婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第十話 隠された取引

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第十話 隠された取引

 点と点が、少しずつ線になり始めていた。

 ヴェルナは母マティルダと老執事アンドレの支えを受けながら、
セザール家とリリアン家の関係を深く掘り下げていた。

 まだ決定的な証拠には至らない。
 けれど――。

(これはもう、偶然じゃない)

 自室の机に広げられた資料を見下ろし、ヴェルナは静かにペンを走らせる。
紙に書き込まれる仮説は、以前よりもはっきりとした輪郭を持ち始めていた。


---

 午後、控えめなノックと共にアンドレが部屋へ入ってくる。

「ヴェルナ様、興味深い報告がございます」

 そう言って差し出された一枚の紙に、ヴェルナは目を落とした。

「セザール家が所有する商会の一つが、最近リリアン家の借金を肩代わりしたという噂です」

「商会……?」

 ヴェルナは思わず眉を寄せる。

 紙には、商会の名称と、リリアン家との金銭の流れが簡潔にまとめられていた。

「表向きは小規模な取引先ですが」  アンドレは静かに続ける。 「実際には、セザール家が資金を動かす“窓口”として使われている可能性があります」

 ヴェルナの胸に、確信が落ちた。

「……なるほど」 「直接支援せず、商会を挟むことで関係を隠しているのね」

「その可能性が高いかと。ただし――」  アンドレは言葉を切る。 「なぜ、そこまでして隠す必要があるのか。それはまだ不明です」


---

 アンドレが退室した後も、ヴェルナはしばらくその紙を見つめていた。

(商会を通じた資金提供) (それも、急激に増えた取引額……)

 ただの救済ではない。
 明らかに、隠す理由のある取引だ。

「……調べる価値は十分ね」

 ヴェルナは即座に決断する。

「この商会について、徹底的に調べましょう」


---

 その夜、ヴェルナは母マティルダと向かい合っていた。

 紅茶の湯気がゆらゆらと立ち上る中、彼女は今日得た情報を説明する。

「セザール家は、商会を通してリリアン家の借金を肩代わりしています」 「でも、それを隠すために、かなり回りくどい方法を取っている」

「……つまり」  マティルダは静かに言った。 「表に出せない事情がある、ということね」

「ええ」  ヴェルナは頷く。 「でも、それが何なのかが分からない」

「社交界での立場に関わる問題かもしれないわ」  マティルダの言葉に、ヴェルナははっとした。

「支援が知られれば、セザール家の信用が揺らぐ……?」

「可能性は高いわ」  マティルダは静かに続ける。 「特に、リリアン家の借金が想像以上に深刻だった場合はね」


---

 母の言葉は、ヴェルナの思考を一段深いところへ導いた。

(借金の深刻さ) (だからこそ、直接関与できない) (だからこそ、商会を使った……)

「母様、引き続きバースリー侯爵夫人に協力をお願いできますか?」

「もちろんよ」  マティルダは微笑んだ。 「ここまで来たら、最後まで見届けましょう」

「ありがとうございます」

 ヴェルナは深く頭を下げた。


---

 翌朝。

 アンドレから、追加の報告がもたらされた。

「問題の商会は、近年急激に取引額を増やしています」 「その多くが、リリアン家の借金返済に使われている可能性が高いとのことです」

「……やっぱり」

 ヴェルナは、紙を握りしめる。

「セザール家とリリアン家の間には、明確な“取引”がある」 「それを隠すために、商会を利用している……」

「次は、その取引の“中身”です」  アンドレは冷静に言った。 「隠している以上、必ず弱点があります」

 ヴェルナは顔を上げ、はっきりと頷いた。

「ええ」 「その弱点を見つけ出して……彼らの企みを、白日の下に晒すわ」

 疑惑は、もはや疑惑ではない。
 反撃のための“武器”が、確実に形を成し始めていた。


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