婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚

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第42話 愛と未来への誓い

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第42話 愛と未来への誓い

 新たな商業ルート計画は、想定以上に順調に進んでいた。
 各地の商人との交渉は滞りなくまとまり、住民たちの生活にも、確かな変化が現れ始めている。

 その成果の中心にいたのは、間違いなくエリオットだった。
 だがヴェルナは、彼を「優秀な補佐官」としてだけ見ることが、もうできなくなっていた。

(私は……)

 気づかぬふりを続けてきた感情が、静かに、しかし確実に形を持ち始めていた。


---

 その日、商業ルートの最終視察を終えたヴェルナは、夕暮れの庭園へと足を向けた。
 沈みゆく太陽が空を橙色に染め、花々がやわらかな光を帯びて揺れている。

「ヴェルナ嬢」

 振り返ると、そこにはエリオットがいた。

「今日の視察も問題ありませんでしたね」  彼は穏やかな笑みを浮かべて続ける。 「住民たちも、あなたの言葉に強く心を動かされていました」

「ありがとう」  ヴェルナは微笑み返した。 「でも……ここまで来られたのは、あなたがいてくれたからよ」

「それが私の役目です」  エリオットは静かに言った。 「あなたの進む道を支えることが、私の生きがいですから」

 その言葉は、あまりにも自然で、あまりにも真っ直ぐだった。
 ヴェルナの胸が、はっきりと高鳴る。


---

 二人は並んで庭園を歩いた。
 しばらくの沈黙のあと、ヴェルナは足を止め、エリオットに向き直る。

「エリオット」  その声は、驚くほど落ち着いていた。 「あなた自身のことを、聞かせて」

「……私、ですか?」

「ええ」  ヴェルナは頷く。 「あなたは、いつも私の未来の話ばかりする。でも……あなた自身は、何を望んでいるの?」

 エリオットは一瞬言葉を失ったように見えた。
 だが、やがて小さく息を吐き、穏やかに口を開く。

「私の夢は――」  一度、言葉を選ぶように間を置き、 「支えたいと心から思った人が、正しく前へ進む姿を見届けることです」

 そして、はっきりとヴェルナを見る。

「今の私にとって、それは……あなたの未来です」

「……エリオット」

 胸の奥が、じんと熱くなる。
 彼がこれまで語ってこなかった想いが、今、確かに彼女に向けられていた。


---

「あなたは、本当に自分のことを後回しにする人ね」  ヴェルナは、少しだけ困ったように微笑んだ。 「私は……あなた自身が幸せであることを願っているわ」

 それは領主としての言葉ではなく、
 一人の女性としての、率直な願いだった。

「あなたが笑っていてくれる未来でなければ」  ヴェルナは静かに続ける。 「私も、心から幸せだとは言えないもの」

 エリオットは驚いたように目を見開き、そして深く、静かに頷いた。

「……ありがとうございます」  彼の声は、わずかに震えていた。 「その言葉をいただけただけで、私は救われました」


---

 その夜、ヴェルナは一人、自室で考えていた。

 これまでの人生で、彼女は常に「責務」を優先してきた。
 領地、住民、名誉――それらを守ることが、自分の役割だと信じてきた。

 だが今、はっきりと分かる。

(私自身の未来に……彼がいる)

 それは逃げでも、甘えでもない。
 共に立ち、共に歩むという選択だった。


---

 翌朝。

 ヴェルナはエリオットを執務室に呼び出した。
 彼が入室すると、彼女は机越しではなく、真正面から向き合う。

「エリオット」  穏やかだが、揺るぎない声で言った。 「私は、あなたと共にこの領地を導いていきたい」

 そして、一拍置いて、続ける。

「それだけではなく――」 「私は、あなたと共に未来を築きたい」

 一切の曖昧さを残さない、明確な言葉だった。

 エリオットは息を呑み、次の瞬間、深い感動を宿した笑みを浮かべる。

「……ヴェルナ嬢」  彼は静かに頭を下げた。 「それは、私にとってこの上ない光栄です」

 顔を上げ、真っ直ぐに告げる。

「私も、あなたと共に未来を歩みたい」 「領主としても、一人の人間としても――あなたの隣に立ち続けることを誓います」

 その言葉に、ヴェルナは心からの安堵と喜びを覚えた。

 こうして二人は、声高に誓い合うことなく、
 しかし確かに――同じ未来を見据えたのだった。


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