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第2章:新たな出会いと再起
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しおりを挟む部屋を出ると、廊下にいたメアリーが心配そうに声をかける。 「お嬢様……大丈夫ですか?」 「ええ、平気よ。少し疲れただけ」
本当は、どっと疲労感が襲ってきている。ミレイアの言葉を聞き、彼女の抱えていた劣等感や嫉妬心に触れた今、シェラの心は複雑だ。過去に戻ってどうにかできる話ではないし、彼女が選んだ行動を受け止めるしかないのだろう。
(でも、私は……もう、失うものはない。公爵家の婚約も、彼女との友情も)
シェラはそう自分に言い聞かせる。大切なのは、今とこれからだ。失ったものを数えるより、残されたものや、新たに手に入れるべきものを見つめていくほうが建設的だろう。
すると、ちょうどそこへ父が用事を伝えにやってきたらしい。急ぎ足でこちらへ向かってくる姿が見えた。
「シェラ、少し話があるのだが……よろしいか?」 「ええ、もちろん」
父はシェラを廊下の一角へ呼び寄せ、声を潜める。 「実は、王宮から急な要請があってな。王太子殿下が、近々この辺りの領地視察を計画しているらしい。そこで、我が家に立ち寄りたいとのお話をいただいたのだ」 「王太子……!」
シェラの脳裏に、あの金色の髪の少年――アレストの姿がはっきりと蘇る。ずいぶん前の出来事だから、彼が今どう成長しているかは想像もつかないが、あのときの優しい眼差しを彼女は今でも覚えている。
「どうやら、この領地の状況を視察し、必要があれば国として支援する意向があるらしい。公爵家との婚約破棄の件も、もしかすると耳に入っている可能性がある。なにぶん急なことで対応に戸惑っているのだが……シェラ、お前が案内役として同行する気はないか?」 「私が……?」
驚きと緊張が同時に込み上げる。まさか王太子の視察を補佐する役目を、父が自分に託そうとは思っていなかった。確かに、先日の領地視察で多少の知識は得られたが、それでも高貴なる王太子を迎えるとなれば、気後れしてしまうのも無理はない。
「本来なら、私や執事が案内するべきなのだが、アレスト殿下(王太子)は『若い人の意見を聞きたい』と仰っているそうだ。お前が積極的に領地経営に関わりたいというのなら、絶好の機会だと思うが……どうだ?」 父の言葉に、シェラは心臓の鼓動が高まるのを感じる。これほどの大役を任されるのは重圧もあるが、同時に大きなチャンスだ。
「……やらせていただきます。もし私でよければ、ぜひ王太子殿下に領地を案内したいわ」 「そうか。助かる。実際、私も忙しいし、お前の視点から殿下に話をするのは有意義かもしれん。何か困ったことがあればすぐに言いなさい」
王太子――アレスト。かつて森で出会い、幼いシェラを助けてくれた少年。その姿と、今の王太子が同じ人物なのかどうかは定かではない。だが、心のどこかで彼に再会したいという思いも確かにある。
思いがけず膨らむ期待と、一方で婚約破棄の話が広まりつつあるという恐れ。シェラはそれを抱えながら、王太子来訪の準備に向けて日々を過ごすことになるのだった。
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こうして、シェラの日常は激変し始める。婚約破棄によって自分を見失いかけた彼女だが、領地視察を通して「守るべきもの」を再認識し、さらに王太子アレストの来訪という大きな転機と出会う運命が待ち受けていた。
自分を捨てたアレクシスとミレイアへの怒りと悲しみを抱えながらも、シェラの心は少しずつ前を向こうとしている。過去の幸せを嘆くのではなく、未来の可能性を信じて。
この先、王太子との再会は彼女の運命をどのように塗り替えていくのか――シェラ自身もまだ知る由もない。けれど、婚約破棄という絶望の中から這い上がろうとする彼女の瞳には、確かな輝きが宿り始めていた。
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