完璧すぎた令嬢ですが、婚約破棄のおかげで幸せを掴みました

鍛高譚

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1-9 完璧なる「微笑みの薔薇」の仮面

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完璧なる「微笑みの薔薇」の仮面

 馬車を降り、夜風の冷たさを感じながら屋敷に入る。案内役の従者たちが「お帰りなさいませ」と出迎えるが、ミアータは淡い微笑みでそれに応じる。公爵令嬢として、いつも通りの振る舞いを崩さない。
 「ミアータ様、こんなに早くお帰りになるなんて。舞踏会はいかがでしたか?」
 優しい眼差しで問いかける侍女には、「とても盛り上がっていたわ。けれど、少し疲れてしまったから先に帰ってきたの。お休みなさい」と言うだけにとどめた。
 部屋まで付き添おうとする侍女たちを制し、彼女は自室の扉を閉じる。鍵をかける音が響くと同時に、フッとその場に膝をついた。誰にも見られない、たった一人きりの空間になって初めて、堰を切ったように大粒の涙がこぼれ落ちる。

 「……どうして……。」

 おそらく、心のどこかで結末を予感していたのかもしれない。それでも、実際に言葉として突きつけられると、あまりにも辛く、苦しい。今まで積み重ねてきた時間は何だったのか――そもそも、アレンとの婚約は“形”だけだったのかもしれない。
 ミアータは顔を両手で覆いながら、静かに泣いた。ドレスのまま床に座り込み、その華やかな衣裳がまるで夜闇に溶けていくように見える。涙がボロボロと落ち、フロアに濡れた跡を作った。

 こんな姿は、誰にも見せたくない。彼女は幼い頃から「公爵令嬢としての品格」を叩き込まれ、完璧であることが当たり前だと教えられてきた。だが、それが結果としてアレンを苦しめ、自分自身を傷つけることになるとは、夢にも思わなかった。
 とはいえ、こうして一人きりで泣くのも、今夜限りだろう。ミアータは、長くは嘆かないと決めている。たとえどんな苦境に立たされようとも、翌朝にはきっと「微笑みの薔薇」の仮面をかぶって、毅然とした姿を見せる。そうしなければ、公爵家の看板を背負う者として失格だからだ。
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