婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

文字の大きさ
10 / 60

第十話 隠された取引

しおりを挟む
第十話 隠された取引

 点と点が、少しずつ線になり始めていた。

 ヴェルナは母マティルダと老執事アンドレの支えを受けながら、
セザール家とリリアン家の関係を深く掘り下げていた。

 まだ決定的な証拠には至らない。
 けれど――。

(これはもう、偶然じゃない)

 自室の机に広げられた資料を見下ろし、ヴェルナは静かにペンを走らせる。
紙に書き込まれる仮説は、以前よりもはっきりとした輪郭を持ち始めていた。


---

 午後、控えめなノックと共にアンドレが部屋へ入ってくる。

「ヴェルナ様、興味深い報告がございます」

 そう言って差し出された一枚の紙に、ヴェルナは目を落とした。

「セザール家が所有する商会の一つが、最近リリアン家の借金を肩代わりしたという噂です」

「商会……?」

 ヴェルナは思わず眉を寄せる。

 紙には、商会の名称と、リリアン家との金銭の流れが簡潔にまとめられていた。

「表向きは小規模な取引先ですが」  アンドレは静かに続ける。 「実際には、セザール家が資金を動かす“窓口”として使われている可能性があります」

 ヴェルナの胸に、確信が落ちた。

「……なるほど」 「直接支援せず、商会を挟むことで関係を隠しているのね」

「その可能性が高いかと。ただし――」  アンドレは言葉を切る。 「なぜ、そこまでして隠す必要があるのか。それはまだ不明です」


---

 アンドレが退室した後も、ヴェルナはしばらくその紙を見つめていた。

(商会を通じた資金提供) (それも、急激に増えた取引額……)

 ただの救済ではない。
 明らかに、隠す理由のある取引だ。

「……調べる価値は十分ね」

 ヴェルナは即座に決断する。

「この商会について、徹底的に調べましょう」


---

 その夜、ヴェルナは母マティルダと向かい合っていた。

 紅茶の湯気がゆらゆらと立ち上る中、彼女は今日得た情報を説明する。

「セザール家は、商会を通してリリアン家の借金を肩代わりしています」 「でも、それを隠すために、かなり回りくどい方法を取っている」

「……つまり」  マティルダは静かに言った。 「表に出せない事情がある、ということね」

「ええ」  ヴェルナは頷く。 「でも、それが何なのかが分からない」

「社交界での立場に関わる問題かもしれないわ」  マティルダの言葉に、ヴェルナははっとした。

「支援が知られれば、セザール家の信用が揺らぐ……?」

「可能性は高いわ」  マティルダは静かに続ける。 「特に、リリアン家の借金が想像以上に深刻だった場合はね」


---

 母の言葉は、ヴェルナの思考を一段深いところへ導いた。

(借金の深刻さ) (だからこそ、直接関与できない) (だからこそ、商会を使った……)

「母様、引き続きバースリー侯爵夫人に協力をお願いできますか?」

「もちろんよ」  マティルダは微笑んだ。 「ここまで来たら、最後まで見届けましょう」

「ありがとうございます」

 ヴェルナは深く頭を下げた。


---

 翌朝。

 アンドレから、追加の報告がもたらされた。

「問題の商会は、近年急激に取引額を増やしています」 「その多くが、リリアン家の借金返済に使われている可能性が高いとのことです」

「……やっぱり」

 ヴェルナは、紙を握りしめる。

「セザール家とリリアン家の間には、明確な“取引”がある」 「それを隠すために、商会を利用している……」

「次は、その取引の“中身”です」  アンドレは冷静に言った。 「隠している以上、必ず弱点があります」

 ヴェルナは顔を上げ、はっきりと頷いた。

「ええ」 「その弱点を見つけ出して……彼らの企みを、白日の下に晒すわ」

 疑惑は、もはや疑惑ではない。
 反撃のための“武器”が、確実に形を成し始めていた。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」 王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。 周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!

「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。 侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。 「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」 これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!

鏡おもち
恋愛
伯爵令嬢ロニエ・エヴァンズには、ささやかな野望があった。それは、ハイスペックすぎて重すぎる愛を持つ婚約者、第一王子アレンから「婚約破棄」を突きつけられ、実家の離れで一生ダラダラと昼寝をして過ごすこと。 ロニエは学園入学を機に、あの手この手で「嫌われる努力」を開始する。

処理中です...