『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚

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第11話試練のプロジェクト

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第11話試練のプロジェクト 

西園寺グループ全体を巻き込む新プロジェクト――
その始動と共に、社内の空気ががらりと変わった。

廊下を歩く社員たちはいつもより速く、打合せ室には資料が積み上がり、会議室の明かりは連日深夜まで灯り続ける。
まるで会社そのものが巨大なエンジンとなり、未来へ向けて全力で動き出したようだった。

もちろん秘書課も例外ではない。

相沢結衣の毎日は、この瞬間から“試練の連続”へと変わった。


---

◆ 社長の期待と冷徹な要求

「相沢、この資料――明日までに分析をまとめろ。詳細な比較データも追加だ。」

蓮の低い声が、社長室から秘書課まで響く。
結衣は資料を抱え、慌ててデスクに戻った。

スケジュール管理。
複数部署への連絡。
会議資料のチェック。
参加者リストの作成。
急な予定変更への対応――

どれも重要で、どれも手を抜けない。

しかも、蓮は以前にも増して“完璧”を求めるようになっていた。

フォーマットが1ミリずれていれば指摘される。
日程調整が数分遅れただけで改善策を求められる。
数字の甘さは許されず、分析の視点不足は即座に修正。

「相沢。
 秘書の役割は、俺の指示を先回りして実行することだ。
 言われる前に動け。」

その厳しい言葉は、結衣の胸に重くのしかかった。

(わかってる……わかってるけど……
 今の私には、まだその“先回りの正解”が難しい……)

それでも結衣は食らいついた。
蓮に選ばれたことが誇りであり、同時に大きなプレッシャーでもあった。


---

◆ 限界を超える残業の日々

プロジェクト開始から二週間。
結衣の残業はほぼ毎日続いた。

「相沢さん、大丈夫? 顔がちょっと……」

長谷川綾子が心配そうに声をかける。

「はい……なんとか……」

笑顔を作ろうとするが、肌は疲労でくすみ、目の下にはうっすらクマができていた。

それでも家に帰れば蓮の指示を思い返し、資料の修正に追われる。

――気を抜けば眠気が襲い、
――眠れば作業が遅れ、
――遅れれば蓮の期待を裏切る。

(社長の期待に応えたい……
 そのためには、もっと成長しなきゃ……)

強い意志だけが、結衣の重たい体を動かした。


---

◆ 冷徹な指摘が胸に刺さる

プロジェクトが中盤を迎えたある日。

蓮は資料の一部を見て、ぴたりと手を止めた。

「相沢。この数字、甘いな。
 分析をやり直せ。」

その声は氷のように冷たかった。

「す、すみません。すぐに修正します……」

謝りながらも、膝が震える。

何度も確認したはずなのに。
何度も修正したはずなのに。
それでも蓮に届かない。

(私……ダメなのかな……)

胸が締め付けられる。

けれど――逃げたくなかった。

「社長の期待に応えたい……!」

その一心で、結衣は再び資料と向き合った。


---

◆ 深夜のオフィス、二人きり

その日の夜。
結衣がデスクで資料を修正していると、静まり返ったフロアに足音が響いた。

蓮が社長室から出てきたのだ。

「……相沢。まだ帰っていないのか?」

驚いて顔を上げると、蓮は眉をわずかにひそめていた。

「あ……はい。この部分を仕上げておきたくて……」

蓮はしばらく無言で結衣を見つめ、低く言った。

「相沢。
 無理をしすぎるな。お前が倒れれば、俺が困る。」

心臓が跳ねた。

(え……“俺が困る”……?)

厳しい指摘ばかりだと思っていた蓮が、
こんな言葉をかけてくれるなんて思いもしなかった。

「だ、大丈夫です。社長のお役に立てるのなら……」

声が震えた。

蓮は結衣をじっと見つめ、静かに頷いた。

「……あまり自分を追い詰めるな。」

その背中が見えなくなるまで、結衣は席を立てなかった。

胸の奥に、温かい灯がともっていた。


---

◆ 会議の日 ― 社長の評価

そして迎えた、プロジェクト中間報告の日。

結衣が徹夜で準備した資料が、会議室の長いテーブルにずらりと並べられる。
蓮はその一冊を取り、無言でページをめくった。

静寂が続く。

(だめだったらどうしよう……
 また冷たく指摘されるかも……)

不安で胸が張り裂けそうになったとき。

「……完璧だ。」

低く落ち着いた声が会議室に響いた。

「え……?」

結衣は思わず顔を上げた。

蓮は誇らしげでもなく、厳しくもなく――
ただ静かに、しかし確かに微笑んでいた。

「よくやった。これなら問題ない。」

その一言に、結衣の胸は熱く震えた。

(よかった……本当に……よかった……)

泣きそうになるのを必死でこらえた。


---

◆ 成長と注目、そして広がる噂

プロジェクト成功への道が見えたことで、
結衣の評価は社内で急速に高まっていった。

「あの資料、相沢さんが作ったらしいよ。」
「西園寺社長の秘書、やっぱり優秀なんだな。」
「社長のお気に入りって噂、本当なのかな?」

褒め言葉と、ざわめきと、噂の混じった視線。

結衣は戸惑いながらも、確実に感じていた。

――自分は変わり始めている。
――そして、社長との距離も。

しかし、その成功と変化が、
やがて二人の関係に大きな波紋を投げかけることになる。

蓮の厳しい指導を乗り越えたことで、
結衣の存在は社内でも特別視され始めていた。

その影響は――
ほかならぬ、二人の“心”にまで及び始めていた。


---

(私は……社長にどう思われているんだろう……?)

その問いは、結衣の胸で静かに、しかし確実に大きくなっていく――。
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