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21話
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「……はぁ……」
重い空気の中、わたくしは深呼吸をする。昼なお暗い森の奥で、鳥の鳴き声さえ途絶えているように思えた。
騎士団とともに森を進む
レオン殿下、そして体調不良のカレン様が乗った馬車は、森の入り口でとうとう通行不能に。これより先は、徒歩で行くしかない。
護衛の騎士たちが最低限の荷を抱え、わたくしも薬草道具と錬金術の資材を背負って、森の奥へ足を踏み入れた。
カレン様はというと、馬車を諦めて騎士の肩を借りて歩く――が、その顔色は日に日に悪くなっている。
「殿下、カレン様を休ませたほうがいいんじゃ……」
わたくしが進言すると、レオン殿下は目を伏せてかぶりを振った。
「ここで止まるわけにはいかない。カレンは聖女だ。月の巫女の花があれば、きっと彼女の力が安定するはずなんだ……」
その声には焦りが混じっていた。
正直、わたくしは不安だ。もしカレン様が“本物の聖女”ではなかった場合、あの花は彼女を救うどころか、さらに大きな苦しみを与えることになるかもしれない。――そんな予感が拭えない。
それでも、止まってくれないのがレオン殿下という人。
もはや、わたくしにできるのは“これ以上、カレン様が危険に巻き込まれないように”全力でサポートすることくらい。錬金術で作った鎮静薬や回復ポーションを随時渡しながら、わたくしたちは森を進み続けた。
思わぬ再会――第二王子セイランの救援
何日も森をさまよい、道に迷いかけた頃。
「殿下! ここは一度、王都へ戻って態勢を整えるべきです! これ以上は、我々の食料も尽きかけています!」
護衛騎士の一人が渇いた声を張り上げる。
わたくしも同感だった。カレン様の体調は悪化の一途を辿っており、高熱のせいで足元もおぼつかない。
さすがに殿下も眉間に深い皺(しわ)を寄せたが、それでも首を縦には振らない。
「あと少しだ……おそらく、この先に古代遺跡があると聞いた。そこに月の巫女の花が――」
言いかけた瞬間、木々の隙間から騎士団らしき大人数の足音が近づいてきた。
「……? 何者だ!」
わたくしたちの護衛が身構えると、やがて見知った姿が現れる。
「おい、兄上。まだこんなところでくすぶっていたのか」
低い、冷静な声音。黒髪をすっきりとまとめ、鋭い眼差しを向けてきたのは第二王子、セイラン殿下だった。十数名の騎士団を連れている。
「セイラン……!」
レオン殿下は悔しそうに歯を食いしばる。
どうやら、セイラン殿下が“王太子殿下が行方をくらましている”という報せを聞き、騎馬隊を率いて追ってきたのだろう。
王都での政務はどうしたのかと心配になるが、それだけ事態が深刻なのだ。
「兄上、聞くところによると、カレンの体調が相当深刻だそうじゃないか。そんな状態で森をさまようなど、狂気の沙汰だ」
「だが、俺は引き返せない。月の巫女の花が必要なんだ……!」
レオン殿下の頑固さに、セイラン殿下はため息をつく。
「……カレンを本気で救いたいのなら、もう少し頭を使え。万全な準備をせずに突っ込んでも彼女を苦しめるだけだ。――フランボワーズ、お前の見解はどうだ?」
急に話を振られ、わたくしは身を正す。
「わたくしも、一度仕切り直したいと思っていました。ただ、カレン様の体調がここまで悪い以上、長距離の移動に耐えられるかどうか……」
「ふむ。それならば、先に準備を整えた騎士団を配置し、ある程度安全を確保するのが先決だな。――兄上、これ以上、単独行動を取られると国としても困るんだ。頼むから、我々に任せてくれ」
こうして、セイラン殿下の助力を得て、一行は森の中央近くにある比較的安全な場所で野営を整え直すことになった。
夜営地にテントを張り、カレン様を休ませ、食料や薬の補給も行う。これで少しはマシになるだろう。
わたくしはセイラン殿下の姿を見やり、心底ほっとした。
(本当によかった……もしセイラン殿下が来なければ、わたくしたちは飢えと疲弊でどうにもならなくなっていたかもしれない)
重い空気の中、わたくしは深呼吸をする。昼なお暗い森の奥で、鳥の鳴き声さえ途絶えているように思えた。
騎士団とともに森を進む
レオン殿下、そして体調不良のカレン様が乗った馬車は、森の入り口でとうとう通行不能に。これより先は、徒歩で行くしかない。
護衛の騎士たちが最低限の荷を抱え、わたくしも薬草道具と錬金術の資材を背負って、森の奥へ足を踏み入れた。
カレン様はというと、馬車を諦めて騎士の肩を借りて歩く――が、その顔色は日に日に悪くなっている。
「殿下、カレン様を休ませたほうがいいんじゃ……」
わたくしが進言すると、レオン殿下は目を伏せてかぶりを振った。
「ここで止まるわけにはいかない。カレンは聖女だ。月の巫女の花があれば、きっと彼女の力が安定するはずなんだ……」
その声には焦りが混じっていた。
正直、わたくしは不安だ。もしカレン様が“本物の聖女”ではなかった場合、あの花は彼女を救うどころか、さらに大きな苦しみを与えることになるかもしれない。――そんな予感が拭えない。
それでも、止まってくれないのがレオン殿下という人。
もはや、わたくしにできるのは“これ以上、カレン様が危険に巻き込まれないように”全力でサポートすることくらい。錬金術で作った鎮静薬や回復ポーションを随時渡しながら、わたくしたちは森を進み続けた。
思わぬ再会――第二王子セイランの救援
何日も森をさまよい、道に迷いかけた頃。
「殿下! ここは一度、王都へ戻って態勢を整えるべきです! これ以上は、我々の食料も尽きかけています!」
護衛騎士の一人が渇いた声を張り上げる。
わたくしも同感だった。カレン様の体調は悪化の一途を辿っており、高熱のせいで足元もおぼつかない。
さすがに殿下も眉間に深い皺(しわ)を寄せたが、それでも首を縦には振らない。
「あと少しだ……おそらく、この先に古代遺跡があると聞いた。そこに月の巫女の花が――」
言いかけた瞬間、木々の隙間から騎士団らしき大人数の足音が近づいてきた。
「……? 何者だ!」
わたくしたちの護衛が身構えると、やがて見知った姿が現れる。
「おい、兄上。まだこんなところでくすぶっていたのか」
低い、冷静な声音。黒髪をすっきりとまとめ、鋭い眼差しを向けてきたのは第二王子、セイラン殿下だった。十数名の騎士団を連れている。
「セイラン……!」
レオン殿下は悔しそうに歯を食いしばる。
どうやら、セイラン殿下が“王太子殿下が行方をくらましている”という報せを聞き、騎馬隊を率いて追ってきたのだろう。
王都での政務はどうしたのかと心配になるが、それだけ事態が深刻なのだ。
「兄上、聞くところによると、カレンの体調が相当深刻だそうじゃないか。そんな状態で森をさまようなど、狂気の沙汰だ」
「だが、俺は引き返せない。月の巫女の花が必要なんだ……!」
レオン殿下の頑固さに、セイラン殿下はため息をつく。
「……カレンを本気で救いたいのなら、もう少し頭を使え。万全な準備をせずに突っ込んでも彼女を苦しめるだけだ。――フランボワーズ、お前の見解はどうだ?」
急に話を振られ、わたくしは身を正す。
「わたくしも、一度仕切り直したいと思っていました。ただ、カレン様の体調がここまで悪い以上、長距離の移動に耐えられるかどうか……」
「ふむ。それならば、先に準備を整えた騎士団を配置し、ある程度安全を確保するのが先決だな。――兄上、これ以上、単独行動を取られると国としても困るんだ。頼むから、我々に任せてくれ」
こうして、セイラン殿下の助力を得て、一行は森の中央近くにある比較的安全な場所で野営を整え直すことになった。
夜営地にテントを張り、カレン様を休ませ、食料や薬の補給も行う。これで少しはマシになるだろう。
わたくしはセイラン殿下の姿を見やり、心底ほっとした。
(本当によかった……もしセイラン殿下が来なければ、わたくしたちは飢えと疲弊でどうにもならなくなっていたかもしれない)
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