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第3章:交わされる偽りの弁明、そして決裂
24話
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未来へ向かう一歩
私が離縁してから、ひと月ほどが経過した。
王都の空は澄み渡り、爽やかな風が吹き抜けていく。季節が少しずつ変わっているのを肌で感じながら、私はバルコニーに立っていた。公爵家の屋敷のバルコニーから見下ろす庭は、日に日に緑が深くなり、美しい花々が彩りを添えている。
——私はこれから、どう生きていけばいいのだろう。
幸せになるはずだった結婚が崩れ去り、夫という存在を失った今、正直言って目標を見失っている。けれど、私はまだ若く、これからの人生は長い。すぐに再婚という話にはならなくても、いつか心を通わせられる人と出会うかもしれない。
父と母が「ゆっくり考えればいい」と言ってくれたように、私は少し休みながら、自分の道を探してみようと思う。騎士団の支援活動をしてみるのもいいし、貴族の子女の教育に関わってみるのもいいかもしれない。公爵家の娘としてできることは、まだまだあるはずだ。
手元には、かつてギルバートとの結婚を記念して作った指輪がある。あれはもう私にとって、何の意味も持たない装飾品だ。先日まで部屋の片隅に放置していたが、今日はそれを手に取り、じっと眺める。純白の宝石がはめ込まれた指輪……。
思い出したくない記憶も蘇るが、あの結婚式の日に感じた幸福もまた事実。私はあのとき確かに夢を見ていた。
——けれどもう、その夢は終わった。
私はバルコニーの手すり越しに指輪を見つめ、そっと瞳を閉じる。そして、指輪をふわりと放り投げた……わけではなく、掌の中にぎゅっと握りしめた。
「……もう、縛られるのはやめましょう」
そう小さく呟く。ギルバートとの結婚を象徴するものを捨てるのか、あるいは宝石を売り払うのか、まだ決めていないけれど、この指輪に心を縛られる必要はない。いつでも手放せる。もう、悲しみでいっぱいの私ではないのだから。
すると、バルコニーの扉が開き、母が顔を出した。
「クレア、ここにいたのね。……ほら、今からティータイムにしましょう。あなたの好きなお茶が手に入ったのよ」
母の微笑みに、私は自然と笑みを返す。
「……行きます、母様。今行きますわ」
指輪をポケットに仕舞い込むと、私は母と共にバルコニーを後にした。
今日もきっと、穏やかな時間が流れるだろう。この先いつか、新しい夢や希望に巡り会うかもしれない。結婚に失敗したといって、人生すべてが否定されるわけではないのだから。
“白い結婚ざまあ”という皮肉な形で人生の一幕を終えた私だが、これからは自分の足で歩いていこう。
そう心に決めながら、私は母のあとを追って屋敷の廊下を進む。遠くから、小鳥のさえずりが聞こえた。まるで、新しい季節の訪れを告げるかのように——。
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王都の空は澄み渡り、爽やかな風が吹き抜けていく。季節が少しずつ変わっているのを肌で感じながら、私はバルコニーに立っていた。公爵家の屋敷のバルコニーから見下ろす庭は、日に日に緑が深くなり、美しい花々が彩りを添えている。
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父と母が「ゆっくり考えればいい」と言ってくれたように、私は少し休みながら、自分の道を探してみようと思う。騎士団の支援活動をしてみるのもいいし、貴族の子女の教育に関わってみるのもいいかもしれない。公爵家の娘としてできることは、まだまだあるはずだ。
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思い出したくない記憶も蘇るが、あの結婚式の日に感じた幸福もまた事実。私はあのとき確かに夢を見ていた。
——けれどもう、その夢は終わった。
私はバルコニーの手すり越しに指輪を見つめ、そっと瞳を閉じる。そして、指輪をふわりと放り投げた……わけではなく、掌の中にぎゅっと握りしめた。
「……もう、縛られるのはやめましょう」
そう小さく呟く。ギルバートとの結婚を象徴するものを捨てるのか、あるいは宝石を売り払うのか、まだ決めていないけれど、この指輪に心を縛られる必要はない。いつでも手放せる。もう、悲しみでいっぱいの私ではないのだから。
すると、バルコニーの扉が開き、母が顔を出した。
「クレア、ここにいたのね。……ほら、今からティータイムにしましょう。あなたの好きなお茶が手に入ったのよ」
母の微笑みに、私は自然と笑みを返す。
「……行きます、母様。今行きますわ」
指輪をポケットに仕舞い込むと、私は母と共にバルコニーを後にした。
今日もきっと、穏やかな時間が流れるだろう。この先いつか、新しい夢や希望に巡り会うかもしれない。結婚に失敗したといって、人生すべてが否定されるわけではないのだから。
“白い結婚ざまあ”という皮肉な形で人生の一幕を終えた私だが、これからは自分の足で歩いていこう。
そう心に決めながら、私は母のあとを追って屋敷の廊下を進む。遠くから、小鳥のさえずりが聞こえた。まるで、新しい季節の訪れを告げるかのように——。
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