捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来

鍛高譚

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第4章:最高の婚約者と婚約破棄された男の末路

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2.王女主催の“小宴”――激突の前兆

 晩餐会といっても、王女クラリッサが主催するのは公式行事ではなく、あくまで“親しい貴族や関係者”を集めた小規模な会合だ。だが、その実態は“王女派”の結束を図るための政治的集まりである可能性が高い。
 エミリアと皇太子アレクシスは、互いに身を飾る侍従や侍女を最小限に抑え、あくまで“私的な訪問”という形で王女の離宮へと向かう。到着した頃には夕暮れが近づいており、離宮の周囲は点々と篝火が焚かれて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 クラリッサが用意した広間には、すでに十数名の貴族たちが集い、談笑を交わしている。その中心には、王女クラリッサとアルバート・ロンズデール。――まるで夫妻のように腕を絡ませて、仲睦まじさを誇示している。
 エミリアは、彼らの姿を一目見るなり、胸の奥にざわっとした痛みを覚えた。過去の苦々しい記憶が蘇り、同時に新たな怒りが燃え上がる。だが、それを表情には決して出さず、むしろ凛とした態度で会場へ踏み込む。
 そして、皇太子アレクシスの到着に気づいた王女クラリッサもまた、わざとらしい笑みを浮かべて拍手をする。
 「まあ、お兄様。いらしてくださるなんて嬉しいわ。こんな小さな宴に、わざわざ足を運んでくださるなんて思っていなかったものだから」
 その言葉に、アレクシスは淡々と微笑みを返す。
 「妹上の催しとあらば、顔を出すのが礼儀というものだろう。それに……国王陛下に代わって、貴族の皆様にご挨拶するのも私の務めだ。どうか取り計らいよろしく頼むよ」

 すると、アルバートがクラリッサの隣から一歩進み出て、皮肉交じりの視線をアレクシスとエミリアへ投げかける。
 「これは驚きました。皇太子殿下と……ウィンスレット令嬢ですか。以前は随分とお楽しみのご様子でしたが、まだ懲りずに行動を共にされているのですね」
 その言葉に、一部の貴族がクスクスと笑いを漏らす。彼らにとって、エミリアは“捨てられた令嬢”であり、本来なら王女クラリッサと婚約するアルバートの前に立つなど、身の程知らずと言わんばかり。
 しかし、エミリアは怯まない。逆に軽く会釈をして、余裕ある笑みを浮かべる。
 「お久しぶりですね、アルバート様。こうしてお会いするのは、あの晩餐会以来でしょうか。……その後、調子はいかがですか? 王女殿下と多忙な日々を送っておられると伺いましたが」
 「……ふん。もちろん順調だよ。王女殿下と私は近々、国王陛下の御前で正式に婚礼を発表し、国政を担う立場になるのだからな。――君のような過去の女がどうこう言う話ではない」
 アルバートは嘲るように鼻で笑い、周囲の貴族も同調してくすくすと笑みをこぼす。それに対し、エミリアはまるで痛痒を感じないというように悠然と微笑むのみ。背後には、アレクシス皇太子が控えているという自信があるからだ。

 王女クラリッサが手を叩き、主催者としての役割を果たすように振る舞う。
 「では、お兄様も到着されたことですし、早速テーブルに付きましょう。今日は私たちのささやかな晩餐ですが、どうぞ皆様、ごゆっくり楽しんでいってくださいませ」

 こうして始まった“小宴”は、表面上こそ和やかだが、内実は王女派の取り決めや、皇太子との駆け引きが絡む“政治の場”だった。
 テーブルに着くと、クラリッサとアルバートが自慢げに「王国の軍制改革」や「貴族院の新編成」などの構想を語り始める。そこには、「軍の権限を強める」「貴族たちを一枚岩にする」といった、どこか強権的な印象を与える案が散見された。
 アレクシスは黙ってそれを聞いているが、ときおり目を伏せ、深刻そうな表情を浮かべる。対する王女とアルバートは、嬉々として“私たちがこの国を導くのだ”とばかりに語り続ける。
 エミリアは、そのやり取りを目の当たりにしながら思う――(やはり、この二人は危険だわ)。王女クラリッサは気が強く、周囲を押しのけてでも自己を通そうとするタイプ。そしてアルバートは、そんな彼女の権威を利用し、より強固な地位を得ようとしている。まさに“野心家同士”の共闘であり、それに賛同する貴族たちもいるのだ。

 (いつかきっと、奴らは暴走する。……今はまだ、周囲の顔色を窺いながら取り繕っているにすぎない。でも、その時が来たら……)

 エミリアの胸に暗い確信が芽生えた瞬間、ふと隣にいたアレクシスが静かに口を開いた。
 「妹上、アルバート。随分と華やかな改革案を披露しているようだが、一つだけ気になることがある。――軍の指揮権に関して、具体的に誰をトップに据えるか、もう決めているのか?」
 アレクシスの問いかけに、アルバートは誇らしげに微笑み返す。
 「もちろん、私が総司令官として動かす予定だ。王女殿下との結婚を機に、その地位を正式にいただく話になっている。今はまだ秘密だが、いずれ公に発表されるだろうね」
 「そうか。……すると、ロンズデール公爵家の軍系統に加えて、王女殿下の縁故が重なるわけだ。……万が一、不測の事態が起こった場合、その軍事力は誰に向けられるのだろうか?」
 アレクシスの静かな言葉に、会場が一瞬ざわめく。“不測の事態”――それはすなわち、内乱やクーデターも含み得る重大な話だ。クラリッサが顔をこわばらせる。
 「お兄様、それはどういう意味? 私たちが何か企んでいるとでも?」
 「いや、そんなことは言っていない。ただ、権力が過度に集中すれば、必ず軋轢が生まれる。王女殿下としても、その点にはご注意いただきたいのだよ。……父上(国王陛下)がご高齢である今、私たち王族が争っては国が乱れる。だからこそ、力の分散は必要だと考えるが、いかがかな?」
 アレクシスの言葉は一見穏やかだが、その本質は“分権をせよ、さもなくば疑われる”という警告である。クラリッサは薄く笑いながら、同席している貴族たちに視線を巡らせる。
 「ですって。皆様はどうお考えかしら? 力を分散すれば、かえって意思決定が遅れて混乱が生まれるのではなくて? 私は、強い統率力こそ国の安定に繋がると思うのだけれど」
 すると、何人かの貴族が王女に同調して「確かに、一元的な指揮は重要」「リーダーシップがなければ戦乱に巻き込まれた時に対応できない」などと口々に述べる。もはや彼らはクラリッサ派とみなして差し支えない。
 そんな光景を見ながら、エミリアは(これは完全に対立構造だわ)と実感する。アレクシスがもっと踏み込んで反論すれば、今にも言い争いが起きそうな雰囲気だ。しかし、この“小宴”はあくまで非公式。表立っての衝突は避け、各々が相手の出方をうかがう場というわけだ。

 やがて食事が進み、デザートの頃合いになると、アルバートが堂々と席を立ち、人々に向かって乾杯の音頭を取る。
 「皆様、本日は王女殿下が素晴らしい宴を開いてくださり、誠に感謝申し上げます。……そして、近々私どもは国王陛下のご加護のもと、華やかな婚礼を迎えさせていただく運びとなりました。その暁には、私アルバート・ロンズデールが微力ながら、この国に尽くしていく所存です。どうか皆様、今後ともよろしくお願いいたします」

 満面の笑みを浮かべるアルバート。その手を握り、横に並ぶクラリッサも微笑む。周囲は拍手喝采――彼らの未来を祝福する声が広がる。
 しかし、エミリアの胸中は暗い不安と嫌悪感で満ちていた。この人々は、アルバートとクラリッサがいずれ“国を牛耳る”と確信しているのだ。そして、それに媚びるように拍手を送る者たちが少なくない。かつてエミリアが婚約者として信じていたアルバートは、今や王女の傀儡になるのか、あるいは王女を利用するのか――いずれにせよ、彼らの野望は確実に拡大しつつある。

 (このままでは本当に、あの人たちの思うがまま……)

 そう考えた瞬間、エミリアはグラスを置いて静かに席を立った。周囲が何事かと目を向ける。アレクシス皇太子も僅かに眉を動かしたが、エミリアの意図を察して止めない。
 エミリアは皆の注目を一身に浴びながら、王女クラリッサとアルバートに向き直る。そして、すっと優雅に一礼した。
 「アルバート様、王女殿下。……ご婚約の成功、心よりお祝い申し上げますわ。かつてアルバート様の婚約者だった私も、こうして公の場でお慶びを述べることができて光栄です」
 意外にも穏やかなエミリアの言葉に、クラリッサは薄笑いを浮かべつつ首を傾げる。
 「まあ、わざわざありがとう、エミリア。あなたが祝ってくれるなんて、ちょっと意外だけれど。……ずいぶんと強がるようになったものね」
 侮蔑を含んだ言い方をされても、エミリアは動じない。むしろ、底意地の悪い笑みを返してみせる。
 「いえいえ、強がりなどではありませんわ。私はただ、アルバート様がかつてウィンスレット家に見せてくださった“誠意”が、王女殿下にも通じることを願っているだけです。……どうか今度は、捨てられるお相手が出ないといいのですけれど」

 一瞬、広間が水を打ったように静まり返った。王女派の人々は「なんだと?」と目を剥き、クラリッサとアルバートも明らかに不快そうな表情を浮かべる。これはもう暗に“アルバートは裏切る男だ”と言っているも同然だからだ。
 アルバートはグラスを握る手が震えているのを隠そうともせず、エミリアへ鋭い視線を突きつける。
 「……ウィンスレット令嬢。どういうつもりだ? ここは王女殿下の宴だぞ。軽々しく侮辱めいた言葉を口にして、ただで済むと思うな」
 「侮辱? とんでもありません。私はただ、王女殿下の幸せを願っているにすぎませんわ。あなたが過去に私を捨てたように、新しい誰かを犠牲にしないといいですわね、と。それだけのことです」

 エミリアはあくまで笑顔を崩さず、深々と一礼する。周囲の貴族たちは息を呑み、一触即発の空気が漂う。王女クラリッサは怒りをこめた瞳でエミリアを睨みつけ、周りの貴族も「これは許されない無礼」とばかりに口々に非難し始める。
 だが、その瞬間――ドン、とテーブルを叩く音が響いた。アレクシス皇太子だ。彼は静かに席を立ち、王女クラリッサとアルバートを順番に見渡す。
 「もういい。……皆、これ以上の侮辱合戦はやめよう。この宴が険悪なムードになれば、王女殿下のお顔に泥を塗ることになるのではないか?」
 そう言い放つアレクシスの声には、絶対的な威圧感があった。王女派の貴族たちも一瞬にして沈黙する。国王の第一継承者である皇太子が本気で怒れば、彼らとしても無視はできない。
 クラリッサは悔しそうに唇を噛むが、仕方なく苦笑いを浮かべる。
 「お兄様の言う通りだわ。こんな場所で醜態を晒すのは、王族として望ましくないものね。……エミリア、覚えておきなさい。あなたには後でしっかりと話を聞かせてもらうわ」

 こうして“小宴”は一旦、お開きのムードに入った。王女派の面々は内心穏やかでないだろうが、アレクシスがいる手前、公には騒げない。エミリアはアレクシスと共に会場を後にしながら、内心で静かにガッツポーズを取る。――(よし、あれで十分だわ。あの人たちの逆鱗に触れてこそ、ボロが出る)と。
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