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第2章 完璧なはずの生活と、夫の変化
12話
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12.侍女たちの囁き
そんな日々が続いていたある朝のこと。カーテンリンゼは庭園を散策しようと、自室を出て玄関ホールへ向かっていた。すると、途中の廊下から微かに話し声が聞こえてくる。
「……夫人は、あまり公爵様と話をなさらないようだけど……」
「ええ。それでも、公爵様はときどき夫人の部屋の近くを……」
侍女同士のひそひそ話に、カーテンリンゼは足を止める。あからさまに盗み聞きをするつもりはなかったが、通り抜けるには話題が気になりすぎた。彼女は気配を殺すようにそっと立ち止まり、耳を澄ませる。
「最近、公爵様はよく夫人のことを気にかけているみたい。昨日なんて、食事の準備が長引いてしまったとき、『夫人が待たされているなら早くしてくれ』って……」
「まぁ……あのお忙しい公爵様がね。珍しいこともあるものだわ」
侍女の一人が感嘆混じりに言えば、もう一人も興味深げに頷く。
「私、公爵様が夜遅くに廊下を歩いているのを見かけたの。きっと夫人のお部屋に行くのかと思ったら、そのまま引き返していったみたいで……。なんだか、公爵様らしくない様子だったのよ」
「そりゃあ、公爵様は軍人としては勇敢かもしれないけど、女性との関係は不慣れなのかも。貴族にとっての華やかな恋愛とか、あんまり興味がなさそうだし」
「確かに……でも、あんなに冷静そうに見えても、やっぱり夫人のことが気になるのかしら。だって、ほら、新婚さんですものね……」
ひそひそと楽しげに囁く侍女たちは、公爵夫妻がまだ夫婦らしくないことを噂しているのだろう。カーテンリンゼは彼女たちの言葉を聞きながら、不思議な気持ちになった。
――レオポルドが、私を気にかけている?
そんなふうに感じたことなど一度もなかった。むしろ、彼は必要最低限の言葉だけを交わし、余計な感情を見せないタイプだと思っていた。実際、日常の大半は顔を合わせず、夕方ごろにちらっと挨拶をする程度で終わることが多い。
……それでも、もし侍女たちの言うとおりなら、彼が廊下をうろついていたのは何か理由があるのかもしれない。あれほど冷静沈着そうな男が、夜遅くに自分の部屋の前まで来て何をしようとしたのだろう。
(私に何か用事があった? それとも、単に私の部屋が館の端にあるから通り道だっただけ……?)
考えても答えは出ず、カーテンリンゼはほんの少しだけ胸の奥に戸惑いを覚えた。
やがて、そっと足音を立てないように戻り、遠回りして庭園へ向かう別の通路を使うことにする。わざわざ侍女たちの会話に割り込むのも気まずいし、彼女の話題で盛り上がっているなら、そのまま楽しく話していればいい。
朝の日差しを受けて咲き誇る花々を眺めながら、カーテンリンゼは自問自答する。
――私は、レオポルド公爵が私をどう思っていようと興味はないはず。愛を求めない契約結婚なのだから。
それでも、侍女たちの会話を聞いて心が揺れるのは何故だろう。ほんのわずかに、胸がざわめく。その答えをうまく見つけられないまま、彼女は花の香りに包まれた庭をさまようように歩いた。
そんな日々が続いていたある朝のこと。カーテンリンゼは庭園を散策しようと、自室を出て玄関ホールへ向かっていた。すると、途中の廊下から微かに話し声が聞こえてくる。
「……夫人は、あまり公爵様と話をなさらないようだけど……」
「ええ。それでも、公爵様はときどき夫人の部屋の近くを……」
侍女同士のひそひそ話に、カーテンリンゼは足を止める。あからさまに盗み聞きをするつもりはなかったが、通り抜けるには話題が気になりすぎた。彼女は気配を殺すようにそっと立ち止まり、耳を澄ませる。
「最近、公爵様はよく夫人のことを気にかけているみたい。昨日なんて、食事の準備が長引いてしまったとき、『夫人が待たされているなら早くしてくれ』って……」
「まぁ……あのお忙しい公爵様がね。珍しいこともあるものだわ」
侍女の一人が感嘆混じりに言えば、もう一人も興味深げに頷く。
「私、公爵様が夜遅くに廊下を歩いているのを見かけたの。きっと夫人のお部屋に行くのかと思ったら、そのまま引き返していったみたいで……。なんだか、公爵様らしくない様子だったのよ」
「そりゃあ、公爵様は軍人としては勇敢かもしれないけど、女性との関係は不慣れなのかも。貴族にとっての華やかな恋愛とか、あんまり興味がなさそうだし」
「確かに……でも、あんなに冷静そうに見えても、やっぱり夫人のことが気になるのかしら。だって、ほら、新婚さんですものね……」
ひそひそと楽しげに囁く侍女たちは、公爵夫妻がまだ夫婦らしくないことを噂しているのだろう。カーテンリンゼは彼女たちの言葉を聞きながら、不思議な気持ちになった。
――レオポルドが、私を気にかけている?
そんなふうに感じたことなど一度もなかった。むしろ、彼は必要最低限の言葉だけを交わし、余計な感情を見せないタイプだと思っていた。実際、日常の大半は顔を合わせず、夕方ごろにちらっと挨拶をする程度で終わることが多い。
……それでも、もし侍女たちの言うとおりなら、彼が廊下をうろついていたのは何か理由があるのかもしれない。あれほど冷静沈着そうな男が、夜遅くに自分の部屋の前まで来て何をしようとしたのだろう。
(私に何か用事があった? それとも、単に私の部屋が館の端にあるから通り道だっただけ……?)
考えても答えは出ず、カーテンリンゼはほんの少しだけ胸の奥に戸惑いを覚えた。
やがて、そっと足音を立てないように戻り、遠回りして庭園へ向かう別の通路を使うことにする。わざわざ侍女たちの会話に割り込むのも気まずいし、彼女の話題で盛り上がっているなら、そのまま楽しく話していればいい。
朝の日差しを受けて咲き誇る花々を眺めながら、カーテンリンゼは自問自答する。
――私は、レオポルド公爵が私をどう思っていようと興味はないはず。愛を求めない契約結婚なのだから。
それでも、侍女たちの会話を聞いて心が揺れるのは何故だろう。ほんのわずかに、胸がざわめく。その答えをうまく見つけられないまま、彼女は花の香りに包まれた庭をさまようように歩いた。
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