婚約お断り令嬢ですわ ~奇行で縁談を潰していたら本命騎士に再会しました~

鍛高譚

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20話

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 迫り来る舞踏会、王子アレクシオスの“朝の歌”要求

「おい、アンネローゼ。今日はどんな歌を捧げるんだ?
 まさか同じフレーズを繰り返すような芸のないことはしないだろうね?」

王城の中庭を散策する私と王子。
アレクシオス殿下はまるで自分の芸術的才能を試すかのように、私に“賛美の歌”を即興で作るよう迫ってくる。

彼の言葉選びは常に高圧的だが、私もそれを表向きは素直に受け止める。

「かしこまりましたわ。今朝は殿下を讃える詩を一つ考えてまいりましたの。
 もしよろしければ……お耳を拝借しても?」

そう言うと、王子は満足げに頷く。
近くには側近たちも控えているが、王子に言われるがまま、私と殿下にほどよい距離を保っている。

「さあ、聞かせてみろ。私がどれほど美しく、尊い存在か――その詩の出来栄えを評価してやろう」

「それでは失礼して……」

私はドレスの裾を軽く持ち上げ、中庭の噴水を背にゆったりと一礼する。
そして、王子の目をしっかり見据えたまま、歌うように詩を紡いだ。

「――天より与えられし輝き、
 きらめく髪は金の糸、
 その瞳は宝石にも勝る光を宿す。
 うつし世に生まれ落ちし奇跡、
 我らが王子アレクシオス殿下は、
 あらゆる闇を照らし出す尊き太陽の化身――」

途中まで、至極まっとうな“賛美”になっている。
側近たちも「おお……」と、感嘆とともに軽く拍手してくれる。

しかし、本番はここからだ。
私は続けざまに、声を落として怪しげなニュアンスを含ませる。

「けれど……
 太陽は、眩しすぎる光のゆえに、
 周りの者たちを時として苦しめ、
 影を落とすこともある。
 光に酔いしれるがあまり、
 いつしか自らの足元すら見えなくなる――」

「ん……?」

アレクシオス殿下の表情が一瞬、ぴくりと動く。
私は微笑みを崩さないまま、さらに歌い続ける。

「その輝きは時に尊く、
 けれど恐ろしくもある……
 天を仰ぎ見て魅了される者がいる一方で、
 強烈な光に傷つき、目を背ける者もいる。
 もし殿下が、この光の全てを理解し、
 本当の意味で周囲を照らすのであれば――
 どうぞ、その手を差し伸べてくださいませ。
 そう、ただ一人、鏡の中のご自身ではなく……
 貴方が守るべき、この国の民たちに」

詩が終わる頃、辺りは微妙な静寂に包まれた。
普通に聞けば「王子は太陽、すごく尊い存在」と讃えているかのように聞こえる。
しかし、“鏡の中のご自身ではなく”という一節など、よくよく考えれば**「自己陶酔ばかりしていては駄目」**という皮肉が込められている。

アレクシオス殿下は満足そうな顔で頷いているが、どこか釈然としない雰囲気も漂っていた。
「……ふむ、悪くない。だが、お前、最後のほうで何やら余計なことを言わなかったか?」

私はあくまで澄ました顔で応じる。

「滅相もございませんわ。殿下を讃える想いを綴ったまでです。
 ですが……もしお気に障る箇所がございましたかしら? どうかご指摘くださいませ」

殿下が唇を動かしかけるが、具体的にどこをどう指摘すればよいのか分からないのだろう。
一言、「別にいい」と吐き捨てるように言い放ち、そのまま踵を返して歩き出す。

(今のところ、殿下もそこまで深くは突っ込んでこないか……。
 だけど、こうして少しずつ“不穏な”ニュアンスを与えていけば、そのうち王子の自尊心を刺激できるはず)

私は心の中で作戦の手応えを噛みしめる。
この程度の嫌味を毎日繰り返していけば、じわじわと殿下の不快感が溜まっていくだろう。
いわば、王子を**“じんわり煮込む”**ようなものだ。

(……けれど、もうひと押し。決定打が欲しいわね。
 人前で、誰もが笑ってしまうような“歌”を披露すれば、殿下のプライドは粉々。
 絶対に破談を言い出さざるを得なくなる……)

問題は、“いつ、どこで”それをやるかだ。
私は、その舞台として近々開かれる大規模な舞踏会に目をつけていた。
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