白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚

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第4章:夫が私を気にかけ始めましたが……遅すぎますわ

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華やかな祝宴が終わり、王太子妃としての生活が本格的に始まってから、早くも十数日が経過した。
 大勢の来賓を招いた結婚式と披露宴は、国中の話題をさらい、大きな成功を収めたと評判だ。わたくしは王太子——アルベルト様——の正式な妃として、その華々しい舞台を無難に乗り切ることができた。
 しかし、あの祝宴の最中には一悶着もあった。“わたくしを貶めようとする勢力”が噂を流布し、平民出身の愛人の存在を嗅ぎつけて騒ぎを起こそうと企んでいた。まさに、わたくしとアルベルト様、そして愛人であるリリア様の“三角関係”を暴露してやろうという腹づもりだったのだろう。
 だが、なんとか被害は最小限に食い止めることに成功し、式や宴会が大混乱に陥る事態にはならなかった。もともと形式的な“白い結婚”である以上、わたくし自身は「どうなっても構わないわ」とすら思う部分もあったが、少なくとも“王太子妃”という立場を確立するためには、当面のスキャンダルは避けたいのも事実。結果的に大事に至らず済んだことは、わたくしにとって好都合でもあった。

 その後、わたくしは“新婚ほやほやの王太子妃”として、日々の公務やあいさつ回り、各種の公式行事に顔を出すよう求められた。これまで公爵令嬢として暮らしていた頃よりも、はるかに多忙なスケジュールだ。人によっては「王太子妃になってさらに充実しているでしょう?」などと羨ましがるかもしれない。
 ところが、実際のわたくしはといえば、相変わらず「自由な時間がもっと欲しい」と感じていた。書斎で紅茶を味わいながら読書を楽しむ——そんな静かなひとときこそ、わたくしにとって至高の時間なのだ。けれど、王太子妃に課せられる“表の仕事”が多すぎて、なかなか好き勝手に過ごすわけにはいかない。
 それでも、白い結婚のメリットは大きい。アルベルト様はほとんどわたくしに干渉してこない。むしろ、愛人であるリリア様との時間を大事にしている様子で、わたくしがどう過ごそうと特に疑問を呈することはない。今のところ、わたくしとアルベルト様の関係は“公務の上での協力者”という程度に落ち着いていた。夫婦なのに、いや、夫婦だからこそ、距離があるといえばよいのだろうか。

 一方、リリア様はというと、この王宮の一角に居室を与えられ、ひっそりと暮らしている。彼女は控えめで純粋な性格なので、“王太子の愛人”という後ろめたさから、表舞台に出ようとはしない。しかし、わたくしとは時々お茶をする仲になっているし、紅茶の本を貸してあげたり、城下町で流行しているお菓子の話をしたりと、友人のように楽しんでいる。これまでの貴族社会ではあり得ない光景かもしれないが、三人の思惑が合致している以上、誰も困ることはないのだ。

 ところが、そんな平穏が続くと思っていた矢先、ある日を境にアルベルト様がわたくしを“妙に気にかけている”気配を見せ始めた。それはほんの些細な変化だった。たとえば、公務の合間にわたくしの近況を聞いてきたり、「疲れてはいないか?」と声をかけてきたり——以前ならまったく無関心だったくせに、なぜか最近はわたくしと目が合うと軽く会釈をしてくれる。
 最初は「結婚したばかりだから、それっぽく見せているのかしら?」と思ったのだが、どうにも行き過ぎなほど視線を感じることがある。それに、時にはリリア様と話をしているときでさえ、アルベルト様がこちらをちらちら見る場面もあるのだ。わたくしは困惑してしまう。彼はリリア様を愛しているはずで、わたくしを邪魔者扱いしてきてもおかしくないのに、今さらなぜわたくしを意識するのか?

 その理由を考えているうちに、わたくしはある事実を知ることになる。以前から水面下で動いていた“わたくしを貶めようとする勢力”が、再び暗躍を始めているという話だ。クラリッサ令嬢らが画策した陰謀は表立って成功しなかったものの、どうやら諦めてはいないらしい。
 さらに、王太子妃たるわたくしを陥れる手段が難しいと知った彼らは、今度はむしろ「王太子殿下の本命が誰であるか」を探ろうとしているようだ。つまり、わたくしとリリア様の関係を揺さぶり、“醜聞”として公にさらす狙いがあるらしい。先日の祝宴では失敗したものの、別の機会を狙っているわけだ。
 アルベルト様もそれを警戒していて、わたくしやリリア様に危害が及ばないよう、さりげなく守ろうとしているのかもしれない……——そう推測すると、わたくしへの気遣いも納得がいく。だが、実はそれだけではなかったのだ。
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