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第3章 求婚者たちの再来と、夫の執着
19話
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2.王宮の舞踏会と、王太子の手
そんな騒がしい噂が渦巻く最中、王宮から大規模な舞踏会の招待状が届いた。
毎年春の終わりごろ、王家の主催で開かれる舞踏会は、貴族社会における一大イベントである。王太子や王族たちが参加するのはもちろん、軍の有力者や各地の領主、また外交関係を持つ近隣諸国の要人も招かれることが多い。今年は特に、新たな条約の締結を記念する意味合いもあるらしく、普段よりも規模を拡大して行われる見込みだという。
ヴァレンシュタイン公爵夫妻にも当然、招待状が届いていた。
「……どうされます? お二人そろって参加されるのが自然かと思われますが、公爵様はご多忙ですし、夫人様お一人でのご出席という形でも問題はないかと……」
執事が恭しくそう尋ねてくる。レオポルドはもともと、大人数が集まる華やかな場があまり得意ではない。国の繁栄のために顔を出すことはあるが、純粋な社交を楽しむタイプではなかった。
そしてカーテンリンゼもまた、どちらかといえば人目が集まる場は苦手だ。だが、今回は王宮主催の最大級の舞踏会である以上、“公爵夫人”として出席を回避するのは得策ではない。そう判断し、二人は出席する方向で準備を進めることになった。
「大変だな……」
ある日の朝食時、レオポルドはぼそりと呟く。これが普通のパーティなら彼は欠席したかもしれない。だが、今回はそうもいかない。彼ほどの軍功者が出席を拒めば、周囲に余計な憶測を与えてしまいかねないからだ。
「そうですね。でも、王国の顔である以上、私もあなたも、ある程度は我慢しなくてはならないと思います」
カーテンリンゼが穏やかに返すと、レオポルドは「そうだな」と苦笑気味に頷く。
「お前がそう言うなら、行くしかないか。……ただ、もしまたあのマクシミリアンのような下衆どもが絡んできたら、遠慮なく言え。私がまとめて黙らせる」
その言葉に、彼女は思わずくすっと笑ってしまった。レオポルドの口から“下衆ども”などという乱暴な表現が出るのは珍しい。一方で、彼の独占欲というか、妻を守るという意識が伝わってくる。
「ありがとうございます。私も、あなたがいれば心強いと思います」
素直にそう告げると、レオポルドは目をそらし、短く「……ああ」とだけ返す。何かを言いかけてやめたようにも見えたが、それを深く追及しないのが、今の二人の暗黙の了解でもあった。
やがて迎えた舞踏会当日。華やかな装飾が施された王宮の大広間には、絢爛豪華なドレスやタキシードに身を包んだ貴族・要人たちが集っている。煌びやかなシャンデリアが照らすフロアには、音楽隊が優雅な演奏を響かせ、テーブルには極上の料理と酒がずらりと並ぶ。
そこへ、ヴァレンシュタイン公爵夫妻が姿を現した瞬間、会場の視線が一気に集中した。レオポルドの存在感はもちろんだが、ここ最近うわさの的になっている“カーテンリンゼ公爵夫人”が一緒にいるとあって、あちこちでひそひそと囁きが起こる。
「やはり美しい……」
「本当に公爵と愛はないのかしら、あれは」
「王太子殿下はどう反応するのかしらね」
そんな囁きを耳にしながら、カーテンリンゼは冷静に微笑みを保つ。レオポルドもまた、いつもどおり無駄な表情を見せず、挨拶に近づいてくる貴族たちに淡々と応じていた。
だが、その輪の中にさえ妙な空気が漂う。いくつかの上流貴族や軍関係者がレオポルドに挨拶を交わすと、すぐにカーテンリンゼへも関心を示し、言葉巧みに口説きまがいの言葉を投げかける者がいるのだ。もちろん、公式の場なので露骨なアプローチはないものの、笑みの奥にある打算が見え隠れする。
(面倒な場所に来てしまったわね……)
そう思いつつも、カーテンリンゼは礼儀正しく対応していく。耐えるしかないと割り切ってはいても、ちらりと隣を見やると、レオポルドが静かに剣呑な視線を走らせているのがわかる。
その気配は周囲にも伝わるのか、過度に彼女へ近づこうとする輩は自然と距離を置く。それだけレオポルドが放つオーラは強烈なのだろう。
そんな中、きらびやかなファンファーレが鳴り響く。舞踏会の主役たる王族の入場の合図だ。
次代を担う王太子、そして王妹たちが前列に並び、後ろに控える形で他の王族が続く。王宮の侍女や騎士たちがそれを取り囲み、華やかさに満ちた登場となるが、その中で王太子エドワルドだけは、どこかぎこちない表情を浮かべているように見えた。
――カーテンリンゼに視線を向けているのか?
レオポルドが微妙に眉をひそめた。その瞬間、カーテンリンゼもエドワルドと視線が合った気がして、思わず居心地の悪さを感じる。
かつての婚約者と、今や公爵夫人となった女性――もともと社交界における二人の“再会”は大きな注目を集めるだろう。しかも最近、“エドワルドはやり直したいと思っているのでは”という噂が広がっている最中だ。どのような形であれ、二人が言葉を交わす場面があれば、たちまち人々の関心をかっさらうに違いない。
(できることなら、このまま関わらずに終わりたいわ……)
そんな思いを抱きながらも、カーテンリンゼは作り笑いを浮かべ、周囲の貴婦人たちと挨拶を交わしていく。だが、運命は皮肉なもので、どうあっても当事者たちを引き合わせるのを避けてはくれなかった。
そんな騒がしい噂が渦巻く最中、王宮から大規模な舞踏会の招待状が届いた。
毎年春の終わりごろ、王家の主催で開かれる舞踏会は、貴族社会における一大イベントである。王太子や王族たちが参加するのはもちろん、軍の有力者や各地の領主、また外交関係を持つ近隣諸国の要人も招かれることが多い。今年は特に、新たな条約の締結を記念する意味合いもあるらしく、普段よりも規模を拡大して行われる見込みだという。
ヴァレンシュタイン公爵夫妻にも当然、招待状が届いていた。
「……どうされます? お二人そろって参加されるのが自然かと思われますが、公爵様はご多忙ですし、夫人様お一人でのご出席という形でも問題はないかと……」
執事が恭しくそう尋ねてくる。レオポルドはもともと、大人数が集まる華やかな場があまり得意ではない。国の繁栄のために顔を出すことはあるが、純粋な社交を楽しむタイプではなかった。
そしてカーテンリンゼもまた、どちらかといえば人目が集まる場は苦手だ。だが、今回は王宮主催の最大級の舞踏会である以上、“公爵夫人”として出席を回避するのは得策ではない。そう判断し、二人は出席する方向で準備を進めることになった。
「大変だな……」
ある日の朝食時、レオポルドはぼそりと呟く。これが普通のパーティなら彼は欠席したかもしれない。だが、今回はそうもいかない。彼ほどの軍功者が出席を拒めば、周囲に余計な憶測を与えてしまいかねないからだ。
「そうですね。でも、王国の顔である以上、私もあなたも、ある程度は我慢しなくてはならないと思います」
カーテンリンゼが穏やかに返すと、レオポルドは「そうだな」と苦笑気味に頷く。
「お前がそう言うなら、行くしかないか。……ただ、もしまたあのマクシミリアンのような下衆どもが絡んできたら、遠慮なく言え。私がまとめて黙らせる」
その言葉に、彼女は思わずくすっと笑ってしまった。レオポルドの口から“下衆ども”などという乱暴な表現が出るのは珍しい。一方で、彼の独占欲というか、妻を守るという意識が伝わってくる。
「ありがとうございます。私も、あなたがいれば心強いと思います」
素直にそう告げると、レオポルドは目をそらし、短く「……ああ」とだけ返す。何かを言いかけてやめたようにも見えたが、それを深く追及しないのが、今の二人の暗黙の了解でもあった。
やがて迎えた舞踏会当日。華やかな装飾が施された王宮の大広間には、絢爛豪華なドレスやタキシードに身を包んだ貴族・要人たちが集っている。煌びやかなシャンデリアが照らすフロアには、音楽隊が優雅な演奏を響かせ、テーブルには極上の料理と酒がずらりと並ぶ。
そこへ、ヴァレンシュタイン公爵夫妻が姿を現した瞬間、会場の視線が一気に集中した。レオポルドの存在感はもちろんだが、ここ最近うわさの的になっている“カーテンリンゼ公爵夫人”が一緒にいるとあって、あちこちでひそひそと囁きが起こる。
「やはり美しい……」
「本当に公爵と愛はないのかしら、あれは」
「王太子殿下はどう反応するのかしらね」
そんな囁きを耳にしながら、カーテンリンゼは冷静に微笑みを保つ。レオポルドもまた、いつもどおり無駄な表情を見せず、挨拶に近づいてくる貴族たちに淡々と応じていた。
だが、その輪の中にさえ妙な空気が漂う。いくつかの上流貴族や軍関係者がレオポルドに挨拶を交わすと、すぐにカーテンリンゼへも関心を示し、言葉巧みに口説きまがいの言葉を投げかける者がいるのだ。もちろん、公式の場なので露骨なアプローチはないものの、笑みの奥にある打算が見え隠れする。
(面倒な場所に来てしまったわね……)
そう思いつつも、カーテンリンゼは礼儀正しく対応していく。耐えるしかないと割り切ってはいても、ちらりと隣を見やると、レオポルドが静かに剣呑な視線を走らせているのがわかる。
その気配は周囲にも伝わるのか、過度に彼女へ近づこうとする輩は自然と距離を置く。それだけレオポルドが放つオーラは強烈なのだろう。
そんな中、きらびやかなファンファーレが鳴り響く。舞踏会の主役たる王族の入場の合図だ。
次代を担う王太子、そして王妹たちが前列に並び、後ろに控える形で他の王族が続く。王宮の侍女や騎士たちがそれを取り囲み、華やかさに満ちた登場となるが、その中で王太子エドワルドだけは、どこかぎこちない表情を浮かべているように見えた。
――カーテンリンゼに視線を向けているのか?
レオポルドが微妙に眉をひそめた。その瞬間、カーテンリンゼもエドワルドと視線が合った気がして、思わず居心地の悪さを感じる。
かつての婚約者と、今や公爵夫人となった女性――もともと社交界における二人の“再会”は大きな注目を集めるだろう。しかも最近、“エドワルドはやり直したいと思っているのでは”という噂が広がっている最中だ。どのような形であれ、二人が言葉を交わす場面があれば、たちまち人々の関心をかっさらうに違いない。
(できることなら、このまま関わらずに終わりたいわ……)
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