「王妃の座? 要りませんわ。――私が欲しいのは“真実”だけ」

鍛高譚

文字の大きさ
10 / 16

3‑2 マナ照合儀式

しおりを挟む
3‑2 マナ照合儀式

――沈黙を裂いたのは、靴の底で鳴った澄んだ鈴音だった。
ガラスの靴はセシリアの左足に吸い付くように収まり、淡金の光輪を満月ごと抱き込んで脈動する。
観客席側へ投映された巨大ホログラムが、その瞬間を拡大し、悲鳴と歓声が渦を巻いた。

「ま、待て! これは余興か?」
狼狽する王太子アルベルトの前へ、クロエ・パルミエが進み出る。
「殿下。儀礼法では〈持ち主確定時〉に公式のマナ照合を行うと定められています。直ちに手続きを」

  * * *

十数分後──噴水フロア中央には半径五メルトの白線が引かれ、臨時の照合陣が組み上がっていた。
床下三層の魔力水晶を、上層=鏡面転写・中層=検証・下層=記録用に切り替え、映像は王家席と観客席へ同時送出される。

「手順は簡単。靴に触れ、魔力を一呼吸流すだけ。
 判定色は青=無関係、赤=拒絶、金=真の持ち主」
クロエが淡々と説明し、結界師が陣の縁に坐す。

「余が証明してやる!」
王太子はエラを前に導いた。彼女は震えながら靴へ触れる――

──バチン!
赤黒い火花。エラの悲鳴。
上層結界が真紅に染まり〈拒絶〉の二文字が天蓋いっぱいへ投映される。

「故障だ。もう一度!」
レオノーラが叫ぶが、結界師は首を振る。
「魔力反応正常。判定は覆りません」

続いてセシリア。
深海の裾を払って台座へ近づき、指先で軽く触れる。

……淡金の花弁が噴水のように舞い上がった。
靴は月光そのものと化し、床面に複雑な紋章を描き出す。
天蓋には〈主〉の文字が王冠とともに輝き、歓声が爆発した。

計測板には【承認:エラント家直系 マナ一致率99.98】。
王太子の膝が震え、エラは蒼白。レオノーラの扇が無残に折れる。

「靴は嘘を許しませんわ」
セシリアの声は氷雨のように静か。
クロエが宣言を読み上げ、下層記録水晶が鐘を鳴らす。映像と数値は魔法院の自動保管庫へ即時転送――抹消不能だ。

動揺の中、観客席では拍手が湧き上がる。
「やはり灰かぶりの噂は本当だったのか!」
火のような好奇心が王家の灯火を飲み込み、視線は新たな星──悪役令嬢へ集まる。

「靴は承認した。次は“血の試金石”よ」
クロエが囁き、セシリアは小さく頷く。

「皆さま、真実は今宵さらに輝きを増しますわ。どうか最後まで見届けて」
群青のドレスがゆっくりと回り、〈真実結晶〉が胸元で脈打った。

満月は天蓋の縁へ滑り、雲が千切れ始める。
銀の光が舞台を清め、靴の淡金がそれを受け止める。
真実の舞踏会はまだ終わらない。
――次の幕、王太子の玉座を揺るがす“暴露の光劇”が、すでに刃先を覗かせていた。

      
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 公爵令嬢アリアベルは、王太子カルディオンから突然の婚約破棄を告げられる。 「真実の愛を見つけた」 そう言って王太子が選んだのは、涙を流す義妹ヴィオレッタだった。 王都から追い出され、すべてを失った―― はずだった。 アリアベルが向かったのは、王国の北にある小さな港町。 しかし彼女の手腕によって港は急速に発展し、やがて王国最大の交易港へと変わっていく。 一方その頃、王太子と義妹は王都で好き勝手に振る舞っていたが―― やがてすべてが崩れ始める。 王太子は国外追放。 義妹は社交界から追放され修道院送り。 そして気づいた頃には、北の港こそが王国の中心になっていた。 「私はもう誰のものでもありません」 これは、婚約破棄された令嬢が自分の人生を取り戻し、 王国の未来を変えていく物語。 そして―― 彼女の隣には、いつしか新しい王太子の姿があった。 婚約破棄から始まる、逆転ざまぁロマンス。✨

【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~

つくも茄子
恋愛
五大侯爵家、ミネルヴァ・リゼ・ウォーカー侯爵令嬢は第二王子の婚約者候補。それと同時に、義兄とも婚約者候補の仲という複雑な環境に身を置いていた。 それも第二王子が恋に狂い「伯爵令嬢(恋人)を妻(正妃)に迎えたい」と言い出したせいで。 第二王子が恋を諦めるのが早いか。それとも臣籍降下するのが早いか。とにかく、選ばれた王子の婚約者候補の令嬢達にすれば迷惑極まりないものだった。 ミネルヴァは初恋の相手である義兄と結婚する事を夢見ていたというに、突然の王家からの横やりに怒り心頭。それでも臣下としてグッと堪えた。 そんな中での義兄の裏切り。 愛する女性がいる? その相手と結婚したい? 何を仰っているのでしょうか? 混乱するミネルヴァを置き去りに義兄はどんどん話を続ける。 「お義兄様、あなたは婿入りのための養子縁組ですよ」と言いたいのをグッと堪えたミネルヴァであった。義兄を許す?許さない?答えは一つ。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です

唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に 「王国の半分」を要求したら、 ゴミみたいな土地を押し付けられた。 ならば――関所を作りまくって 王子を経済的に詰ませることにした。 支配目当ての女王による、 愛なき(?)完全勝利の記録。

婚約破棄されたので、もうあなたを想うのはやめます

藤原遊
恋愛
王城の舞踏会で、公爵令息から一方的に婚約破棄を告げられた令嬢。 彼の仕事を支えるため領地運営を担ってきたが、婚約者でなくなった以上、その役目を続ける理由はない。 去った先で彼女の能力を正当に評価したのは、軍事を握る王弟辺境伯だった。 想うことをやめた先で、彼女は“対等に必要とされる場所”を手に入れる。

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

処理中です...