婚約破棄されたら運が覚醒しました

鍛高譚

文字の大きさ
21 / 25

21話

しおりを挟む
「……はぁ……」
重い空気の中、わたくしは深呼吸をする。昼なお暗い森の奥で、鳥の鳴き声さえ途絶えているように思えた。


騎士団とともに森を進む

レオン殿下、そして体調不良のカレン様が乗った馬車は、森の入り口でとうとう通行不能に。これより先は、徒歩で行くしかない。
護衛の騎士たちが最低限の荷を抱え、わたくしも薬草道具と錬金術の資材を背負って、森の奥へ足を踏み入れた。
カレン様はというと、馬車を諦めて騎士の肩を借りて歩く――が、その顔色は日に日に悪くなっている。

「殿下、カレン様を休ませたほうがいいんじゃ……」
わたくしが進言すると、レオン殿下は目を伏せてかぶりを振った。
「ここで止まるわけにはいかない。カレンは聖女だ。月の巫女の花があれば、きっと彼女の力が安定するはずなんだ……」
その声には焦りが混じっていた。
正直、わたくしは不安だ。もしカレン様が“本物の聖女”ではなかった場合、あの花は彼女を救うどころか、さらに大きな苦しみを与えることになるかもしれない。――そんな予感が拭えない。

それでも、止まってくれないのがレオン殿下という人。
もはや、わたくしにできるのは“これ以上、カレン様が危険に巻き込まれないように”全力でサポートすることくらい。錬金術で作った鎮静薬や回復ポーションを随時渡しながら、わたくしたちは森を進み続けた。

思わぬ再会――第二王子セイランの救援

何日も森をさまよい、道に迷いかけた頃。
「殿下! ここは一度、王都へ戻って態勢を整えるべきです! これ以上は、我々の食料も尽きかけています!」
護衛騎士の一人が渇いた声を張り上げる。
わたくしも同感だった。カレン様の体調は悪化の一途を辿っており、高熱のせいで足元もおぼつかない。
さすがに殿下も眉間に深い皺(しわ)を寄せたが、それでも首を縦には振らない。

「あと少しだ……おそらく、この先に古代遺跡があると聞いた。そこに月の巫女の花が――」
言いかけた瞬間、木々の隙間から騎士団らしき大人数の足音が近づいてきた。
「……? 何者だ!」
わたくしたちの護衛が身構えると、やがて見知った姿が現れる。

「おい、兄上。まだこんなところでくすぶっていたのか」
低い、冷静な声音。黒髪をすっきりとまとめ、鋭い眼差しを向けてきたのは第二王子、セイラン殿下だった。十数名の騎士団を連れている。

「セイラン……!」
レオン殿下は悔しそうに歯を食いしばる。
どうやら、セイラン殿下が“王太子殿下が行方をくらましている”という報せを聞き、騎馬隊を率いて追ってきたのだろう。
王都での政務はどうしたのかと心配になるが、それだけ事態が深刻なのだ。

「兄上、聞くところによると、カレンの体調が相当深刻だそうじゃないか。そんな状態で森をさまようなど、狂気の沙汰だ」
「だが、俺は引き返せない。月の巫女の花が必要なんだ……!」
レオン殿下の頑固さに、セイラン殿下はため息をつく。

「……カレンを本気で救いたいのなら、もう少し頭を使え。万全な準備をせずに突っ込んでも彼女を苦しめるだけだ。――フランボワーズ、お前の見解はどうだ?」
急に話を振られ、わたくしは身を正す。
「わたくしも、一度仕切り直したいと思っていました。ただ、カレン様の体調がここまで悪い以上、長距離の移動に耐えられるかどうか……」
「ふむ。それならば、先に準備を整えた騎士団を配置し、ある程度安全を確保するのが先決だな。――兄上、これ以上、単独行動を取られると国としても困るんだ。頼むから、我々に任せてくれ」

こうして、セイラン殿下の助力を得て、一行は森の中央近くにある比較的安全な場所で野営を整え直すことになった。
夜営地にテントを張り、カレン様を休ませ、食料や薬の補給も行う。これで少しはマシになるだろう。
わたくしはセイラン殿下の姿を見やり、心底ほっとした。
(本当によかった……もしセイラン殿下が来なければ、わたくしたちは飢えと疲弊でどうにもならなくなっていたかもしれない)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※「なろう」にも重複投稿しています。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

【完結】断罪された占星術師は、処刑前夜に星を詠む

佐倉穂波
恋愛
 星は、嘘をつかない。嘘をついていたのは——わたし自身だった。  王宮の卜部に勤める十七歳の占星術師リュシア・アストレアは、ある日、王太子妃候補の婚儀に「凶」の星を読んだ。星が告げるままに報告したに過ぎなかったのに、翌朝には牢に入れられていた。罪状は「占星術を用いて王家を惑わせ、王太子暗殺を画策した」こと。  言いがかりだ。  しかし、証明する術がない。  処刑は五日後の朝と告げられ、リュシアは窓もない石の牢に閉じ込められた。  そこで彼女は気づいてしまう。占いが外れ続けていた本当の理由に。  道具も星図もない暗闇の中で、生まれて初めて、星の声を正しく聞いた。  瞼の裏に広がる夜空が、告げる。  【王太子が、明後日の夜に殺される】  処刑前夜に視た予言を、誰が信じるというのか。それでも、若き宰相クラウス・ベルシュタインは深夜の牢へ足を運び、断罪された少女の言葉に耳を傾けた。  二人の出会いは、運命をどう変えていくのかーー。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

側妃の愛

まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。 王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。 力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。 Copyright©︎2025-まるねこ

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...