白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚

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第3章:王太子妃となる日はあっさりと、しかし盛大に訪れましたわ

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わたくしは残されたグラスを置き、改めて周囲を見渡す。貴族や要人たちは思い思いに談笑し、音楽に耳を傾け、華やかな晩餐を楽しんでいる。だが、その中に“わたくしを貶めようとする輩”が紛れ込んでいる可能性があるのだ。
 むろん、今回の結婚をよく思わない者は一定数いるだろう。名家の令嬢の中には「自分が王太子妃になりたかった」と嫉妬する者もいれば、他国の使節や国内の政治派閥で、王太子殿下を陥れたい勢力もあるかもしれない。とにもかくにも、わたくしは“形だけの結婚”などという内情が公になることだけは避けたい。周囲には「愛し合う二人の結婚」として認識させておかないと、自由な生活が脅かされかねないからだ。

(さて、どう動くべきかしら。……と思ったけれど、わたくし一人で考え込んでも仕方ないわね。まずはアルベルト様にも知らせるべきかもしれない)

 そう思った矢先、ちょうど大広間の入り口付近にアルベルト様の姿が見えた。先ほど去って行ったと思ったら、もう用事が済んだのだろうか。そばには見慣れない男が一人、低く頭を下げながら何かを説明しているようだ。わたくしはなるべく人目につかないように近づき、それとなくアルベルト様に声をかける。

「殿下、少しお耳を拝借してよろしいですか?」

「……ルチアーナ、どうした? 少し顔色が硬いように見えるが……」

 アルベルト様が怪訝な顔をしたので、わたくしは周囲に聞こえぬよう、こっそり耳打ちした。

「じつは……リリア様から聞いたのですが、“わたくしを貶める策を練えている集団がいるらしい”とのことなんです。彼らは“王太子殿下が平民を愛している”という噂も掴んでいるとか」

「なに……!?」

 彼の顔が一瞬にして青ざめる。無理もない、愛人の存在が外部に知られれば、王家や公爵家にも大きな傷がつく。しかも、今日の祝宴という目立つ舞台でそれを暴露されれば、国中が大騒ぎになるのは必至だ。そんな事態は絶対に避けたい――わたくしもアルベルト様も同じ思いである。

「詳しいことはまだわかりませんが、とにかく注意していただきたいのです。どこかで変な流れになりそうなら、早めに対処しなければ……」

「わかった。あまり大事にはしたくないが、侍従長や近衛隊長にも声をかけて警戒にあたらせよう。……すまない、ルチアーナ。せっかくの祝宴だというのに……」

「いえいえ、わたくしも何か気づいたらすぐにお知らせします。とりあえず“平然と会場を回っている姿”を見せておけばいいでしょうから……」

 アルベルト様は頷くと、近くに控えていた側近を呼び、“少し警戒を強めるように”と短く指示を与えた。わたくしが「それでは、わたくしは今まで通り挨拶を続けますわね」と伝えると、彼も「頼む」とうなずく。

 こうしてわたくしは、表向きにはいつも通り笑顔を絶やさず、貴族や要人たちのもとを回り始めた。
 マルディーニ伯爵、オルテガ侯爵、商業ギルドの代表、ほか外国からの使者など、一人ひとりに挨拶し、形式的な祝福の言葉を受ける。話の中身は「王太子殿下と幸せな家庭を築いてくださいね」「これからは王太子妃として多忙でしょうが頑張ってください」など無難なものばかり。わたくしは微笑みながら相槌を打ち、時々簡単な返事をする。
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