婚約お断り令嬢ですわ ~奇行で縁談を潰していたら本命騎士に再会しました~

鍛高譚

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18話

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 王城の謁見室、アレクシオス王子との初対面

大理石の床に映える金色の文様、天井までそびえるような大きな柱。
王家独特の威厳を感じさせる部屋――そこが、私と王子との謁見の場だった。

奥に立つのは、淡い金髪を背中まで伸ばし、宝石のように輝く瞳を持った青年。
恐らく、これがアレクシオス殿下。
華やかな刺繍の入ったローブを身にまとい、従者たちを従えている。

「ほう……お前が、グレイシア公爵家の令嬢か」

殿下は見下ろすように私に視線を向ける。
玉座のような椅子に腰掛けたその姿は、まさに“高慢な王子”そのもの。

私は礼儀に則って足元に跪き、一礼する。
「はい。アンネローゼ・フォン・グレイシアにございます。
 このたびは、お招きいただき光栄に存じます」

やや大袈裟なくらいに深く頭を垂れる。
王族相手には、それなりの慎重さが必要だ。

すると、アレクシオス殿下は口元を小さく歪めて笑った。

「なるほど……なかなか美しいな。それに、噂通りに聡明そうな目をしている。
 お前ほどの器量の娘が、どうして二度も縁談を潰したのか、興味があるところだ」

さっそく核心をつくような言葉だ。
しかし、私は取り乱さず、ごく自然に微笑みを返した。

「そうですね……私はただ、自分に合わないと思った縁談を断っていただけですわ。
 それが騒がしい噂になってしまったのは、不本意ではありますけれども」

「ふん、よく言う。周囲では、お前が“奇行”を繰り返して相手を逃がしたなどと囁かれているが……?」

アレクシオス殿下の瞳が探るように私を見つめる。
私はそれにも穏やかな表情を崩さず、言葉を継いだ。

「奇行、ですか。
 ……もし私の振る舞いが貴族の皆様から見て“おかしい”と映ったのなら、仕方ありませんわ。
 ですが、私には私なりの理由がありましたの。殿下は、その理由を知りたいとお思いですか?」

少し挑発的にも聞こえる言い回し。
かといって、こちらは王子に喧嘩を売るわけにはいかない。

アレクシオス殿下は小馬鹿にしたように口元を動かした。
「いらんな。お前の過去の話など興味はない。
 それよりも、これからの未来を考える方が建設的というものだ。
 ――まあ、お前は“面白い女”だという噂は聞いておる。
 退屈はさせぬだろうし、私はそれだけで十分だ」

そう言い放つ殿下の言葉に、私はわずかな苛立ちを感じた。
まるで私を娯楽の道具としか見ていないような口ぶり。

しかし、ここで下手に噛みついても得策ではない。
私はあえて笑みを湛えて、柔らかく返す。

「それは光栄ですわ。退屈させない――そう言っていただけるなら、存分に楽しんでいただきましょう。
 ……私も、殿下の素晴らしいところを、ぜひ拝見させていただきたいですもの」

遠回しに「あなたの本質を見極めますわよ」と示唆している。
すると殿下はまんざらでもない表情を浮かべ、自信満々に頷いた。

「言われずとも、私がどれほど優れているかは、すぐに思い知ることになるだろう。
 ――よいか、アンネローゼ。お前は私の婚約者になる以上、朝な夕なに私を讃える言葉を捧げるのが務めだ。
 例えば、毎朝起きたら私に“殿下こそが世界で最も美しく尊いお方です”と賛美の歌でも奏でるがいい」

……どうやら本当に“強烈なナルシスト”のようだ。
想像していたよりもずっと悪趣味というか、手に負えない。

私は内心で頭を抱えたが、顔には出さず、ゆっくりとその場を辞する。

(これは手強い相手……けど、逆に言えば、付け入る隙も多いかもしれない)

王族といえども、彼は非常に自尊心が高く、しかし気が短いタイプの人間だ。
ほんの少しの挑発や侮辱で、容易に怒りを燃え上がらせるかもしれない。
そして、**“殿下の方から”**婚約破棄を言い出してくれれば、私の計画は成功となる。

(でも、王族相手に派手に喧嘩を売ると、国全体を巻き込む大問題に発展しそう……。
 あくまで上手に、自尊心を刺激して、向こうから破談させる方向に持っていくしかないわね)

――そう思い定めながら、私はアレクシオス殿下の元を後にした。
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