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12話
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「レミィ、背筋を伸ばしなさい!」
会場の隅で、宝石をこれでもかと盛ったドレスに身を包んだレミィの母が、小声で叱咤した。
「だって、お母さま……みんな怖い目で……」
「平民上がりと侮られないよう、今夜で一気に株を上げるのよ。王太子妃になる娘を笑う者など、いずれ黙らせればいい!」
その“黙らせる”第一手として選んだのが、夜会中盤の“デモンストレーション・ワルツ”――貴賓の前で王太子と踊り、優雅さを示す晴れ舞台だ。
だがレミィはダンスを正式に習ったことなどない。貴族のマナー教室に通い始めてまだ三週間、基本ステップすら覚束ないのに、母は「大丈夫、愛があれば!」と豪語した。
愛と根性ではドレスの裾も捌けない。レミィは吐息で胸元の花飾りを震わせた。
「それでは――王太子殿下アルフォンス様と、レミィ・ブランシュ嬢によるワルツを」
司会の声が響き、楽団が軽やかな前奏を奏でる。
アルフォンスが腕を差し出すと、レミィはぎこちなく手を添えた。
ステップ一、二――三で早くも足がもつれる。
「きゃっ!」
裾を踏み、バランスを崩したレミィのヒールが、アルフォンスの軍靴の甲を直撃。王太子の顔が引き攣る。
「あ……あの……っ」
「踊れ」
低く噛み殺した声。アルフォンスの機嫌は連日の政務地獄で底を突いていた。手綱を握るように腰を引き寄せられ、レミィは悲鳴を飲み込む。
だが必死に足を動かすほど、リズムは崩れ、ドレスの裾が絡み、しまいにはペチコートが滑って白い足首が露わに――。
「まぁ!」
「なんてはしたない!」
ざわめきが波紋のように広がった。
演奏は中断、アルフォンスは顔面蒼白。レミィは泣きそうな瞳で王太子を見上げるが、返ってきたのは冷たい囁きだった。
「恥をかかせるな」
楽団が曲を切り替え、司会が「急きょプログラムを変更し――」と取り繕う間に、貴婦人たちは扇子で口元を隠しながら盛大に情報交換を始める。
「やっぱり公爵令嬢シャル様と比べるのは酷ね」
「ええ、シャル様はワルツの女王と謳われた方。立ち姿だけで芸術だったわ」
「王太子殿下は宝石を手放し、ガラスの欠片を掴んだのね」
刺すような言葉がレミィの耳にも届く。視界が滲み、床が揺れた。
そのとき、母が駆け寄ってきて囁く。
「大丈夫、すぐ記者に記事を書かせるわ。『庶民派王太子妃、気取らず転び愛らしい』って」
「お母さま、それ褒め言葉に聞こえません……」
しかし翌朝、母の“対策”は裏目に出る。買収したはずのゴシップ紙は、かえって粗探しに精を出し、《無教養令嬢の大失態》と煽り立てた。社交界のグループチャット――じゃなくて伝書鳩ネットワークでは、紙面の挿絵が拡散され、一晩でレミィは“王都最新の笑い種”となる。
会場の隅で、宝石をこれでもかと盛ったドレスに身を包んだレミィの母が、小声で叱咤した。
「だって、お母さま……みんな怖い目で……」
「平民上がりと侮られないよう、今夜で一気に株を上げるのよ。王太子妃になる娘を笑う者など、いずれ黙らせればいい!」
その“黙らせる”第一手として選んだのが、夜会中盤の“デモンストレーション・ワルツ”――貴賓の前で王太子と踊り、優雅さを示す晴れ舞台だ。
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愛と根性ではドレスの裾も捌けない。レミィは吐息で胸元の花飾りを震わせた。
「それでは――王太子殿下アルフォンス様と、レミィ・ブランシュ嬢によるワルツを」
司会の声が響き、楽団が軽やかな前奏を奏でる。
アルフォンスが腕を差し出すと、レミィはぎこちなく手を添えた。
ステップ一、二――三で早くも足がもつれる。
「きゃっ!」
裾を踏み、バランスを崩したレミィのヒールが、アルフォンスの軍靴の甲を直撃。王太子の顔が引き攣る。
「あ……あの……っ」
「踊れ」
低く噛み殺した声。アルフォンスの機嫌は連日の政務地獄で底を突いていた。手綱を握るように腰を引き寄せられ、レミィは悲鳴を飲み込む。
だが必死に足を動かすほど、リズムは崩れ、ドレスの裾が絡み、しまいにはペチコートが滑って白い足首が露わに――。
「まぁ!」
「なんてはしたない!」
ざわめきが波紋のように広がった。
演奏は中断、アルフォンスは顔面蒼白。レミィは泣きそうな瞳で王太子を見上げるが、返ってきたのは冷たい囁きだった。
「恥をかかせるな」
楽団が曲を切り替え、司会が「急きょプログラムを変更し――」と取り繕う間に、貴婦人たちは扇子で口元を隠しながら盛大に情報交換を始める。
「やっぱり公爵令嬢シャル様と比べるのは酷ね」
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「王太子殿下は宝石を手放し、ガラスの欠片を掴んだのね」
刺すような言葉がレミィの耳にも届く。視界が滲み、床が揺れた。
そのとき、母が駆け寄ってきて囁く。
「大丈夫、すぐ記者に記事を書かせるわ。『庶民派王太子妃、気取らず転び愛らしい』って」
「お母さま、それ褒め言葉に聞こえません……」
しかし翌朝、母の“対策”は裏目に出る。買収したはずのゴシップ紙は、かえって粗探しに精を出し、《無教養令嬢の大失態》と煽り立てた。社交界のグループチャット――じゃなくて伝書鳩ネットワークでは、紙面の挿絵が拡散され、一晩でレミィは“王都最新の笑い種”となる。
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