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1-3. 少年の告白
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1-3. 少年の告白
薄曇りの朝靄が残る村外れの小さな祠の前。森の鳥がまだ眠りから目覚めきれないうちに、一人の少年が疾風のように駆け寄った。栗色の髪をかき上げ、瞳に熱い決意を宿したその姿は、どこか大人びて見えた。
「リリス、待ってくれ!」
薬草小屋へ向かうリリスを、アルトは呼び止める。だが彼の声には怯えではなく、断固たる意志がにじんでいた。
リリスは静かに足を止め、振り返りもせずに答える。
「アルト……また来たのね。こんな朝早くに、何の用?」
「用? 用は簡単だ。リリスを一人で行かせる気はないって言ってるんだよ!」
少年の声は震えていたが、言葉の端々には大人顔負けの強さがあった。小さな手でリリスの裾をつかんだまま、彼は身を乗り出す。
「俺が、リリスを守る! この村の命も、リリスがいる限り、俺が――」
と、言いかけてアルトは言葉を詰まらせた。胸の奥で込み上げる感情を抑えきれず、そのまま瞳を潤ませる。
「違う、リリスは――俺の……俺の大切な人だから!」
突然の告白に、リリスの背筋が一瞬だけ硬くなる。
「……え?」
一文字だけ漏れた彼女の声は、夜露に濡れた草のようにか細く響いた。
アルトは一呼吸置いて、軽く身を引き、まっすぐにリリスを見つめた。
「だから、リリスを一人にさせない。お前のことが好きなんだ。好きだって言ってんだよ!」
幼い顔立ちとは裏腹に、言葉には揺るぎない覚悟が宿っていた。リリスはアルトの瞳の奥に、これまで誰にも見せたことのない“何か”を見たような気がして、思わず動揺してしまう。
「……バカね」
そんな彼女の言葉は、厳しく突き放すようでいて、どこか甘さが混じっていた。
アルトは小さくプイと頬を膨らませる。
「バカって、どういう意味だよ!」
泣きそうになりながらも、意地を張るその様子は、まるで恋に不器用な青年のようだった。
リリスはため息をひとつ吐くと、そっとアルトの額に手を当てた。
その指先は冷たいはずなのに、まるで初夏の風を思わせるように優しかった。
「私はね、何百年も生きてきた。人間は一瞬で消え去る儚い存在。だから、誰かを“愛する”なんて、簡単にできるものじゃないの」
声のトーンは静かだが、言葉は重く響く。
アルトはじっとリリスの指先を見つめた後、ゆっくりと言った。
「そんなの、関係ない。俺は、リリスがいるから生きてるんだ。魔女だろうが何だろうが、リリスはリリスだ。お前を──好きな気持ちは変わらないんだよ!」
その一言に、リリスの目から一筋の光が零れ落ちた。
「……ちょっと、キュンとしちゃったじゃない」
ふいに笑みを交えた彼女の声には、いつもの冷静さを超えた温もりが宿っていた。
アルトは照れくさそうに顔を逸らし、そっと拳を握りしめた。
「……リリス、約束してくれ。どんなことがあっても、俺はお前を守るって」
その声には、揺るがぬ誓いと、無垢な愛が溢れていた。
リリスはそっとアルトの頬に触れ、白い指と栗色の髪のコントラストを確かめるように視線を落とした。
「……わかったわ、アルト。あなたの想いは、きっと受け取った。だけど覚悟して――この先、私は“魔女”として裁かれるのだから」
アルトの表情が一瞬だけ強張る。
「構わない。俺は――リリスと一緒にいる覚悟だけはあるから」
静かな祠の前に、二人の声だけが深く残った。
嘲笑や侮蔑に満ちた世界の片隅で――少年の呼び捨てと精一杯の告白は、確かな光となってリリスの心に灯りをともしたのだった。
薄曇りの朝靄が残る村外れの小さな祠の前。森の鳥がまだ眠りから目覚めきれないうちに、一人の少年が疾風のように駆け寄った。栗色の髪をかき上げ、瞳に熱い決意を宿したその姿は、どこか大人びて見えた。
「リリス、待ってくれ!」
薬草小屋へ向かうリリスを、アルトは呼び止める。だが彼の声には怯えではなく、断固たる意志がにじんでいた。
リリスは静かに足を止め、振り返りもせずに答える。
「アルト……また来たのね。こんな朝早くに、何の用?」
「用? 用は簡単だ。リリスを一人で行かせる気はないって言ってるんだよ!」
少年の声は震えていたが、言葉の端々には大人顔負けの強さがあった。小さな手でリリスの裾をつかんだまま、彼は身を乗り出す。
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と、言いかけてアルトは言葉を詰まらせた。胸の奥で込み上げる感情を抑えきれず、そのまま瞳を潤ませる。
「違う、リリスは――俺の……俺の大切な人だから!」
突然の告白に、リリスの背筋が一瞬だけ硬くなる。
「……え?」
一文字だけ漏れた彼女の声は、夜露に濡れた草のようにか細く響いた。
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「だから、リリスを一人にさせない。お前のことが好きなんだ。好きだって言ってんだよ!」
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「……バカね」
そんな彼女の言葉は、厳しく突き放すようでいて、どこか甘さが混じっていた。
アルトは小さくプイと頬を膨らませる。
「バカって、どういう意味だよ!」
泣きそうになりながらも、意地を張るその様子は、まるで恋に不器用な青年のようだった。
リリスはため息をひとつ吐くと、そっとアルトの額に手を当てた。
その指先は冷たいはずなのに、まるで初夏の風を思わせるように優しかった。
「私はね、何百年も生きてきた。人間は一瞬で消え去る儚い存在。だから、誰かを“愛する”なんて、簡単にできるものじゃないの」
声のトーンは静かだが、言葉は重く響く。
アルトはじっとリリスの指先を見つめた後、ゆっくりと言った。
「そんなの、関係ない。俺は、リリスがいるから生きてるんだ。魔女だろうが何だろうが、リリスはリリスだ。お前を──好きな気持ちは変わらないんだよ!」
その一言に、リリスの目から一筋の光が零れ落ちた。
「……ちょっと、キュンとしちゃったじゃない」
ふいに笑みを交えた彼女の声には、いつもの冷静さを超えた温もりが宿っていた。
アルトは照れくさそうに顔を逸らし、そっと拳を握りしめた。
「……リリス、約束してくれ。どんなことがあっても、俺はお前を守るって」
その声には、揺るがぬ誓いと、無垢な愛が溢れていた。
リリスはそっとアルトの頬に触れ、白い指と栗色の髪のコントラストを確かめるように視線を落とした。
「……わかったわ、アルト。あなたの想いは、きっと受け取った。だけど覚悟して――この先、私は“魔女”として裁かれるのだから」
アルトの表情が一瞬だけ強張る。
「構わない。俺は――リリスと一緒にいる覚悟だけはあるから」
静かな祠の前に、二人の声だけが深く残った。
嘲笑や侮蔑に満ちた世界の片隅で――少年の呼び捨てと精一杯の告白は、確かな光となってリリスの心に灯りをともしたのだった。
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