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7話
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数十分後、温室の一角は即席ラボと化していた。
長机の上に銅鍋、温度計、濾過布、氷を満たした桶。アントンは腕組みしつつも興味津々で覗き込む。
「お嬢様、ジュースなら普通に搾ればよろしいのでは?」
「ただ搾るだけでは香りが飛びますわ。ポイントは“低温殺菌”と“真空濃縮”!」
シャルは胸を張り、前世で見聞きした食品工場のうんちくを早口で披露する。
要は、果汁を60℃前後で短時間加熱して雑菌を殺し、すぐ氷水で急冷。その後、密閉容器の中で弱い真空をかけながら水分だけを飛ばし、香気成分を逃さず濃縮させるという手順だ。
「そんな魔法みたいな装置、うちにありますかね?」とアントン。
「真空ポンプは錬金術師ギルドから借りますわ。殺菌用の温度管理は……アントン、あなたの腕で何とかなりますでしょう?」
厨房長は豪快に笑った。
「面白い! やってやろうじゃねえか!」
こうして“ジュース革命”の実験がスタートした。
まずは温室裏に仮設された搾汁場で、ぶどうを潰す。ソフィアをはじめ見習いメイドたちが素手で踏み踏み。「赤ちゃんのために!」と張り切るソフィアの笑顔に、現場の士気は最高潮だ。
搾った果汁は銅鍋へ。アントンが温度計をにらみ、60℃を超えないよう細心の火加減で温める。シャルは横で秒数をカウントし、適温になったところで氷水へドボン。
ジュワッ……。
銅鍋が鳴き、湯気が一気に白い霧へ変わる。立ち上る甘い芳香に、メイドたちの歓声が上がった。
「わあっ、ぶどう畑の真ん中にいるみたい!」
「これがジュースになるんですか!?」
次に真空濃縮だが、錬金術師ギルドから届いたのは、球形フラスコをくるくる回転させる妙な装置。シャルがホースでポンプを繋ぎ、内部を弱真空に保ちながら湯煎で軽く加熱する。
フラスコ内の果汁が薄膜を作って蒸発し、水分が別の受け器に凝縮。残った液体は少しずつ、とろみを帯びた深紅へ変わっていく。
「これ、まるで錬金術ですわね」
シャルが呟くと、ソフィアが笑った。
「お嬢様は“甘味の錬金術師”です」
言い得て妙だ、とアントンも頷く。やがて狙いの濃度に達し、冷却を終えた原液は、グラスに注がれる。琥珀色のワインとは異なる、濃い紫の輝き。
「さあ、テイスティングタイムですわ」
シャルは真剣な面持ちで香りを嗅ぎ、ひとくち含む。――途端、瞳が開いた。
「……ぶどうを丸かじりしたときの香りが、そのまま液体になってますわ!」
ソフィアが恐る恐る口に運び、瞬間、頬を緩めた。
「すごい……! お腹の赤ちゃんが踊ってるみたいに、体がぽかぽかします」
見習いメイドも「甘いけど後味が軽い!」と感嘆。アントンは腕を組み、深く頷く。
「こいつぁ、ワインに匹敵する高級品になりますぜ」
そこへマルグリットが帳簿を抱えて戻ってきた。
「お嬢様、原価計算が出ました。瓶代を含めても、市販の高級ジュースの三分の一で生産できます」
「素晴らしい! ならばラベルをデザインしなくては。名前は……“アルベール・レザン・ロワイヤル”なんていかが?」
フランス語めいた響きにメイドたちが拍手。ソフィアが両手を胸に当てる。
「そのジュースが王都に広まれば、妊婦さんも子どもたちも喜びますね」
シャルはにっこり。
「それが一番ですわ。利益は後からついてくるもの」
その言葉にロベールがどこかでくしゃみしていそうだが、今は気にしない。
長机の上に銅鍋、温度計、濾過布、氷を満たした桶。アントンは腕組みしつつも興味津々で覗き込む。
「お嬢様、ジュースなら普通に搾ればよろしいのでは?」
「ただ搾るだけでは香りが飛びますわ。ポイントは“低温殺菌”と“真空濃縮”!」
シャルは胸を張り、前世で見聞きした食品工場のうんちくを早口で披露する。
要は、果汁を60℃前後で短時間加熱して雑菌を殺し、すぐ氷水で急冷。その後、密閉容器の中で弱い真空をかけながら水分だけを飛ばし、香気成分を逃さず濃縮させるという手順だ。
「そんな魔法みたいな装置、うちにありますかね?」とアントン。
「真空ポンプは錬金術師ギルドから借りますわ。殺菌用の温度管理は……アントン、あなたの腕で何とかなりますでしょう?」
厨房長は豪快に笑った。
「面白い! やってやろうじゃねえか!」
こうして“ジュース革命”の実験がスタートした。
まずは温室裏に仮設された搾汁場で、ぶどうを潰す。ソフィアをはじめ見習いメイドたちが素手で踏み踏み。「赤ちゃんのために!」と張り切るソフィアの笑顔に、現場の士気は最高潮だ。
搾った果汁は銅鍋へ。アントンが温度計をにらみ、60℃を超えないよう細心の火加減で温める。シャルは横で秒数をカウントし、適温になったところで氷水へドボン。
ジュワッ……。
銅鍋が鳴き、湯気が一気に白い霧へ変わる。立ち上る甘い芳香に、メイドたちの歓声が上がった。
「わあっ、ぶどう畑の真ん中にいるみたい!」
「これがジュースになるんですか!?」
次に真空濃縮だが、錬金術師ギルドから届いたのは、球形フラスコをくるくる回転させる妙な装置。シャルがホースでポンプを繋ぎ、内部を弱真空に保ちながら湯煎で軽く加熱する。
フラスコ内の果汁が薄膜を作って蒸発し、水分が別の受け器に凝縮。残った液体は少しずつ、とろみを帯びた深紅へ変わっていく。
「これ、まるで錬金術ですわね」
シャルが呟くと、ソフィアが笑った。
「お嬢様は“甘味の錬金術師”です」
言い得て妙だ、とアントンも頷く。やがて狙いの濃度に達し、冷却を終えた原液は、グラスに注がれる。琥珀色のワインとは異なる、濃い紫の輝き。
「さあ、テイスティングタイムですわ」
シャルは真剣な面持ちで香りを嗅ぎ、ひとくち含む。――途端、瞳が開いた。
「……ぶどうを丸かじりしたときの香りが、そのまま液体になってますわ!」
ソフィアが恐る恐る口に運び、瞬間、頬を緩めた。
「すごい……! お腹の赤ちゃんが踊ってるみたいに、体がぽかぽかします」
見習いメイドも「甘いけど後味が軽い!」と感嘆。アントンは腕を組み、深く頷く。
「こいつぁ、ワインに匹敵する高級品になりますぜ」
そこへマルグリットが帳簿を抱えて戻ってきた。
「お嬢様、原価計算が出ました。瓶代を含めても、市販の高級ジュースの三分の一で生産できます」
「素晴らしい! ならばラベルをデザインしなくては。名前は……“アルベール・レザン・ロワイヤル”なんていかが?」
フランス語めいた響きにメイドたちが拍手。ソフィアが両手を胸に当てる。
「そのジュースが王都に広まれば、妊婦さんも子どもたちも喜びますね」
シャルはにっこり。
「それが一番ですわ。利益は後からついてくるもの」
その言葉にロベールがどこかでくしゃみしていそうだが、今は気にしない。
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