『魔女狩り?魔女裁判?狩られるのも裁かれるのもお前らだ!』

鍛高譚

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1-2. 脅威の訪れ

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1-2. 脅威の訪れ

――それは、いつもの穏やかな朝だった。
森の小径には小鳥の囀りが満ち、霧が淡く立ち込めるだけ。村人たちは朝食を終えたり、家畜の世話をしたり、それぞれにいつもの一日を始めようとしていた。だが、その平穏は、遠くの木立を揺らす馬蹄の響きによって打ち破られた。

「――馬だ! まさか、まさかあれは……!」

鍛冶屋の青年が大声で叫び、村人たちが一斉に顔を上げる。重たい鉄の蹄鉄を打つ蹄音は、森の静寂を引き裂き、やがて幾つもの声とともに遠雷のように迫ってきた。見慣れぬ甲冑の騎士団が、数十頭の馬を連ねて森の小道を駆け下りてくる。その騎士たちは黒い外套を羽織り、胸には銀の十字架をかたどったバッジを輝かせていた。

「魔女狩り隊だ……!」

ひとりの老女が顔を青ざめさせ、慌てて背を向ける。数人の子どもたちが泣き声をあげ、母親たちは子らを抱き寄せた。騎士団は馬上で静かに辺りを見つめ、まるで獲物を探す猛獣のように一瞬の静寂をちらつかせる。そして、先頭に立つ審問官でしょう――長い黒髪を風になびかせた男が、鋭い目で村の中央へと目を留めた。

「ここに……善良な魔女が棲むというのか」
「拷問の痕跡はないか。隠匿の者がいれば、容赦なく処断せよ」

審問官の声は冷たく、そして断罪を確定づける響きを帯びていた。彼の背後で、松明を掲げる護衛兵たちが集落の入口を固め、村の出入り口を封鎖する。逃げ場を失った村人たちは恐怖に凍りつき、口を閉ざしたままその場に立ちすくむ。わずかな隙間からなら逃げられると考えた者も、犠牲を出したくないという思いが心の奥で絡み合い、結局はその場を離れられなかった。

「リリス様が、何をしたというのですか……?」
鍛冶屋の青年が恐る恐る声を震わせる。
「知らないのか? 魔女狩りとは、我が国の罪人を裁く国家の正義だ。いかなる魔術師も、悪意ある魔女も、この鉄槌からは逃れられん」

その説明に、村の誰もが目を伏せる。だが誰もが思った――リリスは、そのどちらでもない。村の病人を癒し、子どもたちに薬草の知恵を教え、何度も村の危機を救ってくれた“善き魔女”だ。彼女の立ち振る舞いや言葉には、慈悲と温もりしかなかった。なぜ、そんな存在が一国の敵とされなければならないのか――。

そんな疑問を抱える間もなく、審問官は馬から静かに降り立った。彼の足元には、黒い十字架の紋章が刻まれた箱が携えられている。箱の蓋を開けると、中には真っ赤に染まった羊皮紙が無造作に折り畳まれていた。

「逮捕状――正真正銘、王都から発行されたものだ。証拠もそろっておる。森に隠れ住む魔女リリスを、直ちに引き渡せ」

審問官はそう言い放つと、周囲の護衛兵に指示を飛ばした。鉄製の手錠をつけた兵たちは、村の家々に目を光らせ、リリスの行き先とされる薬草小屋へと足を踏み入れようとする。

その瞬間、村人たちの足音が一斉に集まった。鍛冶屋の青年や大工、木こりの父親、年老いた村長の老女らが、恐怖と怒りを押し隠し、自らの体を盾に立ちはだかる。

「待ってくれ! 彼女は悪くない! この村のみんなを何度も救ってくれた、善き魔女なんだ!」
「話を聞いてください! どうか、誤解を解いて!」

村人たちの訴えは、迫りくる審問官にはまるで届かない壁のようだった。護衛兵たちは無言で角材や木製のやりで威嚇し、村人を押しのけようとする。だが、村人たちの決意は固かった。誰もが口々に叫びながら、護衛兵の胸ぐらをつかみ、家族を守ろうと必死だった。

――混乱の中、薬草小屋の扉が勢いよく開け放たれた。
夜露に濡れた緑のライトグリーンのローブを羽織ったリリスが、凛とした姿で現れる。彼女の瞳は穏やかだが、その奥には静かな覚悟が宿っていた。

「やめてください……私が、行きます」
リリスの声は低く、しかし確かな響きがあった。周囲で喚く審問官や護衛兵たちも、その声を無視できなかった。村人たちもまた、悲しげに目を伏せる。

「村のみんなをこれ以上、危険に晒したくないの。どうか、私だけを……」
リリスは一歩ずつ、薬草小屋の前から学級のある広場へと歩み出す。その歩みは揺るがず、まるで古木のように揺るぎないものだった。審問官が命じるままに手錠をかけようとしたその瞬間、リリスは静かに目を閉じ、一礼だけを深く捧げた。

「皆さん、ありがとう……さようなら」

リリスの言葉はか細く、だが胸を締めつける力を持っていた。彼女はそのまま護衛兵に連行され、波紋のように広がった村人たちの悲鳴と涙を背に、森の小道を進んでいった。
脅威は、こうして容赦なく、善き魔女を襲った――。

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