白い結婚でしたので、裏切り夫とはお別れいたします

鍛高譚

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第3章:交わされる偽りの弁明、そして決裂

17話

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両親による最後通告

 テーブルを挟んで、私たちとギルバート。空気は張り詰め、使用人たちも固唾をのんで見守っている。
 やがて、父が静かに口を開いた。
 「ギルバート、貴様に最後通告をする。クレアとの離縁に応じろ。そうすれば、裁定所での審理を経ずに済む……つまり、最低限の体面は保てるだろう。もっとも、貴様自身の評判が地に落ちることは避けられんがな」
 その言葉にギルバートは少しだけ顔を上げる。彼は、公爵家との争いがどれほど自分に不利かを理解しているはずだ。それでも、まだ何かしらの打開策を探そうというのだろうか。
 「……離縁というのは、あまりに一方的では? 公爵家に後ろ盾があれば何でも許されるわけではありません! 僕とクレアが真摯に話し合えば、再構築の道もあるはずだ! あるいは、しばらく別居という形を取るとか……」
 再構築? 何を言っているのだろう。私は思わず呆れ、肩の力が抜けそうになる。リリアンと密会し続け、私を踏みにじったくせに、今さら「やり直そう」などと——。
 「……冗談でしょ? あなたと私が“やり直す”ですって? 笑わせないで」
 私が小さく吐き捨てると、母がさらに言葉を重ねる。
 「公爵家の令嬢と結婚しておきながら、その実態は“白い結婚”。夜は一度も同じ寝室にすら入らない。この数週間、クレアがどれほど心を痛めていたか、あなたは想像したことさえないでしょう?」
 母の指摘に、ギルバートは顔を引き攣らせる。私がギルバートの屋敷で新婚生活を送っていたあの期間、彼はほとんど私のところに寄り付かなかった。
 「それでもあなたは、『仕事が忙しい』『深夜警備がある』と言い訳をしていたわね。クレアはそんなあなたを理解しようとしていた。でも、結局あなたはリリアンとの逢瀬を優先していただけ。事実に目を背けないで」
 母の声は冷ややかだが、そこには私への思いやりが感じられる。私があの屋敷でどんな寂しさを味わったか、母は全部分かってくれているのだ。
 ギルバートはテーブルの端をぐっと掴んだまま、絞り出すように言う。
 「……そこまで言うなら、訴えでも何でもすればいい。だが、公爵家が一方的に僕を悪者扱いしている——そう世間は受け取る可能性もある。クレアと僕の婚礼は、あれだけ多くの人々が祝福したのだ。離縁となれば、スキャンダルは確実。そちらにだって大きな痛手でしょう?」
 言いながら、彼は脅しとも取れる視線を父に向ける。
 「もし、ここで無理やり離縁を迫るなら、僕は自分の身を守るためにあらゆる手段を使わざるを得ない。誤解だらけのまま僕が悪者になるのは、あまりに理不尽だ……!」
 その言い分に、私は怒りを抑えられなくなった。誤解? どこに誤解があるというの? 愛人の手紙、私との結婚生活の実態、全部が“ただの事実”ではないか。
 父が椅子からすっと立ち上がり、ギルバートを鋭い眼差しで睨む。
 「……そうか。では本当に裁定所で争うということだな? いいだろう。私も、娘を欺いた貴様を社会的に抹殺するだけの覚悟はできている。貴様がどんな手を使おうと、公爵家の意志を揺るがすことはできん」
 その言葉に、ギルバートは追い詰められた表情を浮かべる。
 私と母は、父の側で黙って見守っていた。父はいつも冷静沈着な人だが、娘を傷つけられて黙っているほど甘くはない。さらに、ギルバートが脅し紛いの言葉を口にしたことで、父の怒りは頂点に達しているようだった。
 「もし、公爵家として本気で動けば、王宮の要職や騎士団内部での地位も全て吹き飛ぶだろう。貴様のこれまでの功績がどうこうという問題ではない。貴族社会というのは、そういうものだ……分かるな?」
 父は淡々と告げる。しかし、その声には揺るぎのない圧がある。ギルバートが騎士団でどんなに頑張ろうとも、公爵家との対立を正面から起こせば、彼が得られる未来など限りなく狭まる。
 「くっ……」
 ギルバートは歯噛みし、視線を床に落とす。そこへ母がさらに畳みかけた。
 「公爵家の名誉を盾に取って、娘を踏みにじり続けるなんて許せません。あなたが抵抗を続けるなら、その行為自体を国王陛下に報告するまでよ。あなただけでなく、ウェイン男爵家にも多大な迷惑がかかる。いいのかしら?」
 ウェイン男爵家——ギルバートの実家だ。男爵家とはいえ、そんな大きなスキャンダルが表沙汰になれば、家そのものが存続の危機に立たされる可能性もある。
 最終的には、彼が腹をくくらねばどうにもならない状況だった。ギルバートはしばらく沈黙し、やがて力なく息を吐いた。
 「……分かりました。そこまでおっしゃるなら、離縁を認めるしかない。僕にはどうしようもないことですから……」
 心にもない言葉だと分かっていても、その言質を取れただけで十分だった。私は心の中で安堵すると同時に、悔しさも込み上げる。なぜ最初から本音を話そうとしないのか。最後まで強情を張って、私たちを傷つけて……。
 それでも、これでひとまず大きな争いにはならずに済むのだろう。私はそっと息をつき、ギルバートを見据えた。
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