婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第7話 孤独な計画

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第7話 孤独な計画

 屋敷に戻り、自室の扉を閉めた瞬間――
 ヴェルナは、ようやく張り詰めていた息を吐いた。

 母からの励ましは、確かに心を温めてくれた。
 だが同時に、父――アルヴィス侯爵の冷淡な態度が、胸の奥に重く残っていた。

「……父様は、本当に私を信じているのかしら」

 母は言った。
 あの人は、不器用なだけだと。
 厳しさは期待の裏返しなのだと。

 けれど――あの背中を思い出すたび、そう簡単に信じきれなくなる。

 ヴェルナは首を振り、机へと向かった。

(立ち止まっている暇はないわ)

 嘆いても、同情を待っても、状況は何一つ変わらない。
 変えるなら――自分で動くしかないのだ。


---

 机の上には、昨夜から書き留めていた紙片が散らばっていた。

 リリアン・ハーヴィー家の財政状況。
 セザール家との関係。
 舞踏会での二人の態度。

 一枚一枚を見つめながら、ヴェルナは冷静に思考を整理していく。

「ハーヴィー家の借金は、公然の秘密……」 「それを、セザールが知らないはずがないわよね」

 ペンを取り、紙に走らせる。

 ――借金
 ――婚約
 ――舞踏会の資金

 点と点が、ゆっくりと線になり始める。

(偶然じゃない)

 リリアンが選ばれた理由。
 婚約が急に決まった理由。
 その裏には、必ず“取引”がある。

「……まずは、情報収集ね」

 ヴェルナはそう書き込み、深く頷いた。


---

「でも、誰に頼ればいいのかしら……」

 父の協力は望めない。
 母の人脈に頼ることもできるが、それだけでは足りない。

 必要なのは、“裏側”を知る人間だ。

 ふと、ある人物の顔が脳裏に浮かんだ。

(……アンドレ)

 アルヴィス侯爵家に長年仕える老執事。
 屋敷の内情も、貴族社会の噂も、誰よりも知っている人物。

 彼なら――。


---

 その日の午後、ヴェルナはアンドレを自室に呼んだ。

 ノックの音と共に、銀髪の老執事が静かに入室する。

「お呼びでしょうか、ヴェルナ様」

「ええ。少し、相談したいことがあるの」

 ヴェルナは彼をソファへ促し、自らも向かいに腰を下ろした。

「先日の舞踏会で……私の婚約は破棄されました」

 アンドレはわずかに目を細めたが、驚きは見せない。
 ただ、静かに頷いた。

「存じております」

「その件について、あなたの知恵を借りたいの」 「リリアン・ハーヴィー嬢について、何か知っていることはありませんか?」

 しばしの沈黙の後、アンドレは低い声で答えた。

「ハーヴィー家の財政事情については、以前から噂がございます」 「借金を抱えているのは事実でしょう」

「……やはり」

「ただし、気になる点もあります」 「最近、ハーヴィー家に“大口の貸し手”が現れたという話を耳にしました」

「大口の……貸し手?」

 ヴェルナの視線が鋭くなる。

「それが、セザール家と関係している可能性は?」

「否定はできません」 「ですが、確証を得るには、もう少し調査が必要ですな」


---

 アンドレの言葉は、ヴェルナの中で確信へと変わっていった。

(やはり……借金を肩代わりする代わりに、何かを得ている)

 それが婚約なのか。
 それとも、もっと大きな狙いなのか。

「アンドレ、この件を引き続き調べてもらえますか?」

「もちろんでございます、ヴェルナ様」

 老執事は一礼し、静かに部屋を後にした。


---

 夜。
 再び机に向かい、ヴェルナは紙に向かって思考を巡らせる。

「リリアン家の借金」 「セザール家の介入」 「その見返り……」

 紙の上に矢印を描き、可能性を書き連ねていく。

 ――政治的影響力
 ――社交界での支持
 ――別の、もっと深い企み

「どちらにしても……」

 ペンを置き、ヴェルナは静かに呟いた。

「彼らの企みを、暴かなければならない」

 もう、泣いて終わる令嬢ではいられない。
 真実を知り、掴み取り、立ち上がる。

 その決意は、夜の静けさの中で、確かに燃えていた。


---

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