婚約破棄された令嬢ですが、新たな幸せを掴みます!

鍛高譚

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第4章:新たな幸せ

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 その後、アレストは王家の正式な手続きを経て、シェラとの婚約を準備し始める。もちろん一筋縄ではいかない。公爵家やミレイアは、王太子との縁談を認めたくないがために、裏から妨害工作を仕掛けるかもしれない。だが、アレストが王宮内での信頼を得ている以上、よほどの大義名分でもない限り、彼らが逆転するのは難しいだろう。
 何より、シェラにはもう揺るぎない決意がある。自分を捨てた者たちを振り返ることはしない。従妹ミレイアに恨まれようとも、心を蝕まれることはもうない。仮に仕返しがあったとしても、今のシェラはもう一人ではない。侯爵家の家族や領民たち、そしてアレストが支えてくれると信じられるからだ。

 噂によれば、アレクシスは酒に溺れて家を放り出すようになり、公爵家の当主である父から厳しく糾弾されているという。元々アレクシスが築いていた公爵家の信用は大幅に失墜し、ミレイアともうまくいっていないらしい。そう、彼らは自ら選んだ道を突き進んだ結果として、破綻を迎えようとしている。――シェラがなすべきことは、もう何もない。

 あれから数週間後、王宮での小さな舞踏会に招かれたシェラは、久しぶりに盛装して会場に足を運ぶ。彼女を招いたのはもちろんアレスト。貴族たちの視線が一斉に集まる中、アレストは笑みをたたえて近づいてくる。
 舞踏会の中央で、彼はシェラに手を差し出し、「踊っていただけますか」と促す。以前なら臆してしまったかもしれないが、今のシェラは躊躇わない。胸を張ってその手を取る。

 音楽が始まり、二人はゆったりとステップを踏む。周囲の好奇や羨望の視線を感じながらも、シェラの胸は不思議と落ち着いていた。かつての痛みはもう遠い記憶。今、腕の中にあるのは未来への大きな希望だ。
 アレストの瞳がこちらを見つめ、優しく口元がほころぶ。そこには、幼い頃の森で見せてくれた真っ直ぐな優しさがそのまま残っていた。シェラは微笑み返しながら、自分もまた同じ想いを抱いていることを確信する。

 ――もう、後ろを振り返らない。婚約破棄の傷は確かに深かったけれど、それさえも成長の糧となり、こうして幸せを手にできた。
 ステップを一つ刻むたびに、シェラは新しい自分を感じる。アレストとともに踊るこの瞬間こそが、あの陰鬱だった日々を明るく塗り替えていく証明なのだ。

 ざまあ――そう、かつてシェラを見下し、裏切った者たちは今頃後悔に苛まれているのかもしれない。だが、彼女はそんな連中を憎んではいない。もう興味すらないのだ。むしろ、あの婚約破棄がなければ、自分は本当の幸福に辿り着けなかったかもしれないと思うほどだ。

 音楽が終わると同時に、二人は息を合わせて舞台の中央で静止する。大きな拍手が巻き起こり、シェラはアレストの手を握りしめたまま、ほんの少しだけ恥ずかしそうに笑う。
 アレストもまた微笑み返すと、耳元でそっと囁く。

「さあ、ここからが新たな始まりです。あなたと一緒に、もっと先の未来を見たい――そう願っていますよ、シェラ様」

 シェラは目を潤ませながら、小さく頷いた。――彼と共に歩む道が、どこまでも続いていることを信じて。かつての絶望は、今はもう遠い過去。眩いばかりの光の中で、新たな幸せが二人を包み込もうとしていた。


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