婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第九話 偽りの絆

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第九話 偽りの絆

 ヴェルナは、確実に動き始めていた。

 アンドレを中心とした屋敷の使用人たちの情報網。
 母マティルダの人脈を通じた、社交界の裏側からの噂。

 あらゆる手段を使い、リリアン家とセザール家の関係を探っている。
 だが――集まる情報は、まだ断片的だった。

(このままじゃ……決定打にはならない)

 自室の机に向かい、小さく息を吐く。

「証拠がなければ、どんな疑いも“思い込み”で終わる……」


---

 その日の午後、ヴェルナはアンドレに呼ばれ、執務室へ向かった。

 老執事はすでに机の上に数枚のメモを並べて待っている。

「ヴェルナ様、新しい動きがございました」

 アンドレは静かに切り出した。

「セザール家の執事が、リリアン家を訪れているという目撃情報が複数あります」 「この一週間で……三度」

「三度も?」

 ヴェルナは思わず声を上げた。

「婚約の準備にしては……頻繁すぎるわね」

「はい。特に、リリアン家の財政状況を考えると、不自然です」

 疑念が、はっきりと形を持つ。

(やっぱり……ただの恋愛じゃない)


---

「アンドレ」  ヴェルナはきっぱりと言った。

「引き続き、監視を続けてください」 「セザール家とリリアン家の間で、どんなやり取りが行われているのか……できる限り詳しく」

「承知いたしました、ヴェルナ様」

 深々と一礼し、アンドレは部屋を後にした。

 扉が閉まると、ヴェルナは椅子に身を預ける。

(頻繁な接触……資金……取引)

 疑惑は、もはや偶然とは思えなかった。


---

 その夜。

 マティルダがヴェルナの部屋を訪れ、小さな紙束を差し出した。

「バースリー侯爵夫人から、追加の情報よ」

「……!」

 ヴェルナはすぐに受け取り、目を走らせる。

「セザール家の財務を管理している人物が、リリアン家との取引を指示している可能性が高い……」

「取引、ですか」

 ヴェルナの声が低くなる。

「つまり、支援ではなく……交換条件」

「ええ」  マティルダは頷いた。

「何かを得るために、資金を動かしていると考えるのが自然ね」

「でも……“何を”得ているのかが分からない」

「そこが、核心でしょうね」  マティルダは静かに言った。

「侯爵夫人も、さらに調べてくれるそうよ」

「ありがとうございます、母様」

 ヴェルナは、はっきりとした手応えを感じていた。


---

 翌日。

 自室で一人、ヴェルナはこれまでの情報を整理する。

 紙の上に矢印を引き、関係を可視化していく。

「セザール家 → 資金 → リリアン家」 「……でも、矢印は一方通行じゃない」

 借金の肩代わりだけでは、説明がつかない。

「見返りがあるはず」 「それも……簡単には表に出せないもの」

 彼女の思考は、確実に核心へ近づいていた。

「この取引が明らかになれば……」

 ヴェルナは、ペンを置き、静かに呟く。

「二人の“婚約”が、どれほど偽りに満ちているか――暴ける」


---

 午後、再び母と向き合う。

「母様、私は確信しています」  ヴェルナは強い眼差しで言った。

「これは、ただの恋愛や婚約じゃありません」 「社交界全体を巻き込む……もっと大きな計画です」

「だからこそ、慎重に」  マティルダは優しく、しかし真剣に答える。

「証拠がなければ、相手は必ず否定するわ」

「分かっています」  ヴェルナは、静かに息を吸った。

「だから私は……証拠を掴みます」

 マティルダは娘の手を握り、微笑む。

「あなたは、私の誇りよ。ヴェルナ」


---

 その夜。

 机に向かい、ヴェルナは次の一手を考え続けていた。

「必ず、真実を暴く」 「そして……彼らの“偽りの絆”を、白日の下に晒してみせる」

 ペンを走らせる音だけが、静かな部屋に響く。

 迷いはない。
 覚悟は、もう十分だった。

 ――反撃は、次の段階へ進む。


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