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11話
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絶望の宣告
そして、その翌日。私のもとに信じがたい報が舞い込んだ。
なんと、王がリオネル殿下に対し「しばらく公務を外れ、謹慎するように」と勅令を下したのだ。さらにリナは“疑わしき者”として、宮廷から一時的に退去し、近衛騎士の監視下に置かれるという。事実上の謹慎処分だ。
この知らせを受け取った私は、唖然として思わず書簡を取り落としそうになる。書簡にはさらりと「ルージュとの婚約も、一度白紙に戻すことを検討せよ」とまで書かれてあった。つまり、リオネル殿下の王位継承権を剥奪する方向で話が進んでいるのだろう。
「そんな……急展開すぎるわ」
呆然としていると、シューネが気遣わしげに声をかけてくる。
「お嬢様、ご実家の侯爵夫妻に連絡を取りますか? ヴィオレット家としても、何らかの対処が必要かと」
「ええ、そうね……。でも、それ以上に……リナはどうなるの?」
どうやらリナはすでに兵士たちによって、王宮の一角へ連行されたらしい。彼女が真犯人として断罪される可能性が消えたわけではないが、「いったん証拠不十分のまま保留」となっているようだ。殿下も自分の謹慎処分があるせいで、リナをしっかり守るために動くことができない。
結局、この国は王の一声で状況が一変してしまう場所なのだ。“白い結婚”どころか、それ以前の問題になってしまった。リオネル殿下とリナの関係は、ついに表沙汰になり、しかも悪い形で世間の知るところとなった。
この段階で、宮廷の噂はもう止められない。「王子は平民の女を溺愛して、軍事機密を漏らしたのではないか」とか、「リオネル殿下が王位を狙う勢力と内通している」など、あり得ない中傷まで飛び交っている。
(こんなの、リナは耐えられないんじゃ……。殿下だって、国から見放されてしまうかもしれない)
私はもう、王宮にいる意味がないのかもしれない。婚約は白紙撤回される公算が大きく、リオネル殿下も謹慎になった今、私がここに留まっても何もできない。
そんな諦念の中で、一筋の思いがこみ上げる。
リナを助けたい。たとえ私に何ができるのか分からなくても、彼女のために何かしてあげたいと心から願う。
——けれど、この一連の大騒動は、もはや私の手に負える範囲を超えていた。
閉じ込められた恋
その日の夕方。私はささやかな覚悟を決め、謹慎中のリオネル殿下を訪ねた。彼は王宮の奥まった部屋に閉じこもっており、兵士たちによって出入りを制限されている。
「殿下、お加減はいかがですか……?」
許可を得て部屋に通されると、そこには疲れ切った表情の殿下がいた。外見こそ変わらないものの、その瞳には絶望の色がにじんでいる。
「……ルージュか。わざわざ来てくれたのか」
「ええ。リナのことが心配で……。殿下のことも……」
すると、殿下は重いため息をつき、テーブルの上に視線を落とす。
「リナは近衛の監視下にあるが、直接面会することもできない。僕があれこれ動けば『共犯同士の口裏合わせ』と思われるだけだ……。何ひとつ、うまくいかない」
「でも、きっと真犯人が別にいるんですよね? どうにか証拠を掴んで、リナの疑いを晴らせれば……」
「簡単に言わないでくれ。調査権限は僕から完全に取り上げられた。いまは兄上(第一王子)側の大臣たちが調査を進めている。彼らがわざわざリナの無実を証明してくれるとも思えない」
殿下の苛立ちは痛いほどに伝わる。しかし、私もどうにもならないもどかしさを抱えている。宮廷での権力闘争に巻き込まれた結果、リオネル殿下とリナの恋は閉じ込められ、歪んだ形で国中に知られてしまった。このままでは、殿下は王位継承権を剥奪され、リナも罪を着せられたまま追放されるおそれが高い。
「……ルージュ。悪いが、君はもう帰ったほうがいい。僕と関わり続けても、何も得るものはないよ」
「そんなこと言われても……あなたを見捨てて帰れなんて、私にできると思って?」
思わず語気を強めてしまった私に、殿下はわずかに目を見開く。
「君だって、もともと“形だけ”の婚約に乗るのは、自由を守るためだったんだろう? それなら、僕がこうなった時点で契約は無意味だ。ここにいても君の足かせになるだけだ」
「それはそうかもしれないわ。でも、リナがこんな目にあって、それを放置して私だけが先に帰るなんて……。私はもう、リナを単なる他人事と思えなくなってる」
私の言葉に、殿下は小さく目を伏せる。彼の心中にはリナへの愛情と責任が渦巻いているのだろう。そのジレンマに押し潰されそうになっているようにも見えた。
「……ごめん。君には何もしてやれなくて。でも、僕は今、動けない。どうか……リナが無事に解放されるまで、見守ってやってほしい。これ以上、彼女が傷つかないように……」
そう言って俯く殿下の顔には、深い苦悩の陰が落ちている。私はそれ以上、何も言えなかった。会話を終え、部屋を出るとき、胸の奥に重く暗い感情が渦を巻いているのを感じる。
(どうして、こんなことになってしまったの……。平穏に過ごすはずが、気づいたらこんな大事に巻き込まれて……)
私の白い結婚はどこへ行ったのか。リオネル殿下とリナの仲睦まじい日々は、たったひと月ほどで粉々に砕け散ったように見える。
そして、さらなる絶望が追い打ちをかけるようにやって来るのだ。
そして、その翌日。私のもとに信じがたい報が舞い込んだ。
なんと、王がリオネル殿下に対し「しばらく公務を外れ、謹慎するように」と勅令を下したのだ。さらにリナは“疑わしき者”として、宮廷から一時的に退去し、近衛騎士の監視下に置かれるという。事実上の謹慎処分だ。
この知らせを受け取った私は、唖然として思わず書簡を取り落としそうになる。書簡にはさらりと「ルージュとの婚約も、一度白紙に戻すことを検討せよ」とまで書かれてあった。つまり、リオネル殿下の王位継承権を剥奪する方向で話が進んでいるのだろう。
「そんな……急展開すぎるわ」
呆然としていると、シューネが気遣わしげに声をかけてくる。
「お嬢様、ご実家の侯爵夫妻に連絡を取りますか? ヴィオレット家としても、何らかの対処が必要かと」
「ええ、そうね……。でも、それ以上に……リナはどうなるの?」
どうやらリナはすでに兵士たちによって、王宮の一角へ連行されたらしい。彼女が真犯人として断罪される可能性が消えたわけではないが、「いったん証拠不十分のまま保留」となっているようだ。殿下も自分の謹慎処分があるせいで、リナをしっかり守るために動くことができない。
結局、この国は王の一声で状況が一変してしまう場所なのだ。“白い結婚”どころか、それ以前の問題になってしまった。リオネル殿下とリナの関係は、ついに表沙汰になり、しかも悪い形で世間の知るところとなった。
この段階で、宮廷の噂はもう止められない。「王子は平民の女を溺愛して、軍事機密を漏らしたのではないか」とか、「リオネル殿下が王位を狙う勢力と内通している」など、あり得ない中傷まで飛び交っている。
(こんなの、リナは耐えられないんじゃ……。殿下だって、国から見放されてしまうかもしれない)
私はもう、王宮にいる意味がないのかもしれない。婚約は白紙撤回される公算が大きく、リオネル殿下も謹慎になった今、私がここに留まっても何もできない。
そんな諦念の中で、一筋の思いがこみ上げる。
リナを助けたい。たとえ私に何ができるのか分からなくても、彼女のために何かしてあげたいと心から願う。
——けれど、この一連の大騒動は、もはや私の手に負える範囲を超えていた。
閉じ込められた恋
その日の夕方。私はささやかな覚悟を決め、謹慎中のリオネル殿下を訪ねた。彼は王宮の奥まった部屋に閉じこもっており、兵士たちによって出入りを制限されている。
「殿下、お加減はいかがですか……?」
許可を得て部屋に通されると、そこには疲れ切った表情の殿下がいた。外見こそ変わらないものの、その瞳には絶望の色がにじんでいる。
「……ルージュか。わざわざ来てくれたのか」
「ええ。リナのことが心配で……。殿下のことも……」
すると、殿下は重いため息をつき、テーブルの上に視線を落とす。
「リナは近衛の監視下にあるが、直接面会することもできない。僕があれこれ動けば『共犯同士の口裏合わせ』と思われるだけだ……。何ひとつ、うまくいかない」
「でも、きっと真犯人が別にいるんですよね? どうにか証拠を掴んで、リナの疑いを晴らせれば……」
「簡単に言わないでくれ。調査権限は僕から完全に取り上げられた。いまは兄上(第一王子)側の大臣たちが調査を進めている。彼らがわざわざリナの無実を証明してくれるとも思えない」
殿下の苛立ちは痛いほどに伝わる。しかし、私もどうにもならないもどかしさを抱えている。宮廷での権力闘争に巻き込まれた結果、リオネル殿下とリナの恋は閉じ込められ、歪んだ形で国中に知られてしまった。このままでは、殿下は王位継承権を剥奪され、リナも罪を着せられたまま追放されるおそれが高い。
「……ルージュ。悪いが、君はもう帰ったほうがいい。僕と関わり続けても、何も得るものはないよ」
「そんなこと言われても……あなたを見捨てて帰れなんて、私にできると思って?」
思わず語気を強めてしまった私に、殿下はわずかに目を見開く。
「君だって、もともと“形だけ”の婚約に乗るのは、自由を守るためだったんだろう? それなら、僕がこうなった時点で契約は無意味だ。ここにいても君の足かせになるだけだ」
「それはそうかもしれないわ。でも、リナがこんな目にあって、それを放置して私だけが先に帰るなんて……。私はもう、リナを単なる他人事と思えなくなってる」
私の言葉に、殿下は小さく目を伏せる。彼の心中にはリナへの愛情と責任が渦巻いているのだろう。そのジレンマに押し潰されそうになっているようにも見えた。
「……ごめん。君には何もしてやれなくて。でも、僕は今、動けない。どうか……リナが無事に解放されるまで、見守ってやってほしい。これ以上、彼女が傷つかないように……」
そう言って俯く殿下の顔には、深い苦悩の陰が落ちている。私はそれ以上、何も言えなかった。会話を終え、部屋を出るとき、胸の奥に重く暗い感情が渦を巻いているのを感じる。
(どうして、こんなことになってしまったの……。平穏に過ごすはずが、気づいたらこんな大事に巻き込まれて……)
私の白い結婚はどこへ行ったのか。リオネル殿下とリナの仲睦まじい日々は、たったひと月ほどで粉々に砕け散ったように見える。
そして、さらなる絶望が追い打ちをかけるようにやって来るのだ。
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