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第2章 舞踏会の夜、伯爵令嬢は嘲笑される
16話
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公爵令息との邂逅
そんなとき、背後からひそひそとした会話が耳に入る。
「公爵家の令息が到着したらしいわよ。」「きっと今日の舞踏会の主役ね。」「だってあの家は王族にも連なる名門よ……」
聞けば、ガイ・アルノー・ヴェルドル公爵家の長男が留学先から戻り、今回の舞踏会に顔を出すのだとか。王家に次ぐ影響力を持つ名門公爵家であり、その令息も有能だという噂がある。しかし、性格に難ありという声も。
(……ふうん、公爵令息。どうせ “伯爵家ごとき” って思ってるんでしょう?)
サラはまったく期待していない。実際、周囲の貴族令嬢が「公爵令息が来るなら、挨拶したいわ」「わたしこそ先に話をして繋がりを作るんだわ」と色めき立っているのを見ると、むしろ呆れが込み上げてくる。
やがて、重厚な扉が開いて、長身の青年が姿を現した。背筋を伸ばし、自信に満ちた目つきで周囲を見回している。公爵家の紋章があしらわれた衣装をまとい、黒髪をオールバック風に整え、鋭い瞳が印象的だ。
フロアの人々がちらほらと彼の周囲に集まっていく。それに対して、彼は当然のようにあいさつを受ける形で応じる。令嬢たちはお辞儀をし、彼に笑顔を向ける。何人かは「いつかお目にかかりたいと思っておりましたわ」と媚びるような口調だ。彼は「そうか」と短く答えるだけ。
サラはフロアの端から、その様子を眺めていた。
「なるほど。……あれが公爵令息ね。確かに家柄は立派そうだけど……」
彼がどんな人物であれ、サラには興味がない。――しかし、このあと父や母に引っ張られて紹介の場を強制される可能性がある。そう思うと少し嫌な予感がした。
案の定、サラがグラスを置いたタイミングで、父と母が息を切らせて小走りに近づいてきた。
「サラ、行くぞ。公爵令息と話す機会を作ってきたからな!」
「ほら、早くこっちへ!」
母も満面の笑みで腕を引っ張ってくる。サラは「え、ちょ、待って」と言いつつ、嫌々ながら公爵令息の周囲へ。そこには彼と談笑していた数名の上流貴族がいて、レティシア伯爵が割り込む形でサラを紹介する。
「ガイ・アルノー殿、こちらが私の娘、サラ・レティシアでございます。」
父は少し緊張気味の声で告げる。それに対して公爵令息――ガイは、上から下までサラを値踏みするように眺めると、鼻で笑うような仕草をした。
「……伯爵家、ね。」
わずかに口元を歪める。まるで「伯爵家ごときがなんだ」と言わんばかりだ。
「これはご丁寧にどうも。……で、お嬢様のお名前は?」
「あの、サラ・レティシアと申します。今宵ははじめまして。」
サラは形式上の礼儀として軽く頭を下げる。ガイは「はじめまして」と言いながらも、視線をそらしている。どう見ても相手にする気はないらしい。
父は必死で話を盛り上げようとする。
「サラはまだ十七ですが、聡明な娘でしてな。容姿もなかなか……」
だがガイは興味がないのか、すぐに話を切ってしまう。
「伯爵、あなたもわかっているでしょうが、うちの家と伯爵家では……うん、格が違う。それに私には多くの縁談が舞い込んでいるものでね。無理に押しかけられても困るんだが?」
その物言いに、サラの父は「いえ、無理に押しかけるつもりはないが、よろしければご挨拶だけでも……」と歯切れが悪くなる。周囲の貴族たちがクスクスと笑う声が聞こえる。
「やっぱり伯爵家なんて、眼中にないんじゃない?」
「公爵家に比べたら……ねえ?」
母は唇を噛んで恨めしそうな表情だ。一方、サラは内心うんざりしていた。
(……もうやめようよ、こんな無駄な会話。わたしも興味ないし。)
そんな空気を察してか、ガイは最後にサラの顔を見て、少しだけ嘲笑めいた笑みを浮かべた。
「――ま、せいぜい舞踏会を楽しむことだね。伯爵令嬢さん。」
言い捨てて、彼は他の貴族令嬢の方へすたすたと歩いていってしまう。まるで何かの用事を思い出したかのように、興味も示さずに去っていく。
父は赤面して怒りを抑えているのがわかる。母は悔しそうだ。周囲からは冷たい視線が突き刺さる。
「……もういいですわ、お父様、お母様。わたし、少し休憩してきます。」
サラはその場を離れ、グラスを取りに給仕の方へ向かった。
そんなとき、背後からひそひそとした会話が耳に入る。
「公爵家の令息が到着したらしいわよ。」「きっと今日の舞踏会の主役ね。」「だってあの家は王族にも連なる名門よ……」
聞けば、ガイ・アルノー・ヴェルドル公爵家の長男が留学先から戻り、今回の舞踏会に顔を出すのだとか。王家に次ぐ影響力を持つ名門公爵家であり、その令息も有能だという噂がある。しかし、性格に難ありという声も。
(……ふうん、公爵令息。どうせ “伯爵家ごとき” って思ってるんでしょう?)
サラはまったく期待していない。実際、周囲の貴族令嬢が「公爵令息が来るなら、挨拶したいわ」「わたしこそ先に話をして繋がりを作るんだわ」と色めき立っているのを見ると、むしろ呆れが込み上げてくる。
やがて、重厚な扉が開いて、長身の青年が姿を現した。背筋を伸ばし、自信に満ちた目つきで周囲を見回している。公爵家の紋章があしらわれた衣装をまとい、黒髪をオールバック風に整え、鋭い瞳が印象的だ。
フロアの人々がちらほらと彼の周囲に集まっていく。それに対して、彼は当然のようにあいさつを受ける形で応じる。令嬢たちはお辞儀をし、彼に笑顔を向ける。何人かは「いつかお目にかかりたいと思っておりましたわ」と媚びるような口調だ。彼は「そうか」と短く答えるだけ。
サラはフロアの端から、その様子を眺めていた。
「なるほど。……あれが公爵令息ね。確かに家柄は立派そうだけど……」
彼がどんな人物であれ、サラには興味がない。――しかし、このあと父や母に引っ張られて紹介の場を強制される可能性がある。そう思うと少し嫌な予感がした。
案の定、サラがグラスを置いたタイミングで、父と母が息を切らせて小走りに近づいてきた。
「サラ、行くぞ。公爵令息と話す機会を作ってきたからな!」
「ほら、早くこっちへ!」
母も満面の笑みで腕を引っ張ってくる。サラは「え、ちょ、待って」と言いつつ、嫌々ながら公爵令息の周囲へ。そこには彼と談笑していた数名の上流貴族がいて、レティシア伯爵が割り込む形でサラを紹介する。
「ガイ・アルノー殿、こちらが私の娘、サラ・レティシアでございます。」
父は少し緊張気味の声で告げる。それに対して公爵令息――ガイは、上から下までサラを値踏みするように眺めると、鼻で笑うような仕草をした。
「……伯爵家、ね。」
わずかに口元を歪める。まるで「伯爵家ごときがなんだ」と言わんばかりだ。
「これはご丁寧にどうも。……で、お嬢様のお名前は?」
「あの、サラ・レティシアと申します。今宵ははじめまして。」
サラは形式上の礼儀として軽く頭を下げる。ガイは「はじめまして」と言いながらも、視線をそらしている。どう見ても相手にする気はないらしい。
父は必死で話を盛り上げようとする。
「サラはまだ十七ですが、聡明な娘でしてな。容姿もなかなか……」
だがガイは興味がないのか、すぐに話を切ってしまう。
「伯爵、あなたもわかっているでしょうが、うちの家と伯爵家では……うん、格が違う。それに私には多くの縁談が舞い込んでいるものでね。無理に押しかけられても困るんだが?」
その物言いに、サラの父は「いえ、無理に押しかけるつもりはないが、よろしければご挨拶だけでも……」と歯切れが悪くなる。周囲の貴族たちがクスクスと笑う声が聞こえる。
「やっぱり伯爵家なんて、眼中にないんじゃない?」
「公爵家に比べたら……ねえ?」
母は唇を噛んで恨めしそうな表情だ。一方、サラは内心うんざりしていた。
(……もうやめようよ、こんな無駄な会話。わたしも興味ないし。)
そんな空気を察してか、ガイは最後にサラの顔を見て、少しだけ嘲笑めいた笑みを浮かべた。
「――ま、せいぜい舞踏会を楽しむことだね。伯爵令嬢さん。」
言い捨てて、彼は他の貴族令嬢の方へすたすたと歩いていってしまう。まるで何かの用事を思い出したかのように、興味も示さずに去っていく。
父は赤面して怒りを抑えているのがわかる。母は悔しそうだ。周囲からは冷たい視線が突き刺さる。
「……もういいですわ、お父様、お母様。わたし、少し休憩してきます。」
サラはその場を離れ、グラスを取りに給仕の方へ向かった。
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