「王妃の座? 要りませんわ。――私が欲しいのは“真実”だけ」

鍛高譚

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3‑3 真実の暴露と王子の失墜

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3‑3 真実の暴露と王子の失墜

 騒然とした空気が落ち着きを取り戻す前に、広場中央の天空幕が再び輝度を上げた。
 クロエの合図で、床下第三層――記録水晶の映像出力が解放される。
 青白い魔光が天蓋いっぱいに拡散し、まるで夜空が巨大なスクリーンへ変わるかのようだった。

 〈記録映像 舞踏会前夜 王室宝物庫〉
 字幕が浮かび上がり、黒いフード姿の二人――エラ・ブランシェとレオノーラが、宝物庫の封印を解除しガラスの靴を持ち出す場面が投映される。
 先に靴を履いたのはエラ。しかし靴は足を拒み、赤黒い火花を散らした。
 驚いたエラが泣き出すと、レオノーラは魔薬を取り出し、靴の表層に歪んだルーンを描き、強制的に魔力署名を書き換える――。

 途端に観客席から悲鳴。貴族たちは口々に叫び、瓦版記者は羽根ペン片手に身を乗り出す。
 「姦計だ!」「王統を冒涜する背信行為!」

 王子席で血の気を失ったアルベルトは呆然とスクリーンを見上げ、やがてエラへ視線を落とす。
 「……嘘だ。君が──君がこんな……」
 エラは顔を覆い、「違うの、殿下、私は利用されただけ」と震える声で訴えるが、映像の中で自ら魔薬を受け取る姿があまりにも鮮明だった。

 レオノーラは一歩前へ出て弁明を試みる。
 「罠です! 映像など捏造はいくらでも──」
 その瞬間、クロエが大理石の床に杖を突き、結界術式の最奥層を起動させた。
 天蓋の隅に新たな印章が浮かび上がる。〈真正記録・改竄不能〉――魔法院が千年守ってきた“証明刻印”。
 嘘と断じる者は、魔法理論そのものを否定する破門罪を負う。会場が理解した途端、レオノーラの言葉は惨めな空気摩擦の音に変わった。

      * * *

 映像はさらに続いた。
 別室で、王太子の私印を盗み写しにするレオノーラ。
 魔法院の若手審査官へ金貨を詰めた菓子箱を渡すシーン。
 そして最奥――“禁忌術研究室”で、照合装置の下層結界を細工している映像。
 それが自動照合で証拠不可逆領域に転送されると表示され、スクリーンは静かに暗転した。

 沈黙。
 石像のように固まっていた観客たちを最初に動かしたのは、一人の若い騎士見習いの叫びだった。
 「王家を……王家を騙した罪、万死に値するッ!」
 火種のような声が一つ上がると、怒号はあっという間に炎の壁となる。
 「我々は嘘に寄付をさせられたのか!」「靴の奇跡も、全て捏造だったのか!」

 青ざめた王太子は、なおもエラをかばうように前へ立つ。
 「黙れ! エラは悪くない、悪いのは……」
 その言い訳を掻き消したのは、スクリーンに映る新たな文字列だ。

> 〈追加記録〉
王太子私室 証言書抜粋
『エラを“救う”ために靴の魔力を緩めろ? なるほど、面白い。余が王となれば、この国の法など好きに変えてやる』



 アルベルト自身が継母へ与えた“黙認”──録音魔石を抜き取ったのは老執事レオポルドだった。
 王子の顔から赤みが引き、膝から力が抜ける。
 「そ、そんなはずは……盗聴だ! 罠だ!」
 だが証言全文は、王太子の公印付きで議会文書局へ自動送信されたと表示される。

 観客の怒号は確信の咆哮へ変わり、豪奢な柱を震わせた。
 「王子自ら法を踏みにじった!」
 「もはや王位継承権など──」

 その時、場内を制したのはセシリアの澄んだ声だった。
 「皆さま、激情はわかります。しかし法は激情で動かすものではございません。
  王家が千年掲げた“正義”を武器に、真実の裁きを行うのです」

 彼女は群衆の視線を一身に受け、ゆっくり天蓋の中心へ歩み出た。
 胸元の〈真実結晶〉が柔らかく輝き、青いドレスの裾が静かに揺れる。

 「私は王妃の座を求めません。求めるのはただ一つ――《法の名の下、王家自らこの不正を裁く》こと」
 声は真夜中の鐘のように凜として響き、怒号すら凍らせた。

 沈黙の中、クロエが儀礼書を掲げる。
 「王統規約第七十二条。“靴の選定を妨害した者は王位継承権を停止し、王室会議は直系二位継承者へ審査を移譲する”」

 継承者二位──王子の弟、マティアス公子が立ち上がる。
 「兄上、もはや逃れられません。王家の名を守るため、あなたは退位を」
 アルベルトの顔は恐怖と憤怒で歪むが、後ろを振り返った時、忠臣たちも近衛も一歩引いていた。
 彼が最後に縋ったのはエラ――その腕に触れようとしたとき、エラは一歩下がり唇を震わせた。
 「殿下……わ、わたくし、もう……」
 運命共同体はその一瞬で崩れ落ち、王子は孤立無援の囚人になった。

      * * *

 夜空に薄雲が流れ、満月が再び姿を現す。
 セシリアは全員を見渡し、最後に深く一礼した。
 「王家が正義を示すなら、私はこれ以上を望みません。
  ――どうか、靴が示した本当の光を国の未来へ」

 無数の視線が彼女の言葉を追い、やがて観客席から拍手が生まれた。
 一人、二人、十人──怒りの渦は拍手へ変わり、王城前の広場は嵐のごとき喝采に包まれる。
 その中で、王太子は護衛に連れられ広場の奥へ消え、レオノーラ母娘は官憲に囲まれ震えながら連行されていった。

 満月の光がガラスの床を洗い流すように照らし、靴の淡金が静かにきらめく。
 王家の虚飾が剥がれ、灰かぶりの真実が夜空に描いた輪郭は確かで、誰にも壊せなかった。

                              
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