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第4章:最高の婚約者と婚約破棄された男の末路
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1.宮廷での密議と、アレクシスの決断
エミリアが皇太子アレクシスに招かれて、離宮で小規模の舞踏会に参加した夜から、すでに半月が過ぎていた。その間、エミリアは父ヘンリー公爵の助力を得ながら、王都の有力者たちの動向を細かく探り始めている。
アレクシスが求めているのは、「クラリッサとアルバートの横暴を抑えるための証拠や、対抗勢力とのパイプづくり」だ。そのため、エミリアは貴族としての血筋や交友関係をフル活用し、王宮の内情を洗い出すよう努めていた。かつては自分の婚約者だったアルバートが、どこでどんな打ち合わせをし、どのような権限を握ろうとしているのか――それを探るのは、彼女にとって苦くも重要な任務である。
ある日、ウィンスレット公爵家を訪れた皇太子アレクシスは、エミリアと父ヘンリー公爵との密談の場を設けた。応接間には、アレクシスの近衛騎士たちが警護に当たり、余計な耳を排除している。
「……ご存じの通り、近々クラリッサは盛大な婚礼の儀を執り行う予定だ。そこでは、アルバートを国政の中心に据える宣言が行われると聞いている。具体的には、王国軍の指揮権に関わる高官ポストを与え、さらに貴族院にも強い影響力を持たせるとか」
アレクシスが低く落ち着いた声で語ると、ヘンリー公爵は渋面をつくる。
「軍の指揮権……。確かに国王陛下は高齢になられ、近年の政務もクラリッサ王女が代行される場面が増えておりますな。そこへロンズデール公爵家が食い込めば、実質的な軍事の中枢が彼らの手に落ちる可能性もある。……これは、見過ごせぬ話だ」
「はい。もしアルバートが力を握れば、貴族たちを恐怖で支配するのも容易いでしょう。もともとロンズデール家は代々軍人や騎士を多く輩出している家系ですし、アルバート本人の統率力はともかく、立場と歴史が揃えば人はついてくる。そうなれば、私たちの自由が脅かされる日も近いかもしれません」
そう言いながらエミリアは、静かながらも怒りを胸に秘めていた。アルバートがただの名誉職に甘んじるならば話は別だが、彼が王女と共謀して権力を欲するならば、この国の未来は暗い。なにより、エミリア個人の気持ちとして“あんな男が国を動かすなど冗談じゃない”という思いがある。
アレクシスはそんなエミリアの横顔をひと瞥し、わずかに微笑む。
「クラリッサとアルバートの暗躍を抑えるには、王都の有力貴族――特に公爵位や侯爵位を持つ家が協力し合うことが必要だ。ウィンスレット公爵、そしてエミリア。どうかこれからも私に力を貸してほしい」
皇太子から直接そう頼まれ、ヘンリー公爵は静かに頷いた。
「無論です。ウィンスレット公爵家は、代々王家に忠誠を誓っております。たとえ相手が王女殿下でも、我らが国を危機に陥れるとなれば、見過ごすわけにはまいりません。……エミリア、お前のほうも問題はないな?」
「ええ、父様。私ももちろん、アルバートの暴走を止めるためならば全力を尽くしますわ」
そう答えながら、エミリアは自分自身に問いかける――“これは私の“個人的な復讐”を越えた戦い”だと。最初こそ、アルバートへの恨みが強かった。それは今も変わらない。だが、皇太子の考えを知るにつれ、エミリアはこの国の未来までを意識するようになっていた。王女が安易に権力を振りかざし、そこにアルバートのような利己的な人物が加担すれば、やがて国民は苦しむかもしれない。そうなれば、その影響はウィンスレット公爵家にも及ぶ。――何としても防がねばならない。
「ありがとう。……近々、私は王宮で開かれる“小宴(しょうえん)”に顔を出すつもりだ。これは王女が主催する非公式の晩餐会らしいが、そこにアルバートも同席するだろう。おそらく“婚礼の前哨戦”として、内輪の貴族たちに何らかの方針を示すはずだ。……そこへ私が乗り込んで、連中の裏を取る。エミリアも同行してくれないか?」
皇太子の提案に、エミリアはほんの少し息を呑む。“王女主催の晩餐会”は、言うなれば敵陣のど真ん中。それに皇太子がわざわざ出席するとなれば、緊張が高まるのは明白だ。そこでアレクシスはあえてエミリアを同席させるのだという。
「はい、私でよろしければ。……ですが、私が行けば、王女殿下やアルバートにとって目障りでは?」
「むしろ、そのほうがいい。やつらが取り繕う態度が崩れた瞬間、私たちにとって好都合な証拠がこぼれ出ることもある。私には、当日の様子を逐一記録させる腹心がいる。……それに、王都の有力貴族であるウィンスレット公爵家の令嬢が同行すること自体、いい“牽制”になる」
アレクシスの視線は強く、揺らぎがない。その意図を汲み取り、エミリアも覚悟を決める。彼女にとっては、因縁の相手であるアルバートとクラリッサに、正面から宣戦布告するような場となるだろう。だが、“敵のホーム”であろうと、こちらには皇太子という“最高の味方”がいる。
「わかりました、殿下。精いっぱいお支えします」
こうして、次なる決戦の舞台が一つ、定まった。エミリアは胸の奥に燃える思いを抑え、静かに拳を握りしめる。――(さあ、今度はあの人たちを跪かせる番よ……)と。
エミリアが皇太子アレクシスに招かれて、離宮で小規模の舞踏会に参加した夜から、すでに半月が過ぎていた。その間、エミリアは父ヘンリー公爵の助力を得ながら、王都の有力者たちの動向を細かく探り始めている。
アレクシスが求めているのは、「クラリッサとアルバートの横暴を抑えるための証拠や、対抗勢力とのパイプづくり」だ。そのため、エミリアは貴族としての血筋や交友関係をフル活用し、王宮の内情を洗い出すよう努めていた。かつては自分の婚約者だったアルバートが、どこでどんな打ち合わせをし、どのような権限を握ろうとしているのか――それを探るのは、彼女にとって苦くも重要な任務である。
ある日、ウィンスレット公爵家を訪れた皇太子アレクシスは、エミリアと父ヘンリー公爵との密談の場を設けた。応接間には、アレクシスの近衛騎士たちが警護に当たり、余計な耳を排除している。
「……ご存じの通り、近々クラリッサは盛大な婚礼の儀を執り行う予定だ。そこでは、アルバートを国政の中心に据える宣言が行われると聞いている。具体的には、王国軍の指揮権に関わる高官ポストを与え、さらに貴族院にも強い影響力を持たせるとか」
アレクシスが低く落ち着いた声で語ると、ヘンリー公爵は渋面をつくる。
「軍の指揮権……。確かに国王陛下は高齢になられ、近年の政務もクラリッサ王女が代行される場面が増えておりますな。そこへロンズデール公爵家が食い込めば、実質的な軍事の中枢が彼らの手に落ちる可能性もある。……これは、見過ごせぬ話だ」
「はい。もしアルバートが力を握れば、貴族たちを恐怖で支配するのも容易いでしょう。もともとロンズデール家は代々軍人や騎士を多く輩出している家系ですし、アルバート本人の統率力はともかく、立場と歴史が揃えば人はついてくる。そうなれば、私たちの自由が脅かされる日も近いかもしれません」
そう言いながらエミリアは、静かながらも怒りを胸に秘めていた。アルバートがただの名誉職に甘んじるならば話は別だが、彼が王女と共謀して権力を欲するならば、この国の未来は暗い。なにより、エミリア個人の気持ちとして“あんな男が国を動かすなど冗談じゃない”という思いがある。
アレクシスはそんなエミリアの横顔をひと瞥し、わずかに微笑む。
「クラリッサとアルバートの暗躍を抑えるには、王都の有力貴族――特に公爵位や侯爵位を持つ家が協力し合うことが必要だ。ウィンスレット公爵、そしてエミリア。どうかこれからも私に力を貸してほしい」
皇太子から直接そう頼まれ、ヘンリー公爵は静かに頷いた。
「無論です。ウィンスレット公爵家は、代々王家に忠誠を誓っております。たとえ相手が王女殿下でも、我らが国を危機に陥れるとなれば、見過ごすわけにはまいりません。……エミリア、お前のほうも問題はないな?」
「ええ、父様。私ももちろん、アルバートの暴走を止めるためならば全力を尽くしますわ」
そう答えながら、エミリアは自分自身に問いかける――“これは私の“個人的な復讐”を越えた戦い”だと。最初こそ、アルバートへの恨みが強かった。それは今も変わらない。だが、皇太子の考えを知るにつれ、エミリアはこの国の未来までを意識するようになっていた。王女が安易に権力を振りかざし、そこにアルバートのような利己的な人物が加担すれば、やがて国民は苦しむかもしれない。そうなれば、その影響はウィンスレット公爵家にも及ぶ。――何としても防がねばならない。
「ありがとう。……近々、私は王宮で開かれる“小宴(しょうえん)”に顔を出すつもりだ。これは王女が主催する非公式の晩餐会らしいが、そこにアルバートも同席するだろう。おそらく“婚礼の前哨戦”として、内輪の貴族たちに何らかの方針を示すはずだ。……そこへ私が乗り込んで、連中の裏を取る。エミリアも同行してくれないか?」
皇太子の提案に、エミリアはほんの少し息を呑む。“王女主催の晩餐会”は、言うなれば敵陣のど真ん中。それに皇太子がわざわざ出席するとなれば、緊張が高まるのは明白だ。そこでアレクシスはあえてエミリアを同席させるのだという。
「はい、私でよろしければ。……ですが、私が行けば、王女殿下やアルバートにとって目障りでは?」
「むしろ、そのほうがいい。やつらが取り繕う態度が崩れた瞬間、私たちにとって好都合な証拠がこぼれ出ることもある。私には、当日の様子を逐一記録させる腹心がいる。……それに、王都の有力貴族であるウィンスレット公爵家の令嬢が同行すること自体、いい“牽制”になる」
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「わかりました、殿下。精いっぱいお支えします」
こうして、次なる決戦の舞台が一つ、定まった。エミリアは胸の奥に燃える思いを抑え、静かに拳を握りしめる。――(さあ、今度はあの人たちを跪かせる番よ……)と。
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