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第三章:公爵令嬢の再出発と新たなる波紋
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7.闇の潜入者と奇妙なメッセージ
その人物は、他の貴族たちとは明らかに違う雰囲気を醸し出している。顔を隠すように深いフードを被り、華麗なドレスやタキシードを身につけた参加者の中にあって、ただ一人だけ場違いな装いだ。
普通であれば、王宮の衛兵が真っ先に目をつけ、退場を求めるはず。だが、なぜか誰もその人物に声をかけない。まるで姿を認識していないかのように。
アナスタシアは一瞬戸惑ったが、嫌な予感がして周囲を注意深く見る。すると、先ほどまで警戒に当たっていた衛兵たちが、この辺りでは見当たらない。いつの間にか人混みに紛れたのだろうか――あるいは何らかの策略でここを避けているのか。
やがて、その黒い外套の人物は、すっとアナスタシアのほうを向いた。暗いフードの奥から、僅かに覗く瞳が一瞬光ったように見える。
(……何者?)
警戒を強めるアナスタシア。しかし、ここは王宮の大広間。無闇に騒ぎを起こせば、周囲の賓客に迷惑がかかる。アナスタシアは落ち着いた仕草を装いながら、なるべく人目に付かない場所へと移動して様子を探る。
すると案の定、その黒い外套の人物も、アナスタシアを追うように足を動かした。明らかにこちらを狙っている。
広間の脇にある柱の陰に、アナスタシアがさりげなく身を寄せると、その人物も同じ柱の裏へと回り込む。すると、低い声で囁くように言葉を発してきた。
「……公爵令嬢、アナスタシア・オルステッド。あなたにこれを――」
差し出されたのは、小さな封筒。無地の封筒で、封蝋すら押されていない。アナスタシアは躊躇したが、相手がすぐに立ち去る気配を見せたため、とっさにその封筒を受け取ってしまう。
そして、その黒い外套の人物は、周囲に気づかれぬよう一瞬にして人混みに消える。まるで最初から幻のように、そこに存在しなかったかのように。
「……一体、何が書いてあるのかしら」
アナスタシアは、舞踏会の喧噪を遠目にしながら、柱の陰で封筒を開いた。そこには、粗末な紙切れに乱雑な筆跡で、こう記されていた。
> “アナスタシア様、あなたに会いたい。あなたこそが私の救いだ。
だが、今はまだ直接姿を見せられない。
私がいる場所は、王都の――”
そこまで読んだところで、アナスタシアは文字が消えていくのを感じた。まるでインクが煙のように揮発して、紙から跡形もなく失せてしまう。
「こ、これは……魔術?」
驚く間もなく、文字は完全に消滅し、白紙になってしまった。魔術を施した手紙、しかも何者かの手により王宮内で渡された――この事実だけでも不気味である。
とはいえ、一瞬だけ目にしたメッセージには「会いたい」「あなたこそが私の救いだ」といった言葉が書かれていた。
(まさか、アレン……? いいえ、行方不明の彼がこんなところに?)
一瞬、アレンの名が脳裏をよぎる。だが、根拠はない。むしろアレンがこんな回りくどい手段を使うイメージは薄いし、何よりも彼は魔術に詳しくないと聞いていた。
(誰にせよ、私を“救い”と呼ぶからには、何かしら私に頼みたいことがあるのでしょう。でも、それならば堂々と接触してくればいいものを……)
考え込むアナスタシア。そのとき、遠くからガブリエルがこちらを探すように視線を巡らせているのが見えた。
ひとまず、何事もなかったかのように装っておくべきだろう――そう判断したアナスタシアは、封筒と紙切れをドレスの懐に仕舞い込み、ガブリエルに微笑みかけながら再び会場の中央へと戻った。
その人物は、他の貴族たちとは明らかに違う雰囲気を醸し出している。顔を隠すように深いフードを被り、華麗なドレスやタキシードを身につけた参加者の中にあって、ただ一人だけ場違いな装いだ。
普通であれば、王宮の衛兵が真っ先に目をつけ、退場を求めるはず。だが、なぜか誰もその人物に声をかけない。まるで姿を認識していないかのように。
アナスタシアは一瞬戸惑ったが、嫌な予感がして周囲を注意深く見る。すると、先ほどまで警戒に当たっていた衛兵たちが、この辺りでは見当たらない。いつの間にか人混みに紛れたのだろうか――あるいは何らかの策略でここを避けているのか。
やがて、その黒い外套の人物は、すっとアナスタシアのほうを向いた。暗いフードの奥から、僅かに覗く瞳が一瞬光ったように見える。
(……何者?)
警戒を強めるアナスタシア。しかし、ここは王宮の大広間。無闇に騒ぎを起こせば、周囲の賓客に迷惑がかかる。アナスタシアは落ち着いた仕草を装いながら、なるべく人目に付かない場所へと移動して様子を探る。
すると案の定、その黒い外套の人物も、アナスタシアを追うように足を動かした。明らかにこちらを狙っている。
広間の脇にある柱の陰に、アナスタシアがさりげなく身を寄せると、その人物も同じ柱の裏へと回り込む。すると、低い声で囁くように言葉を発してきた。
「……公爵令嬢、アナスタシア・オルステッド。あなたにこれを――」
差し出されたのは、小さな封筒。無地の封筒で、封蝋すら押されていない。アナスタシアは躊躇したが、相手がすぐに立ち去る気配を見せたため、とっさにその封筒を受け取ってしまう。
そして、その黒い外套の人物は、周囲に気づかれぬよう一瞬にして人混みに消える。まるで最初から幻のように、そこに存在しなかったかのように。
「……一体、何が書いてあるのかしら」
アナスタシアは、舞踏会の喧噪を遠目にしながら、柱の陰で封筒を開いた。そこには、粗末な紙切れに乱雑な筆跡で、こう記されていた。
> “アナスタシア様、あなたに会いたい。あなたこそが私の救いだ。
だが、今はまだ直接姿を見せられない。
私がいる場所は、王都の――”
そこまで読んだところで、アナスタシアは文字が消えていくのを感じた。まるでインクが煙のように揮発して、紙から跡形もなく失せてしまう。
「こ、これは……魔術?」
驚く間もなく、文字は完全に消滅し、白紙になってしまった。魔術を施した手紙、しかも何者かの手により王宮内で渡された――この事実だけでも不気味である。
とはいえ、一瞬だけ目にしたメッセージには「会いたい」「あなたこそが私の救いだ」といった言葉が書かれていた。
(まさか、アレン……? いいえ、行方不明の彼がこんなところに?)
一瞬、アレンの名が脳裏をよぎる。だが、根拠はない。むしろアレンがこんな回りくどい手段を使うイメージは薄いし、何よりも彼は魔術に詳しくないと聞いていた。
(誰にせよ、私を“救い”と呼ぶからには、何かしら私に頼みたいことがあるのでしょう。でも、それならば堂々と接触してくればいいものを……)
考え込むアナスタシア。そのとき、遠くからガブリエルがこちらを探すように視線を巡らせているのが見えた。
ひとまず、何事もなかったかのように装っておくべきだろう――そう判断したアナスタシアは、封筒と紙切れをドレスの懐に仕舞い込み、ガブリエルに微笑みかけながら再び会場の中央へと戻った。
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