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第3章:はじめての領地視察と新たな出会いな出会い
18話
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伯爵家を出発して数日後の朝、わたし――ルシア・ヴェルデンハルトは、父の領地の一部である小さな村へ向かう馬車の中にいました。
同行しているのは、信頼できる家臣のグレゴリーと、護衛役の騎士数名、それに荷馬車を操る御者とメイド数名です。大がかりな行列ではありませんが、わたし一人だけでは危険もあるため、父が十分な人数を用意してくれました。わたしは馬車の窓から外の景色を眺めながら、これから向かう村での出来事に少し胸を弾ませていました。
というのも、わたしは今回の領地視察を通じて、実際に村人たちの声を聞き、不作が続く原因を探りたいと考えていたからです。
以前までのわたしは、王太子妃になることを見据えて宮廷行事に出るばかりで、こんなふうに領地の問題に直接関わる機会はほとんどありませんでした。けれども今は、婚約破棄を経て伯爵家の娘として生きる道を考え直し、自分にできることを探そうとしている最中です。
父から「領地の視察を手伝ってほしい」と頼まれたとき、緊張はしましたが、同時に「わたしにも役立てることがあるかもしれない」と感じ、快く引き受けたのです。
馬車の旅と見えてきた風景
伯爵家の屋敷を出発してから、一行は街道をひたすら進みました。最初の二日ほどは大きな町をいくつか通り抜け、そこで宿を借りたり、食事の調達を行ったりしながら旅を続けてきたのです。
道中、わたしはグレゴリーとともに地図を確認し、次に通る街道や村の名前を覚えようとしました。地図だけではわからない地形や気候の特徴など、彼が丁寧に教えてくれるため、とても勉強になります。たとえば「このあたりは大河から水を引いているから農業が盛んだ」とか、「逆にこっちの地域は山あいで土壌が痩せているから、家畜を飼うのが主流だ」など、実にさまざまな情報があるのです。
わたしは窓の外の田畑や山々を見ながら、「こんなにいろいろな地形があるのだな」と改めて感心しました。伯爵家の領地はそこまで広大というわけではありませんが、それでも数日かけて移動しなければならないほど、ある程度の広さを持っています。
遠くには、緩やかに連なる山々が見え、川沿いには青々とした畑が広がっていました。ところどころで牛や羊を放牧している農家の姿も見え、のどかな雰囲気が漂っています。しかし、その一方で雑草が生い茂った荒地や、廃屋のようになっている小屋が目につく場所もあり、すべてが豊かというわけではなさそうでした。
「お嬢様、道中は疲れませんか? よろしければ、短い休憩を取りましょうか。」
少し揺れる馬車の中で、グレゴリーが声をかけてきました。彼はわたしより年上ですが、どこか落ち着いた雰囲気を持ち、常に周囲に目を配ってくれる頼もしい存在です。わたしは彼の申し出に微笑んで返事をしました。
「大丈夫よ、ありがとう。わたしは平気だから、予定どおり村に向かいましょう。でも、護衛の方々や馬たちも疲れていないか、確認をお願いできるかしら?」
グレゴリーは「承知しました」とすぐに頷き、馬車を少し先の街道脇に止めるよう御者に指示しました。みんなの様子を見て問題がなければ、すぐに再出発するつもりです。
わたしは馬車から降り、軽く体を動かしながら、涼しい風に吹かれて大きく深呼吸をしました。木の枝に止まる小鳥のさえずりが穏やかで、都や宮廷の喧噪とはまったく違う静けさを感じます。
「こんなふうに旅をするのも初めてかもしれない。今までは、宮廷行事や社交の場に出るために馬車に乗ることはあっても、領地を巡るための旅なんて想像もしていなかったわ。」
自分でそんなことを呟きながら、少しだけ切ない気持ちにもなりました。
もし婚約破棄がなければ、わたしは王太子妃として宮廷の華やかな暮らしを送っていたのかもしれない。それを思うと、いまだに胸が痛むのは事実です。でも、こうして自然豊かな土地を見ていると、「王太子妃という肩書きがない今のほうが、視野が広がっていいのでは?」と思う自分もいるのです。
わたしの心はまだ整理しきれていませんが、それでも新しい一歩を踏み出せていると感じるだけで、少し前向きになれました。
同行しているのは、信頼できる家臣のグレゴリーと、護衛役の騎士数名、それに荷馬車を操る御者とメイド数名です。大がかりな行列ではありませんが、わたし一人だけでは危険もあるため、父が十分な人数を用意してくれました。わたしは馬車の窓から外の景色を眺めながら、これから向かう村での出来事に少し胸を弾ませていました。
というのも、わたしは今回の領地視察を通じて、実際に村人たちの声を聞き、不作が続く原因を探りたいと考えていたからです。
以前までのわたしは、王太子妃になることを見据えて宮廷行事に出るばかりで、こんなふうに領地の問題に直接関わる機会はほとんどありませんでした。けれども今は、婚約破棄を経て伯爵家の娘として生きる道を考え直し、自分にできることを探そうとしている最中です。
父から「領地の視察を手伝ってほしい」と頼まれたとき、緊張はしましたが、同時に「わたしにも役立てることがあるかもしれない」と感じ、快く引き受けたのです。
馬車の旅と見えてきた風景
伯爵家の屋敷を出発してから、一行は街道をひたすら進みました。最初の二日ほどは大きな町をいくつか通り抜け、そこで宿を借りたり、食事の調達を行ったりしながら旅を続けてきたのです。
道中、わたしはグレゴリーとともに地図を確認し、次に通る街道や村の名前を覚えようとしました。地図だけではわからない地形や気候の特徴など、彼が丁寧に教えてくれるため、とても勉強になります。たとえば「このあたりは大河から水を引いているから農業が盛んだ」とか、「逆にこっちの地域は山あいで土壌が痩せているから、家畜を飼うのが主流だ」など、実にさまざまな情報があるのです。
わたしは窓の外の田畑や山々を見ながら、「こんなにいろいろな地形があるのだな」と改めて感心しました。伯爵家の領地はそこまで広大というわけではありませんが、それでも数日かけて移動しなければならないほど、ある程度の広さを持っています。
遠くには、緩やかに連なる山々が見え、川沿いには青々とした畑が広がっていました。ところどころで牛や羊を放牧している農家の姿も見え、のどかな雰囲気が漂っています。しかし、その一方で雑草が生い茂った荒地や、廃屋のようになっている小屋が目につく場所もあり、すべてが豊かというわけではなさそうでした。
「お嬢様、道中は疲れませんか? よろしければ、短い休憩を取りましょうか。」
少し揺れる馬車の中で、グレゴリーが声をかけてきました。彼はわたしより年上ですが、どこか落ち着いた雰囲気を持ち、常に周囲に目を配ってくれる頼もしい存在です。わたしは彼の申し出に微笑んで返事をしました。
「大丈夫よ、ありがとう。わたしは平気だから、予定どおり村に向かいましょう。でも、護衛の方々や馬たちも疲れていないか、確認をお願いできるかしら?」
グレゴリーは「承知しました」とすぐに頷き、馬車を少し先の街道脇に止めるよう御者に指示しました。みんなの様子を見て問題がなければ、すぐに再出発するつもりです。
わたしは馬車から降り、軽く体を動かしながら、涼しい風に吹かれて大きく深呼吸をしました。木の枝に止まる小鳥のさえずりが穏やかで、都や宮廷の喧噪とはまったく違う静けさを感じます。
「こんなふうに旅をするのも初めてかもしれない。今までは、宮廷行事や社交の場に出るために馬車に乗ることはあっても、領地を巡るための旅なんて想像もしていなかったわ。」
自分でそんなことを呟きながら、少しだけ切ない気持ちにもなりました。
もし婚約破棄がなければ、わたしは王太子妃として宮廷の華やかな暮らしを送っていたのかもしれない。それを思うと、いまだに胸が痛むのは事実です。でも、こうして自然豊かな土地を見ていると、「王太子妃という肩書きがない今のほうが、視野が広がっていいのでは?」と思う自分もいるのです。
わたしの心はまだ整理しきれていませんが、それでも新しい一歩を踏み出せていると感じるだけで、少し前向きになれました。
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