおっしゃるのですか?」

 必死に言葉を紡ぐヴェルナに、侯爵は冷たく言い放つ。

「結果がすべてだ」 「努力が足りなかった。それだけの話だ」

 その一言で、すべてが理解できた。

(……この人は、私の味方ではない)

 拳を握りしめ、唇を噛みしめる。
 ここに、救いはない。


---

「ヴェルナ……」

 その時、マティルダがそっと声をかけた。

「辛かったでしょう。私にできることがあれば、何でも言ってちょうだい」

 その一言に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「ありがとう、母様」

 ヴェルナは小さく微笑んだ。

「でも……父様の言う通りかもしれません。私は、自分の力で立ち上がらなければならない」

 マティルダは娘の手を握り、優しく頷いた。

「それでも、あなたは一人じゃないわ」 「私は、いつでもあなたの味方よ」


---

 食事を終え、ヴェルナは静かに席を立った。

 父の冷淡さ。
 母の温もり。

 その対比が、彼女の中でくっきりと刻まれる。

(……私は、自分で進む)

 そう決めた瞬間だった。


---

 自室に戻ると、ヴェルナは机に向かった。

 セザールの態度。
 リリアンの余裕ある笑み。
 そして、周囲の貴族たちの反応。

「……やっぱり、おかしい」

 ペンを取り、紙に書き出す。

「リリアンの家は、多額の借金を抱えている」 「それなのに、どうして彼女が選ばれたの?」

 疑問は、確信へと変わっていく。

「これは……ただの婚約破棄じゃない」

 何か裏がある。
 それを暴かなければならない。

「父の支援がなくても、構わない」

 ヴェルナは顔を上げ、静かに息を吐いた。

「私は、アルヴィス侯爵家の娘よ」 「この程度で、折れるわけにはいかない」

 新しい一日が始まった。
 それは――彼女の人生が、大きく動き出す日の始まりだった。
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