10 / 23
第二章:氷の令嬢、契約結婚の提案を受ける
2-5
しおりを挟む
「……改めまして、リチャードソン令嬢とお話しするのは初めてですね。私はカイル・ヴァレンタイン。第二王子殿下に仕えている騎士団長です」
「はい、存じ上げております。ヴァレリー・リチャードソンです。改めて名乗るまでもないかもしれませんが……」
ヴァレリーは歩みを止め、軽く一礼する。
カイルはそれを見て、少しだけ微笑んだ。
「なるほど、噂に聞く“氷の令嬢”というのはこういうことか……」
「……私が氷のようだと?」
思わず眉をひそめるヴァレリーに、カイルはすぐに両手を上げて誤解を解くように弁明した。
「いや、悪い意味じゃありません。あれほど非常識な仕打ちを受けたというのに、まったく取り乱す気配もなく、冷静に対処した。その胆力と誇り高さを、敬意を込めて表現するなら“氷”という言葉がしっくりくるかと思いまして」
カイルの声には、確かに揶揄するような響きはなく、むしろ敬意がこもっている。
ヴァレリーは目を伏せ、穏やかに答える。
「……そうですか。ならば構いません。でも、私がそう振る舞わなければならなかったのは、公爵家の責任を背負っていたから。個人的な感情を優先させて醜態をさらすわけにはいきません」
「それはわかります。ですが、普通ならばあんな形で婚約を破棄されたら、怒りを露わにしてもおかしくない。俺が同じ立場なら、王太子殿下の胸ぐらを掴んでいるかもしれません」
カイルは肩をすくめて苦笑した。
ヴァレリーも一瞬、その光景を想像してしまい、わずかに口元が緩む。
「いずれにせよ、あの男――王太子殿下の行動は軽率が過ぎました。私は、この先どうなるか正直わかりませんが、せめて公爵家を守るため、できることをするだけです」
「そこがあなたのすごいところだと思います。……さて、単刀直入に言ってよろしいでしょうか?」
カイルが歩みを止め、ヴァレリーのほうをまっすぐに見つめた。その瞳には、先ほど執務室で見た冷静さとはまた違った強い意志が宿っている。
ヴァレリーは胸の奥でざわめきを感じながらも、いつものように平然と相手の視線を受け止めた。
「単刀直入に、とは?」
「実は俺、リチャードソン令嬢――いえ、ヴァレリーさんに協力したいと考えています。王太子殿下の暴走を放置しておけば、国が混乱するのは目に見えている。あなたのご家族や周囲の人々にも危害が及ぶかもしれない。俺はそれを防ぎたいんです」
その言葉に、ヴァレリーの眉がわずかに動く。
“協力”とは具体的にどういう意味を指しているのか。カイルは続ける。
「あなたはすでに、領地譲渡の件で王家と交渉を進めているが、あの王太子派が黙っているとは思えない。裏から手を回して、あなたを貶める策を弄するかもしれない。
――そこで、俺には一つの提案があるんです」
「提案……?」
「ええ。もしもの話として、俺とあなたが“契約結婚”をするというのは、いかがでしょうか?」
その瞬間、ヴァレリーの呼吸が止まりかけた。
---
「はい、存じ上げております。ヴァレリー・リチャードソンです。改めて名乗るまでもないかもしれませんが……」
ヴァレリーは歩みを止め、軽く一礼する。
カイルはそれを見て、少しだけ微笑んだ。
「なるほど、噂に聞く“氷の令嬢”というのはこういうことか……」
「……私が氷のようだと?」
思わず眉をひそめるヴァレリーに、カイルはすぐに両手を上げて誤解を解くように弁明した。
「いや、悪い意味じゃありません。あれほど非常識な仕打ちを受けたというのに、まったく取り乱す気配もなく、冷静に対処した。その胆力と誇り高さを、敬意を込めて表現するなら“氷”という言葉がしっくりくるかと思いまして」
カイルの声には、確かに揶揄するような響きはなく、むしろ敬意がこもっている。
ヴァレリーは目を伏せ、穏やかに答える。
「……そうですか。ならば構いません。でも、私がそう振る舞わなければならなかったのは、公爵家の責任を背負っていたから。個人的な感情を優先させて醜態をさらすわけにはいきません」
「それはわかります。ですが、普通ならばあんな形で婚約を破棄されたら、怒りを露わにしてもおかしくない。俺が同じ立場なら、王太子殿下の胸ぐらを掴んでいるかもしれません」
カイルは肩をすくめて苦笑した。
ヴァレリーも一瞬、その光景を想像してしまい、わずかに口元が緩む。
「いずれにせよ、あの男――王太子殿下の行動は軽率が過ぎました。私は、この先どうなるか正直わかりませんが、せめて公爵家を守るため、できることをするだけです」
「そこがあなたのすごいところだと思います。……さて、単刀直入に言ってよろしいでしょうか?」
カイルが歩みを止め、ヴァレリーのほうをまっすぐに見つめた。その瞳には、先ほど執務室で見た冷静さとはまた違った強い意志が宿っている。
ヴァレリーは胸の奥でざわめきを感じながらも、いつものように平然と相手の視線を受け止めた。
「単刀直入に、とは?」
「実は俺、リチャードソン令嬢――いえ、ヴァレリーさんに協力したいと考えています。王太子殿下の暴走を放置しておけば、国が混乱するのは目に見えている。あなたのご家族や周囲の人々にも危害が及ぶかもしれない。俺はそれを防ぎたいんです」
その言葉に、ヴァレリーの眉がわずかに動く。
“協力”とは具体的にどういう意味を指しているのか。カイルは続ける。
「あなたはすでに、領地譲渡の件で王家と交渉を進めているが、あの王太子派が黙っているとは思えない。裏から手を回して、あなたを貶める策を弄するかもしれない。
――そこで、俺には一つの提案があるんです」
「提案……?」
「ええ。もしもの話として、俺とあなたが“契約結婚”をするというのは、いかがでしょうか?」
その瞬間、ヴァレリーの呼吸が止まりかけた。
---
0
あなたにおすすめの小説
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢アリスは他に想う人のいる相手と結婚した。
政略結婚ではあったものの、家族から愛されず、愛に飢えていた彼女は生まれて初めて優しくしてくれる夫をすぐに好きになった。
しかし、結婚してから三年。
夫の初恋の相手である王女殿下が国に帰って来ることになり、アリスは愛する夫から離婚を告げられてしまう。
絶望の中でアリスの前に現れたのはとある人物で……!?
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる