婚約破棄された公爵令嬢は、もう誰の駒にもなりません

鍛高譚

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9話

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王宮の一角、夜空に浮かぶ月明かりが淡く差し込む中、王太子アルベルト・フォン・ディアレストは重い心を抱えながら書斎に籠っていた。机の上には、過ぎ去った日々の記録や、かつて彼が交わした誓いの断片が散らばっており、彼の思い出のすべてが、今や苦悩と後悔に染まっていた。

「ルーシュエ……君の笑顔が、今も忘れられぬ。」
彼は、ため息混じりに呟く。かつて、王太子としての栄光と国の未来を背負うため、彼はある決断を下した。だが、その決断は――ルーシュエとの婚約破棄という、深い悲劇へと繋がっていた。
イレーネとの婚約成立後、国政の重圧や、華やかな宮廷生活に目を奪われた彼は、ルーシュエの純粋な心と自由な魂を捨て去る決断をしたのだ。しかし、今、彼の心には、失われた愛の残像が鮮明に甦っていた。

アルベルトは、長い夜の間に何度も自らの選択を悔やみ、ルーシュエの姿が幻のように脳裏に焼き付いて離れなかった。
「もしあの時、君を守り抜いていたなら……」
彼は自分自身を責めるように、胸を抑えながら思い出す。だが、国の未来を背負うための決断は、既に取り返しのつかないものとなってしまった。

翌日、王宮の大広間にて、重厚な装飾と厳かな雰囲気の中、国王が王太子の新たな婚約者として、イレーネ・フォン・ローゼンを正式に発表した。その瞬間、広間に集う貴族たちは拍手喝采を送ったが、アルベルトの内心は、冷たい虚無感と激しい後悔で満たされていた。
「こんな華やかな婚約が、国の未来を救うのか……?」
その問いに、彼の答えは、ただ静かに胸の奥で鳴り響くだけであった。

しかし、時が経つにつれて、アルベルトの中で何かが変わり始めた。
夜遅く、書斎で独り書類に目を通す中で、彼はふと、かつてルーシュエと交わした言葉を思い出した。
「私は、自由に生きるために、何者にも縛られたくはない。」
その淡い響きは、彼の心の奥に眠る温かさを呼び覚ますと同時に、失われた愛への未練を一層強くした。
「ルーシュエ……君は、私にとって本来あるべき姿そのものだったのに……」
その思いは、彼にとってあまりにも苦く、そして切実であった。

王太子アルベルトは、ついに決意する。
「もう一度、ルーシュエを迎え入れたい。私と再び婚約してほしい。」
その決意は、彼の心に燃え上がる炎のように、深い後悔と執着を伴っていた。
こうして、イレーネとの婚約破棄後、アルベルトは自らの誤りに気づき、ルーシュエこそが真にふさわしい相手であると確信するに至ったのだ。

翌日、王宮の庭園で行われる朝の儀式の最中、アルベルトは決心を胸に、ついにルーシュエへと手紙を送る。
その手紙には、彼の切実な思いと後悔、そして再び彼女を迎えたいという願いが、力強い筆致で綴られていた。
「ルーシュエ、かつての選択は誤りだった。君こそが、私の心に真実の光を与える存在だ。どうか、再び私と婚約し、共にこの国を導いてほしい。」
その文面は、かつての情熱を甦らせるかのように、王宮内に流れ、重臣たちの間でもささやかれるようになった。

一方、ルーシュエは、王宮での生活から離れ、冒険者として自由な世界を歩んでいた。
彼女は、かつて束縛されていた貴族のしがらみを捨て、広大な大地を駆け抜け、仲間たちと共に様々な試練に立ち向かっていた。
「私は、ただ自由に生きるだけ。誰にも、何にも縛られたくはない。」
その言葉は、彼女の心に刻まれた、真の自立の証であった。

だが、王宮におけるアルベルトの決断は、運命の再会への道を開こうとしていた。
ある日の朝、アルベルトはついにルーシュエのもとへ直接訪れる決心を固め、密かに王宮の外れにある、彼女が最後に目撃された場所へと向かった。
その場所は、かつて彼女が森で目覚めたあの場所とは全く異なり、広大な大地と穏やかな風景が広がる、静かで平和な村であった。
「ルーシュエ……どうか、戻って来てほしい。」
アルベルトは、再び彼女に会えるかもしれないという希望を胸に、心を震わせながらその村の入り口に足を踏み入れた。

村の住民たちは、王太子の姿に驚きながらも、彼の名声に従い、静かに道を譲った。
アルベルトは、村の中心にたどり着くと、そこにたたずむ一人の女性に目を留めた。
それは、かつての自由な冒険者としてのルーシュエその姿であった。
彼女は、柔らかな日差しの中で、何気ない服装に身を包み、村の一角で仲間と談笑していた。
「ルーシュエ……!」
アルベルトの声は、感情に震え、かすかに切なさを伴っていた。

ルーシュエは、その声に気づき、ふと顔を上げた。
彼女の瞳は、驚きとともに冷静さを保っていた。
「……あなたは、王太子殿下?」
その問いに、アルベルトは深い後悔とともに、真摯な表情で答えた。
「ルーシュエ、私は……かつての選択を悔い、君を取り戻したいと思っている。もう一度、私と婚約してほしい。」
アルベルトの声には、あの日の情熱と、取り返しのつかない後悔が混じっていた。
だが、ルーシュエは冷たく首を振った。
「何を今さら? 私は自由な冒険者として生きることを選んだのよ。あの日の選択が、私をここまで導いたの。あなたが決めた道は、もう遅すぎるのよ。」
その言葉は、風に乗って村中に響き渡り、アルベルトの心に深い傷を残した。

王太子アルベルトは、言葉にならぬ悲哀と怒りに包まれながらも、彼女を取り戻すための決意を固めた。
しかし、同時にその再会は、彼にとっては取り返しのつかない苦悩をも意味していた。
「なぜ……なぜ私は、あの時君を手放したのか……」
彼は、己の内面と激しく戦いながら、心の奥底に残るルーシュエへの想いと、政治的な責任との間で苦しみ続けた。

王宮へ戻ったアルベルトは、書斎にこもり、過去の記憶やルーシュエとの日々を綴った日記を何度も読み返した。
「君は、ただ自由であってほしかった。私には、その自由を奪う権利はなかったのだろうに……」
彼の言葉は、悲痛な後悔と、かすかな希望が交錯するものだった。
だが、彼はすでに時を戻すことはできず、ただ自らの過ちと向き合うしかなかった。

その後、王宮内での改革の議論が始まる中、アルベルトは内心でルーシュエの存在が自分にとっていかに大切であったかを再確認する。
「もし、あの日の選択が違っていたなら……君は、今もここにいてくれたのだろうか?」
しかし、ルーシュエは、既に自由を手に入れ、王宮のしがらみから解放された冒険者として、新たな未来を歩み始めていた。
彼女の旅立ちは、国政における王太子の判断をさらに揺るがすこととなった。

そして、王太子は、再びルーシュエとの再会を望むようになる。
その望みは、もはや単なる後悔や懐古の念だけではなかった。
彼の心には、ルーシュエを取り戻すことで、己の誤った選択を正そうという、狂気に近いほどの執着が宿っていた。
「ルーシュエ、私と再び婚約し、共にこの国を導いてほしい!」
彼は、再び村の中でルーシュエに会うべく、勇気を振り絞り、彼女のもとへと足を運んだ。
しかし、彼女は冷たく首を横に振るだけだった。
「何を今さら? 私は自由に生きるために、ここを離れたの。」
その言葉が、王太子の胸に激しい痛みを走らせた。
「君は……私の運命だと、ずっと信じていたのに!」
アルベルトは、涙ながらに叫ぶも、その声は虚しく、どこにも届かなかった。

こうして、王宮と外の世界における、二つの運命が静かに交錯する中で、王太子アルベルトは、己の選択と向き合い、後悔と執着の中で苦しみ続ける。
彼の心は、あの日の失われた愛への想いと、国の未来を守るための責任との狭間で、終わりなき葛藤に囚われ、もはや正気の域を超えつつあった。

一方で、ルーシュエは、自由な冒険者としての生活を謳歌しながらも、心の奥にある傷と家族の陰謀の記憶を、ひそかに胸に秘めていた。
「私には、もう王宮のしがらみは必要ない。自由こそが、私の本当の生きる道なの。」
そう決意した彼女は、新たな冒険の旅路へと、自らの足で歩み出す準備を整え、次なる目的地へと向かっていた。

王宮内では、改革を進めようとする重臣たちと、アルベルトの内面で渦巻く絶望が、複雑な政治の駆け引きとして展開され、国全体に影を落とし始めた。
しかし、アルベルト自身は、もはや取り返しのつかない過去と、深い後悔に囚われながらも、かつての愛を取り戻すことはできなかった。
「もし、あの日君を守っていたなら……」
その言葉は、彼の書斎の隅でひっそりと呟かれ、ページに刻まれた過去の約束の数々が、彼に永遠の苦悩を与え続けた。

こうして、王太子の内面にある激しい後悔と、ルーシュエの自由への揺るぎない決意は、互いに遠く離れた場所で、確かな影を落とし続ける。
国の未来は、彼ら二人の選択と、それぞれの生き方によって大きく変わろうとしていた。
「私の未来は、私自身の手で切り拓く。」
ルーシュエのその言葉は、広大な大地に響き渡り、風に乗って未来への希望となって、静かに、しかし確実に流れていった。

王宮での出来事と、自由な大地を駆け抜ける冒険者としてのルーシュエの姿――
これらは、まるで運命の二つの糸が、互いに遠く離れながらも、同じ未来へと収束していくかのようだった。
アルベルトの心に刻まれたあの日の記憶と、ルーシュエの瞳に宿る自由への炎は、次第に国全体の命運をも左右する大きな波紋となって、これからの時代を予感させるものとなった。

夜が明け、王宮の庭園に朝日が昇る頃、王太子は再び書斎に座り、静かに思索に耽った。
「私の過ちは取り返しのつかぬもの……だが、もしも……もしも君が、今も生きているなら……」
その言葉は、虚しくも彼の心にこだまし、決して戻ることのない時間への哀惜を感じさせた。
だが、彼はもう、どんな願いも叶えることはできなかった。
王宮内は、改革の波が押し寄せ、民衆の怒りと不満が、国の基盤を揺るがし始めていた。
「……すべては、私の選択の結果だ。」
と、アルベルトは苦悶の中で呟いたが、その声はもはや、王族としての威厳を失った男の、孤独な叫びとなって、夜の闇に消えていった。

こうして、王宮内外における激しい混乱の中で、王太子の暗殺計画の失敗と、彼自身の取り返しのつかない後悔が、国の未来を暗い方向へと導く伏線となった。
そして、ルーシュエは、自由を謳歌しながらも、家族の裏切りと真実を暴くため、己の力で新たな未来を切り拓く決意を固め、次なる冒険へと旅立つ準備を進めていった。
「私は、もう誰にも支配されない。これからの未来は、私が自らの手で作るの。」
その強い意志は、遠い王宮で苦悩に沈むアルベルトの心とは対照的に、真っ直ぐに大地へと響いていた。

国王や重臣たちは、王宮内での一連の出来事により、これまでの体制を大きく見直す必要に迫られていた。
新たな改革の動きが始まる中、王太子アルベルトは、もはや王族としての栄光も未来への希望も、完全に失い、ただ自らの過ちと向き合うしかなかった。
その孤独な夜、王宮の暗い廊下を歩く彼の姿は、誰にも救いを求めることのできない、まるで廃墟の中の彷徨える魂のようであった。

こうして、「第二部 第3章:王太子の婚約破棄と逆恨み」の出来事は、王宮内における新たな混乱と、国民の怒り、そして未来への深い不安を呼び起こす結果となった。
その影響は、国全体に広がり、次第に王宮の運命だけでなく、王国そのものの未来をも左右する重大な問題へと発展していく。

王太子アルベルトの深い後悔と苦悶、そしてルーシュエの自由への揺るぎない決意は、まさに運命の糸が交錯する瞬間を迎えた。
「すべては、私の選択の結果……」
その言葉を胸に、王太子は暗闇に閉ざされた書斎の中で、未来を取り戻すことは叶わぬまま、ただ自らの絶望と後悔に囚われ、時は静かに流れていった。

一方、遠く離れた大地で、ルーシュエは新たな冒険へと歩み始める。
彼女は、王宮のしがらみと家族の裏切りから解放され、真に自由な存在として自分の未来を切り拓く決意を固めていた。
その自由への道は険しく、数々の試練が待ち受けているが、彼女はその全てを乗り越える覚悟を胸に、前へと進むのだった。

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