婚約破棄されたので頑張るのをやめました 〜昼寝と紅茶だけの公爵令嬢なのに、なぜか全部うまくいきます〜あ

鍛高譚

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17話

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 表彰式の後、王宮庭園のティーテラス。
 秋薔薇が咲き誇り、噴水の水音が涼やかに響く。シャルは持参した菓子箱を開け、雲のようにふわふわのシフォンケーキを皿に載せた。

「お口に合うと良いのですけれど」

 王妃がフォークでひと切れ掬い、唇に運ぶ。瞬間、瞳がとろんと緩んだ。

「まぁ……本当に雲みたい。軽やかなのに卵のコクがしっかり。ベルガモットの香りも……!」

 給仕長が慌ててメモを取り、次いで国王も大口で頬張る。
 「うむ、頬が落ちそうだ。これを宮廷晩餐のデザートに採用したいが、良いか?」
 「レシピをお渡ししますわ。でも作り手の腕が大事ですから、厨房の皆さまに頑張っていただかなくては」

 “頑張らない”が座右の銘の令嬢が、他人にはサラリと頑張りを要求する。給仕長は「精進いたします……!」と震えた。

 テーブルの向こうでは、庭師の少年がジュース瓶を運んでいる。陽光に透ける紫が宝石のようだ。シャルは一口すすり、ふと思い出したように尋ねた。

「ところで陛下、午後五時には領地に戻りたいのですが――猫の晩ごはん当番がありますの。表敬訪問は何時頃までかしら?」

 国王は椅子の背でもたれ、肩をすくめた。

「そなたのスケジュールが第一だ。……ティーが冷めたら帰るがよい」

「ありがとうございますわ。では遠慮なく」

 シャルはカップを傾け、深く香りを吸い込む。王妃が楽しげに微笑み、侍女たちが追加の菓子を並べる。
 秋風が薔薇の香りを運び、テラスはほんのり甘い空気に包まれた。


その後、シャルは予定通り夕刻前に王宮を辞した。
 馬車が城門を出る頃、彼女は窓から王都の街並みを眺め、ふわぁと欠伸を漏らす。

「表彰式もティータイムも堪能しましたし……帰ったら仮眠ですわね」

 対面席のマルグリットが苦笑する。

「お嬢様、本日だけで勲章と王家公認の称号を二つも――」

「でも一番の収穫は、王妃がシフォンを気に入ってくださったことですわ。あれで厨房もますます張り切るでしょうし、わたくしのティータイムが充実しますもの」

 やはり最優先は自分の“おやつと昼寝”。
 馬車の揺れが子守歌となり、シャルはコクリと船を漕ぎ始めた。マルグリットはそっと膝掛けを掛け、外の夕焼け空を見上げる。

 ――国王の厚遇も、王妃の信頼も、彼女にとっては“おいしいスコーンのおまけ”くらいの軽さなのだろう。
 だが、その軽やかさこそが周囲を救い、国まで動かす。
 アルベール領の怠惰令嬢は、今日もまた自由気ままに微笑みながら、理想の未来へ歩みを進めていた。


 王都の朝は、秋晴れの空を渡る雁の列とともに始まった。けれど公爵令嬢シャル・ド・ネ・アルベールの一日は、まだ羽根布団の中でくるまれたまま——。

「お嬢様、朝でございます」
「やめて……今、雲になって浮かんでいるところなの……」

 侍女長マルグリットの必死の声も、ふわふわ夢心地の前には無力だ。
 だが「国王陛下より至急の召喚状です!」という一言で、シャルは片目だけ開けた。枕元に差し出された巻紙には、真紅の王印が燦然と輝いている。

「……午後一時の謁見? ならば十二時起床で間に合いますわね」
「い、いえ、通常は午前中に王宮へ——」
「“通常”と“わたくし”は両立しませんのよ、マルグリット」

 結局、召喚状が届いた当日の午前は“睡眠確保”に費やされ、出立は正午きっかり。寝起き十五分で結ったゆるふわシニヨン、淡桃色のドレス、その胸元には「目立たぬ程度に」と言いつつ収穫祭でもらった花のブローチ——本人は“省エネ正装”のつもりだが、街道を行く馬車の窓から見える庶民は目を奪われ、手を振っていた。
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