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第4章:新たな幸せ
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そうして迎えた王宮での会合の日。シェラは侯爵の父とともに王宮へ赴いたが、アレストは「シェラ様の席は私の隣に」と自ら希望し、彼女を驚かせる。会合には数名の貴族や官僚が出席し、侯爵家の領地の現状や課題が議題の中心となった。
シェラがこれまで集めてきた住民の声や問題点を示すと、官僚たちも真剣に耳を傾け、アレストは時折「なるほど」と頷きながら議論をリードする。かつてのシェラでは想像もつかなかった展開だった。王太子の隣で、しかも国の要人たちと対等に話し合う機会が訪れようとは――。
会合は実りの多いものとなり、国としての支援策や新たなルールづくりに向けた具体案が次々と決まっていく。最後にアレストがまとめを述べ、「本日はたいへん有意義でした。皆さん、ありがとうございます」と会合を締めくくった。出席者が順に退室していく中、アレストはシェラに「少しお時間をいただけますか」と声をかける。
シェラの父や官僚たちは不思議そうにしながらも、王太子の意向には逆らわず部屋を後にした。こうして二人きりになると、アレストは席から立ち上がり、シェラの前に歩み寄る。
「シェラ様。先ほどの会合でも、あなたの意見がとても参考になりました。領地を実際に回っていない者には出せない着眼点だったと思います」
「そんな……私は、ただ皆さんの声を伝えたにすぎません」
シェラが視線を落とすと、アレストは首を振る。
「いえ、あなたは自分自身の意志で動いています。私にはその強さが、何よりも尊く思えるのです。――あの日、森で出会ったときもそうでした。小さかったあなたが必死に立ち上がろうとした姿に、私も勇気をもらったんですよ」
その言葉に、シェラの心臓が大きく跳ねる。幼い頃から彼女が秘めてきた“森での記憶”――それが、アレストにとっても特別なものだったとは。思えば、ずっと忘れられない優しい記憶だったのだ。
アレストは深く息をつき、意を決したようにシェラの瞳をまっすぐ見つめる。
「シェラ様。もし私が、あなたに近い存在になれたら……あなたと未来を共に描けたら……そんな夢を抱いてはいけないでしょうか」
突然の言葉に、シェラは言葉を失う。これは、まるで――。
彼の瞳は真剣そのもので、決して軽い気持ちではないと伝わってくる。シェラの頭の中には、過去の婚約破棄の苦い記憶が一瞬よぎったが、今ここにいるアレストは、アレクシスとはまるで次元が違う。人を裏切るような男ではない。彼女は、自分がどんな思いを抱いているのかを改めて理解していた。
――私も、彼と同じ未来を見てみたい。彼が王となる道を支えながら、一緒に国を良くしていきたい。
胸が熱くなるのを押さえつつ、シェラは意を決して、そっとアレストの手に触れる。
「私なんかで、よろしいのですか……? 婚約破棄の汚名を着せられた私が、あなたのそばにいても……」
「そんなこと、問題ではありません。私が信じるのは、あなたの真摯さと優しさです。私はあなたと共に国を支え、共に未来を切り拓きたい。もちろん、まだ正式なプロポーズという形にするには手順がありますが……」
そこで、アレストは言葉を切り、わずかに微笑む。その表情には、王太子という立場を超えた“一人の青年”としての想いが溢れていた。
「あなたの気持ちを聞かせてください、シェラ様。私と、これからも一緒に歩んでいただけませんか」
心臓の鼓動が激しくなる。もう怖れる必要はない。かつての失敗があったからこそ、今の自分は強くなれた。その強さを支えてくれたのはアレスト――この人だ。
――答えは、決まっている。シェラは震える声をこらえながら、はっきりと頷く。
「はい……私でよければ、ぜひ。私は殿下とともに国を見つめ、領地を守り、そして、まだ見ぬ未来を創りたいです」
その瞬間、アレストは安堵と歓喜の入り混じった表情を浮かべ、シェラの手を優しく握りしめた。二人の距離がすっと縮まり、胸の奥から熱いものがこみ上げる。過去の痛みが報われた――そんな感覚に満たされる。
これこそが、彼女の新たな幸せの始まりなのかもしれない。婚約破棄という絶望の先には、未来を共に描きたいと願う真摯な相手が待っていたのだ。
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シェラがこれまで集めてきた住民の声や問題点を示すと、官僚たちも真剣に耳を傾け、アレストは時折「なるほど」と頷きながら議論をリードする。かつてのシェラでは想像もつかなかった展開だった。王太子の隣で、しかも国の要人たちと対等に話し合う機会が訪れようとは――。
会合は実りの多いものとなり、国としての支援策や新たなルールづくりに向けた具体案が次々と決まっていく。最後にアレストがまとめを述べ、「本日はたいへん有意義でした。皆さん、ありがとうございます」と会合を締めくくった。出席者が順に退室していく中、アレストはシェラに「少しお時間をいただけますか」と声をかける。
シェラの父や官僚たちは不思議そうにしながらも、王太子の意向には逆らわず部屋を後にした。こうして二人きりになると、アレストは席から立ち上がり、シェラの前に歩み寄る。
「シェラ様。先ほどの会合でも、あなたの意見がとても参考になりました。領地を実際に回っていない者には出せない着眼点だったと思います」
「そんな……私は、ただ皆さんの声を伝えたにすぎません」
シェラが視線を落とすと、アレストは首を振る。
「いえ、あなたは自分自身の意志で動いています。私にはその強さが、何よりも尊く思えるのです。――あの日、森で出会ったときもそうでした。小さかったあなたが必死に立ち上がろうとした姿に、私も勇気をもらったんですよ」
その言葉に、シェラの心臓が大きく跳ねる。幼い頃から彼女が秘めてきた“森での記憶”――それが、アレストにとっても特別なものだったとは。思えば、ずっと忘れられない優しい記憶だったのだ。
アレストは深く息をつき、意を決したようにシェラの瞳をまっすぐ見つめる。
「シェラ様。もし私が、あなたに近い存在になれたら……あなたと未来を共に描けたら……そんな夢を抱いてはいけないでしょうか」
突然の言葉に、シェラは言葉を失う。これは、まるで――。
彼の瞳は真剣そのもので、決して軽い気持ちではないと伝わってくる。シェラの頭の中には、過去の婚約破棄の苦い記憶が一瞬よぎったが、今ここにいるアレストは、アレクシスとはまるで次元が違う。人を裏切るような男ではない。彼女は、自分がどんな思いを抱いているのかを改めて理解していた。
――私も、彼と同じ未来を見てみたい。彼が王となる道を支えながら、一緒に国を良くしていきたい。
胸が熱くなるのを押さえつつ、シェラは意を決して、そっとアレストの手に触れる。
「私なんかで、よろしいのですか……? 婚約破棄の汚名を着せられた私が、あなたのそばにいても……」
「そんなこと、問題ではありません。私が信じるのは、あなたの真摯さと優しさです。私はあなたと共に国を支え、共に未来を切り拓きたい。もちろん、まだ正式なプロポーズという形にするには手順がありますが……」
そこで、アレストは言葉を切り、わずかに微笑む。その表情には、王太子という立場を超えた“一人の青年”としての想いが溢れていた。
「あなたの気持ちを聞かせてください、シェラ様。私と、これからも一緒に歩んでいただけませんか」
心臓の鼓動が激しくなる。もう怖れる必要はない。かつての失敗があったからこそ、今の自分は強くなれた。その強さを支えてくれたのはアレスト――この人だ。
――答えは、決まっている。シェラは震える声をこらえながら、はっきりと頷く。
「はい……私でよければ、ぜひ。私は殿下とともに国を見つめ、領地を守り、そして、まだ見ぬ未来を創りたいです」
その瞬間、アレストは安堵と歓喜の入り混じった表情を浮かべ、シェラの手を優しく握りしめた。二人の距離がすっと縮まり、胸の奥から熱いものがこみ上げる。過去の痛みが報われた――そんな感覚に満たされる。
これこそが、彼女の新たな幸せの始まりなのかもしれない。婚約破棄という絶望の先には、未来を共に描きたいと願う真摯な相手が待っていたのだ。
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