婚約破棄されたら運が覚醒しました

鍛高譚

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23話

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帰還と“真実の暴露”

その後、セイラン殿下の号令で、わたくしたちは夜を徹して森を抜け出すことにした。
数日の行軍を経て、なんとか王都へ戻ったときには、すでにカレン様は意識不明のまま。高熱も下がらず、まともに歩けないほどに衰弱していた。
医師たちが集中して手当てするも、なかなか回復の兆しは見えない。なにより“偽りの聖女”という疑惑が国中に広まってしまい、教会も戸惑いを隠せない状態だ。

「王太子殿下が連れ帰った“聖女”はやはり偽物だったのでは?」
「公務を放棄して旅に出るなど、国の混乱を招いた責任は重い……」
世論が激しくレオン殿下を非難する声を上げる。貴族議会でも事態を重く見て、殿下の王太子位を剥奪する動きが加速している。
しかし、その波はカレン様自身へのバッシングにも向けられるだろう。――結局、嘲笑や憎悪の矛先は“偽りの聖女”と呼ばれる少女に集中し、彼女はどこにも居場所がなくなってしまうかもしれない。
「……俺は、すべての責任を負う。カレンをひとりで責めさせはしない」
そう表明したレオン殿下は、国王と貴族たちの面前で“王太子位辞退”を宣言してしまった。

「殿下……そこまでするのですか……?」
わたくしが問いかけると、殿下は苦しそうな笑みを浮かべる。
「もう俺は、王族でいることに疲れたよ。今さら政務に戻ったところで誰も納得しないし、俺自身、カレンがいなければ意味がない。国のためじゃなく、俺はあくまでカレンのために動く。それなら、王太子を降りるのが筋だろう」
その言葉に、かつての憧れや傲慢さは感じられない。むしろ、不器用な男の本音が滲んでいるように思えた。

こうして、レオン殿下の“ざまぁ”とも言える幕引きが決まり、国民の目は第二王子セイラン殿下を“次期王太子”として仰ぎ見るようになる。
実際、セイラン殿下は手腕を発揮し、混乱する政治の立て直しを迅速に進める。あの旅から戻った後も、ほとんど休まず公務に奔走した。
「兄上にはこの形が、一番幸せなのかもしれん。――もっとも、カレンがいつ目を覚ますかはわからんがな」
そう呟くセイラン殿下の表情は、どこか複雑そうだった。

◇ 回復するカレン、そして別離

あれから数週間後。カレン様はようやく一命をとりとめ、薄っすらと意識を取り戻した。
彼女は王城ではなく、郊外の療養施設で過ごすよう手配されている。周囲の目を避け、心身を休めるためだ。
レオン殿下(もはや“殿下”ではなくなるが)は、すべてを捨ててカレン様のそばにつくと宣言。貴族院からも「今後は、王族としての特権を放棄し、一般貴族待遇になる」という通告が下った。
世間の批判は相当なものだが、それでも彼は意に介さない。カレン様の腕を握り、「お前が元気になるまで俺はずっとそばにいる」と語りかける姿は、かつての傲慢な王太子像とはかけ離れていた。

「フランボワーズ様、今まで本当にありがとうございました……」
面会に訪れたわたくしに、カレン様は涙ぐむ。
「わたしは……やっぱり偽りの聖女だったんだと思います。力の片鱗はあったかもしれないけれど、それが本物じゃないなら、何もかも無意味なのかも……」
「そんなことはありませんわ。たとえ聖女としての力が偽物でも、あなたが人を癒やしたり、優しく接したことは本当でしょう? 救われた人だっていたはずよ」
わたくしの言葉に、カレン様は少しだけほほ笑む。そして、横にいたレオン“元”殿下と視線を交わし合い、微かに頷(うなず)いた。

「ありがとう、フランボワーズ。お前がいなかったら、カレンはあのまま死んでいたかもしれない。俺はいつかこの恩を返したいと思っている」
真っ直ぐな瞳でそう告げるレオン元殿下。わたくしは少し照れながら頭をかく。
「返さなくて結構ですわ。わたくしも勝手に動いただけですもの。それより、おふたりが少しでも穏やかに暮らせるといいですわね」
「……ああ。俺は身分も地位も失ったけれど、カレンさえいればいいんだ。世間がなんと言おうと、彼女を支えていく。それが、いまの俺の生き方だ」

こうして、元王太子と“偽りの聖女”は世間から厳しい目を向けられながらも、新たな人生を歩み始める。――ある意味では、苦くも優しい結末と言えるだろう。
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